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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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6.灼熱の世界からお送りしております。



 そういえばさらっと流したけどね、どうやらこの世界にはいるらしいんですよ、魔王が。いやー、ファンタジー!

 何でも、約七十年前まで、このツァラトゥス王国に接する大砂漠の真ん中に、とある王国が存在していたらしい。その王国は、砂漠の中のオアシスを中心に造られていたそうだが、その厳しい環境に対応するためか、非常に魔術の発達した国だったようだ。それらの魔術を使って、王都中を覆う巨大な結界を作って魔物を寄せ付けないようにし、砂漠の中にありながら他国との交流も盛んで、盛栄を極めていたという。

 しかし、王の妹が嫁いだ伯爵家に生まれた、膨大な魔力を有する男児が十歳になった日、悲劇が起きた。その子が、自らこそが次期国王に相応しいと言い出し、それが叶わないと知ると瘴気を吸収して魔人となって、凶暴な砂漠の魔物から王都を守っていた結界を破壊した。そして、王都に雪崩れ込んできた魔物を使って、国民を皆殺しにし、王族もすべて血祭りにあげ、そこに自らの王国を創り上げたのだそうだ。

 それからその子は、元王都であったところを暗黒の結界で覆い、自らを魔王として魔物達を従え、そこに君臨しているらしい。


 以前は魔王を討伐しようと、何人もの冒険者や他国の軍隊がその国へ赴いたが、暗黒の結界に阻まれて誰も王都に踏み込むことは出来なかったそうだ。さらに、魔王の側としても特に他国を侵略するわけでも無く、結界の中から出てくることも無かったので、その沈黙を不気味に思いながらも、やがて誰もそこへ向かう者はいなくなっていたらしい。それでも定期的に偵察は続けており、遠くから見る暗黒の結界には何の変化もなかったということだったが。


 ここへ来ての、魔王が動き出したという報せに、ツァラトゥス王はかなり慌てふためいたようだ。まだ、魔王軍が暗黒の結界を出たという報告はないが、早急に対策をとることにしたらしい。

 まず、テミズ教国に協力を求め、光の属性を持つ者を借りてきて、彼女と国軍の精鋭一千人ほどを向かわせることを決めた。凶暴な魔物を従える魔王と対峙するにしては人数が少ないようにも思えるが、そこは光の属性を持つ者が何とかしてくれる、という例の考えからだろう。兵一千人は、事実上はテミズ教国への、うちもこれだけ力を尽くしましたというアピールみたいなもののようだ。リザーリスお嬢様一人で向かわせるには外聞が悪いというね。

 本当に魔王が攻めて来るなら、これだけの戦力じゃあ到底足りないと思うんだけど。



 というわけで、お嬢様と執事さん、そしてツァラトゥス国軍一千人に、ちゃっかりついてきた私。そして――。


「いざ行かん! 魔王は僕がこの手で倒す!!」


 なんか、またもう、ややこしそうなのが一人付いてきちゃいました。


「魔王ごとき、僕のこの聖剣で一撃だ! 僕こそが神に選ばれた勇者なんだからなっ!」


 などと言っちゃってるこの子、ジオリア君はツァラトゥス王国の第五王子様らしい。歳はまあ見た感じ十代半ばかな。うん、そう。どうやら患ってしまっているらしい、例の病気を。この世界でもやっぱり患ってる人はいるんだねぇ。真っ白な装飾の輝く両手剣を空へ掲げ、大声を張り上げながら、ツァラトゥス国軍の先頭をラクダのような生き物に乗ってザクザク歩いてますよ。



 ツァラトゥス王国の王都を出て、国の端までは馬と馬車で駆け、砂漠に差し掛かってからは、馬では砂漠に耐えられないということで、こうしてラクダみたいな瘤のある動物に乗り換えたわけです。そして、先頭に執事さんと相乗りするお嬢様の乗ったラクダと、ジオリア君の乗ったラクダ、そしてその後ろにラクダに乗った国軍の隊列が続いている。

