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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
64/75

7.全力で駆除します!

 随分と間が空いてしまい、申し訳ありませんm(__)m




「す、砂ゴキの群れだ!」


 そのまま、ぶんぶんと刃物を振り回すジオリア君にハラハラしながらラクダを歩かせていると、魔術で周囲を警戒していた兵士の一人が、途端に緊迫した声を上げた。その声に、急いでラクダを降りた兵士の人達が、見張りの人が指差した方を見ながら臨戦態勢を整える。

 その名前を聞いただけで、私の体におぞぞぞぞぞと怖気が走った。


 “砂ゴキ”とは名前の通り砂漠の地に群れで生息し、砂漠を通りかかる他の生き物を襲って食べる魔物だ。その体は頭の触角を除いて五メートルほどで、砂色の体に金属のような光沢を放つ、日本でおなじみの家庭用害虫まんまの姿だ。初めて奴のことを知ったとき、おのれ砂漠でも繁殖しやがるとは恐るべし生命力、なんでこの世界にはゴキブリホ○ホイや殺虫スプレーやバル○ンが無いんだ! と絶望にむせび泣いたほどだ。

 体は鋼のように固く、剣などでもなかなか傷をつけられないし、鋭い刃の付いた肢を振り回したり、口から酸のような溶解液を相手に浴びせたりという攻撃を仕掛けてくる、非常に厄介な相手なのだ。まあ、魔術耐性は低いので、魔術で攻撃するのが一般的、なのだとか。

 し、しかも飛ぶ! 飛距離はあまり長くないけど、不気味な茶色い翅を広げて飛んでくるらしい。もうヤダ絶対そいつらに遭遇したくない! と天にも祈ったというのに!


 ジオリア君は任せろ! とばかりにひらりとラクダから飛び降りた。私はというと、お、降りたくない……とガクガクする腕で必死にラクダにしがみ付いていた。このままラクダを奪って逃走したいが、ラクダを操れない私にそれは極めて難しい。間違った操作をしてしまって、ラクダが砂ゴキの群れに突っ込むなんてことはもはやお約束だろう。もしそんなことになったら……昇天確実だ。

 こうなったら、殺られる前に殺ってやる! 来るなら来いやぁ! と覚悟を決めて、そろそろとラクダを降りた。


 いっそお嬢様が何とかしてくれれば……とお嬢様の方をちらりと見れば、お嬢様お手をどうぞ、と執事に手を差し伸べられて優雅にラクダから降りていた。日傘が風に煽られて、降りにくそうではあったけど。とりあえずすぐに何とかしてくれる気は無さそうだ。


 なんて私がガクブルしている間にも、魔王討伐隊の間にじわじわと緊張感が増していく。分かる、分かるよその恐怖! 見たくもないもんね!


 そんな中、砂漠の地平線の向こうに、砂埃が舞い上がっているのが目視できるようになってきた。それはやがて大きな黄土色の壁のように立ち上がり、徐々にザザザザザザという奇妙な音まで聞こえ出す。冥界の波音のようだ。

 誰もが固唾を飲んでその様子を見守っていると、ついに砂ゴキの生理的に受け付けない姿が目に届くようになってきた。舞い散る砂に混じって鈍く光る背中の辺りが見え、それから徐々に体の全体が現れる。光を浴びて艶やかにテカーンと輝く体、硬く鋭い刃の付いた肢、伸びる触角と不気味な顔(?)。デカいだけに見たくもないものが細部まで見えて、それらがギチギチと動くのに、イヤアアァァ!! と全身の毛が逆立つ。

 一つの群れ数十体の個体が横一列に並んで砂を巻き上げる様子は、さながら風の○のナ○シカのオー○が押し寄せるあの瞬間のようだ。いや、この場合にその例えは失礼かもしれませんが。てか、ナ○シカって、よくあんな群れの真正面に立てたよね。あんな威圧感のある壁が眼前に迫ってきたら、私なら速攻で逃げそう。何かもう、見てるだけで具合が悪くなってきた。


