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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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11.魔王発見!?



 門の前から見る魔王城(仮)は壮大であった。白磁の壁に玉ねぎのような形の屋根、所々に緑色の布に鳥の紋様の入った国旗のようなものがたなびいている。石畳も壁も道の脇に植えられている樹も、どれも掃除が行き届いているのか綺麗で、きちんと整えられている。そして、やはり街と同じように活発に行き交う人々の姿があった。

 結界に入ってからこのお城にたどり着くまで、結局魔物の襲撃は無かった。むしろ約七十年前に魔物に襲われたというのも嘘なのではないかと思えるほど、街には壊れた跡も血などが付いたような跡も見当たらなかった。ただそこに住む人々の様子が奇妙である、という点を除けば、どこにでもある普通の街の風景だ。


 お城に入る門の横に槍を構えて立ち並ぶ二人の門兵を交互に見、やはり目線は合わなかったので、門兵も街の人と同じなのかと思い門を通り抜けようとしたその時、突然私の目の前でガシャンと二つの槍がX状に打ち合わせられた。

 「はあっ!?」と思わず声を上げつつ、反射的に数歩下がると、私よりも先に門を通っていた他の三人が何事かと振り返る。そして門兵に入門を阻まれた私を見たお嬢様は、「まあ、あなた怪しいものねぇ……」と納得顔で頷いていた。ここへ来ての意趣返しか! 確かに、未だマントで顔覆ってますけども!


 これが魔王の罠か! この後に何が!? と周りをきょろきょろしていると、いきなりXになっていた槍が解かれ、開かれたそこを、私の後ろにいたらしいターバンを巻いた商人らしき男がへこへこしながら通り抜けていく。その際、商人が門兵の手に何か握らせるのが見えて……こ、これはもしや、賄賂!? こんなところで犯罪を目撃してしまうとは!

 ちなみに、このことは誰に告発すればいいのだろうか? やっぱり魔王様? 「ようやくたどり着いたぞ、お前の悪事もここまでだ魔王! 覚悟しろ! あ、そういえばさっきお前のところの門兵が賄賂を受け取っていたぞ! ちゃんと取り締まれ!」って、な か よ し か!


 しかし、こうやって密かに人の行動観察すんの楽しいなぁ。今度シューミナルケアでも、ひっそりと姿を消してやってみよう! と、よからぬ趣味に目覚めそうになりつつも、今度は何事もなく無事に門番の横を通り過ぎ、私達は城門の中へと足を踏み入れた。



 城門の内側も街と変わらず賑やかだった。列を作って行進をしている兵士達に、果物や野菜を積んで通り過ぎる馬車、楽しそうに話しながら歩いている侍女らしき女の人、など、活気に満ちた光景が広がっている。

 気の抜けるような日常的な様子に、私達はますます警戒を強めつつ、若干みんなで身を寄せ合うようにしながら、いよいよ城の建物の中へと歩みを進めた。


 城内は外に比べれば静かだったが、それでも行き交う文官のような人に、シーツを抱えたり、ワゴンを押したりする侍女のような人達が動き回っていた。魔王城っぽい要素などどこにもなく、綺麗に磨き上げられた床に、所々に置かれた高価そうな調度品。窓の外には大切に育てられているのがよく分かる大きな樹が、空へと青々とした枝を広げていた。


 そんな周囲を油断なく見回しながら、先を行く執事さんとお嬢様の後について歩いて行くと、たどり着いたのは重厚そうな巨大な両開きの扉の前だった。扉の両脇にはビシッと体の横に槍を構えた兵士が立っており、今まで通ってきた部屋とは異なる雰囲気を醸し出している。

 その重そうな扉を、執事さんと私――どうせこんなこったろうと思ったよ!――が体全体を使って両側から押し開けていく。ギ、ギと音を上げていた扉は、ある程度開くとスムーズに動き、やがて開ききったところで停止した。


 ぜいぜいと肩で息をしながら私が見たものは、鏡のようにピカピカの床が敷かれた広大な広間の奥に、一段高くなっている場所があり、そこに備え付けられた三つの椅子。真ん中にひときわ装飾の多い凝ったつくりの椅子があり、その両サイドにもかなり煌びやかな椅子が置かれている。その真ん中の椅子には、色とりどりの宝石を身に纏い、マントを羽織り髭を蓄えた高齢の男性が腰かけており、その右側には小学生の高学年くらいの男の子、左側には男性より少し若く上品そうな女性が座っていた。見た感じでは、真ん中の人が王様で、右の子どもが王子――いや、年齢的に王孫? 遅くに出来た王子?――で、左の女の人が王妃だろう。

 そして、彼らの背後には腰に剣を差した壮年くらいの男性が並び、椅子のあるところから一段下りた場所には、手に巻物などを持った何人もの人が縦一列に並んでいた。彼らは、王の前に進み出て礼をとり、巻物を広げて何やら読み上げている。それが終わると、それを聞いた王が何事か答え、読み上げた人がまた礼をして王の前を辞し、その次の人が一歩前に出て同じように礼をして……ということを行っているようだ。読み上げる人の話の内容は分からないけど、何かの報告か嘆願だと思う。

 

 真ん中の椅子に座る王様は、やっぱり普通の人間の王様のようで、魔王そうな凶悪さは感じられないし、並んでいた人達に触ろうとするもやはりすり抜けてしまい、瘴気も感じられないことから魔物というわけではなさそうだ。

 部屋をぐるりと見回し、ここに魔王はいなさそうだと思いつつも、感じた違和感に、ん? と首を傾げていると。


 突然手に抜身の剣を持った執事さんが、吹き抜けるようなスピードで王座へと駆け出し、王様の右側に座っていた男の子に向かって剣を振り上げた。その行動に驚きつつも、どうせすり抜けるのでは、と思ったのだけど、執事さんの剣は彼に触れる前に、彼を庇うように現れた四角い盾のような黒い結界によって阻まれた。キンと高い音が広間に響き渡る。


 と、黒い盾が生じた瞬間に、広間にいた人々がすうっと空気に溶けるように消えていき、そこに残っていたのは、私とお嬢様とジオリア君、そして執事さんと彼が斬りかかった、未だ椅子に座ったままの男の子だけだった。


 いきなり刃を向けてきた執事さんにも反応をせずに、男の子はぼんやりと先ほどまで報告などを読み上げていた人達の列があった場所を見ていた。

 そんな彼に、執事さんはぎりっと歯を噛み締めたかと思うと、一度剣を引き、今度は横から少年を斬りつける。が、またしても黒い盾が出現してその刃を受け止めた。


「な、何をしているんだ!」


 執事さんの突飛な行為に付いて行けず固まっていた私達だったけど、そこでようやく我に返り、ジオリア君が執事さんに向かって声をあげた。

 その声に、執事さんは男の子から数歩離れ、忌々しそうな顔で男の子を睨みつけたまま、剣先を男の子に向けて言い放つ。


「見た目に騙されないで下さい。こいつが魔王です」



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