 あ? 私? 私はやっぱり一人ではラクダにも乗れなかったので、ジオリア君と相乗りをさせて頂いてます。私が後ろでね。


 てか、ちょっと思ったけど、エル殿下といい、ラデ殿下といい、フェル君といい、ジョエル王子といい、ジオリア君といい、皇(王)子様って、意外とフットワーク軽いよね。もっとこう、国の未来を担う大事なお立場なんですから、王宮の中でじっとしてなくていいのでしょうか? お城に篭って、大人しくお茶会とか仮面舞踏会とか歌詠みとか蹴鞠とかしてなくていいんでしょうか?? こんなに自由奔放に動き回られたら、護衛の人達とか大変そうだな。


 しっかし、さすが砂漠。暑いっす。からっからに乾いた空気に、じりじりと照り付ける太陽。たまにふく風も熱いし、正体隠すために着た全身を覆うマントも暑苦しい。とはいえ、乾燥とか日焼け対策に、全員が全身をマントで覆っている状態なので、私だけではないのだけど。

 ふと斜め前を見ると、お嬢様はプライドなのかこだわりなのか、マントの上から真っ白なフリルの付いた日傘を差していた。全身マントのため全員が混ざれば誰がどこにいるか分からない状況で、私はここだとアピールしてくれているのなら非常に有効だと思う。後頭部にコツコツあたって、執事さんは迷惑そうだけどね。


 それにしても、見渡す限りの砂の海に、真っ青な空。魔王の結界なんて欠片も見えない。このままどのくらいの距離を行くのだろうか。



 特にトラブルも起きず、誰も何も話さないのでいい加減暇になってきた私は、口元の砂除けのマスクを少しずらして、前でラクダの操縦をしているジオリア君だけに聞こえる距離で呟いた。


「はあ。これで無事に魔王退治出来たら、王様はジョエル王子の結婚を認めてくれますかねぇ」

「ん? 兄上と結婚したいのか? 僕じゃなく?」

「いや、私じゃなくて……。そしてあなたでもないです」

「ああ、ケーナとか!」


 私のささやかなツッコミを無邪気にスルーして、砂漠の向こうに目をやったまま足をぶらぶらさせながら、明るい声でジオリア君が答える。初めて聞く名前だけど、ケーナさんってたぶん侍女の子のことだろうか。


「兄上とケーナはずっと想い合っていたからな。しかし、兄上には幼い頃から父上の決めた婚約者がいるし、難しいだろうなあ」


 うーんと考えているように、フードに覆われた後頭部が傾いた。ん?


「ジョエル王子とそのケーナさんって子が好き合ってるって、知ってたんですか?」

「見てれば分かるぞ!」


 え? 何か必死に二人の関係を周りに隠しながら、想いを育んでたって聞いたけど、けっこうばればれだったんだろうか。それともジオリア君の観察力が……いやいやいや。


「ちなみに婚約者って、貴族のお嬢様?」

「ああ!」

「あれ? 魔王の侵略に対抗するために、結婚を決めたんじゃなかったんですか?」

「何のことだ?」


 僅かにジオリア君が振り返って、聞き返してくる。むむ、ジオリア君はまだ成人前だし、第五王子ってことで政治にも関わってないだろうから、知らないだけ……なんだろうか。でも、貴族のお嬢様との結婚が幼い頃から決まってたんだったら、国内の結束のため云々はただの後付け? あのメタボ王めぇ! 魔王がどうとかは、エル殿下を乗せるためにあの場で適当に言っただけか!

 じゃあ、魔王を倒したところで、ジョエル王子と侍女さんの状況は変わらないわけか……。でも、そうなったら、もうエル殿下が言うみたいに成り行きに任せるか、意地でもジョエル王子を見つけ出して自分で何とかさせるか……、まあ最終的には洗脳という手もある。うん。


「兄上の結婚なんて関係ないぞ! 魔王は僕が倒すのだからな!」


 ジオリア君が勇ましく声を放ちながら、腰から先ほどの聖剣とやらを引き抜いて空に向かって突き上げる。ちょ、あぶなっ! いきなり刃物振り回すのは止めてくださいって!

 そういえばこの聖剣とやら、聖剣が何をもって聖剣というのかは分からないけど、どうやら光の魔術が込められているみたい。それほど強力なものではないけど、ある程度の魔物なら一太刀で倒せそうだ。でも、魔術の込められている武器や防具って貴重なのに、どっから引っ張り出してきたんだろう、これ。ちゃんと許可は取ってきてるんだよね!?



 ストックが切れてきたので、更新のペースが遅くなると思います。今でも遅いですが……m(__;)m

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