 砂ゴキの壁が近づいて来るにつれ、それぞれが武器を構え、また魔術の用意をしている。お嬢様も緊張の面持ちで砂ゴキを睨みつけながら、呪文を唱えている。が、まだ誰も何もしない。砂ゴキがある程度近づくのを待っているのだろう。魔術にも射程距離があるし、剣なんかは接近しないと攻撃できないからね。

 でも、私には我慢できなかった。だってあんなデカいゴキの群れが近くに来たら、恐怖で動けなくなるわよ。ここはやはり近づかせないのが一番だ。倒し方は一般のゴキと同じ。自分は完全防備をして、出来る限り近づかないで強烈な一撃を放つ。出来れば姿を見る前に殺ってしまいたかったけれど、見えなきゃ攻撃が出来ないからね。砂漠全体を焦土とするわけにもいかないし。


「竜巻、光の刃」


 あまり大きくない声で、そう呟いた。

 途端、私達と砂ゴキのちょうど中間辺りに、風が大きくゆっくりと渦を巻き始める。初めは僅かな風だったが、それが徐々に勢いを増し、厚い風の壁が砂を巻き込みながら回転を強め、龍が天に上るかのようにゆらゆらと左右に揺れながら空へと立ち昇っていく。やがて直径五十メートルほどの竜巻が、大地と空を繋ぐ柱のようにそびえ立った。轟轟と風が鳴り、私達のマントをバタバタと揺らす。


 お嬢様やジオリア君を含めた魔王討伐隊の面々は、一体何が起こっているのか分からずぽかんとした顔で竜巻を見上げている。そんな彼らに構わず、私は竜巻を砂ゴキに向かって前進させた。砂漠を舐めるように竜巻が奴らに迫っていく。

 目の前に現れた竜巻の柱に構わず進み続けていた砂ゴキは、竜巻にぶち当たった前方のやつから地面から引っぺがされ、なすすべもなく竜巻の中をグルグルと回って、上の方へと昇っていく。列の真ん中に竜巻が突っ込み、次々と砂ゴキを持ち上げては渦の中に巻き込んでいく様子は、さながら大きな乾燥機の中の洗濯物のようだ。ぐ~るぐ~るぐ~るぐ~る……うっ、見てる方が気持ち悪くなってきた。

 列の端にいて一見難を逃れたように見えた砂ゴキも、竜巻が左右に移動し一匹残らず飲み込んでいく。


 やがてすべての砂ゴキを柱の中に閉じ込めた竜巻は、またゆっくりと前進をはじめ、砂ゴキが姿を現した砂漠の向こうへと消えて行った。

 その竜巻が上部しか見えなくなるほど離れた頃、私はふーやれやれと全身の力を抜いた。もうね、あの距離で見ただけでも鳥肌もんですよ、あれは。


 密かに安堵の笑みを浮かべていたつもりだったが、よっぽどドヤ顔をしていたのだろう。ジオリア君やお嬢様、討伐隊の皆様がそろってこちらを見ていた。まあ、誤魔化したとしても、じゃあ誰が!? って騒動になるだけだし、ここはひとつ魔法の言葉でまとめておこう。


「風の精霊様のお力です」


 マントの下で厳かぶってそう言えば、討伐隊の皆様からはなーんだ、とほっとした気配が伝わってくる。ジオリア君は「僕の活躍の場が!」と残念そうだし、お嬢様はふんっとご機嫌斜めそうに顔を背けている。

 そして、そのお嬢様の隣にいた執事がじっと探るような目でこちらを見ていたので、にっこりと笑っておいてやった。やっぱり見えるのは口元だけだけどね。


 あと、竜巻の中の砂ゴキは、竜巻の中にひっそりと仕込んでおいた光の刃で、徐々に倒されていってると思います。光の魔術で倒された魔物は、基本的には黒い砂の粒となって消えていく。そして、今回おおっぴらに光の魔術を使わなかったのには、ちょっとした理由があったのだ。それから、風の刃とかにしなかったのは、砂ゴキのバラバラに切断された死体が空から降り注ぐとか……恐怖の異常気象を砂漠のどこかで引き起こさないためでした。



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