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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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4.王様って国それぞれ。



 前もって使者を送っておいたので、案外すんなりとツァラトゥス王国の王様と面会できることになった。でも、どうやらツァラトゥス国の王宮に勤める人達の中で、国政を担う人達はほとんどがエル殿下の顔を知っていたようなので、ある意味顔パスの部分も大きいのかもしれない。恐るべし美形の顔面力!

 そして、話の内容が内容だけに、謁見の間のような人が多い場所ではなく、部屋の造りや調度品などは豪華だが、部屋自体はそれほど大きくない一室で話し合いをすることになった。ふむ、ざっと見た感じ、この部屋には防音や術による干渉を妨害するような魔術がかけられているし、もともと密談用の部屋なのかもしれない。


 先にエル殿下とスケさんカクさん、そして私が部屋に通され、後から文官らしきおじいさんと護衛二人を連れたツァラトゥス国王が入ってくる。ツァラトゥス国王はねぇ、何というか典型的な王様だった。でっぷりとしたメタボな体形に、金色の刺繍のあしらわれた紫色の光沢の良い衣装を纏い、両手にはごてごてと宝石の付いた重そうな指輪を全ての指にはめている。服にも勲章? のようなよく分からん装飾品がたくさん付けてあって、見てるだけで目がチカチカしてくる。

 失礼にあたるのでじっと見ているわけにはいかず、そもそも見ているだけでうんざりした気分になったので、そっと目線を逸らし、ソファに腰かけているエル殿下の後ろに立っているスケさんとカクさんの方を見た。きっちりとした騎士の制服に身を包んだ、きりりとした勇ましい顔立ちのイケメンと、どこか可愛らしい甘い顔立ちのイケメンに心が癒された。ありがたや美形の顔面力。



「それでは、息子ジョエルは我が国内にいるというのかね」


 三人は座れそうなソファのど真ん中にどっしりと腰かけたツァラトゥス王国の国王様が、エル殿下の一通りの話を聞いて考えるように顎を人差し指と親指で撫でる。

 エル殿下が国王様に告げた内容には、私が風の精霊に“ロメロウとジュリエッティ”の話をしたことは含まれていない。ただ、風の精霊を通じてジョエル王子の駆け落ちを知ったことと、王子達がツァラトゥス国内にいるであろう旨を告げただけだ。私が事態を悪化させたことを説明しなくても良いものかと心配になったのだけど、風の精霊が人の言葉を聴くということを国王は信じないだろうし、それほど精霊と親しくしていることが知られるのも不味いだろうということで、その辺りはあえて告げないことになった。い、色々とご迷惑をおかけして申し訳ない!


「しかし、風の精霊様に聞いたというが……」


 疑わしげな王様に、エル殿下はドアの近くに立っていた私に目を向ける。


「この者は、我が国の教会の風の宮に勤めており、日ごろから風の精霊様を見、また話すことが出来ます。そして、先日風の精霊様からジョエル王子の話を聞いたと、申し出てきたのです」


 王様や文官らしきおじいさんの目線が私に向いたので、私はフードで顔を隠したまま控えめに礼をした。


 現在の私の格好は、全身が隠れるほどの薄い灰色のマントを羽織っており、フードもしっかり被っているので、向こうからは顔の下半分しか見えない状態になっております。というのも、エル殿下とハティ様と話し合った結果、あまり精霊が見えることを人に知られるのはよくないということと、ただの旅人の私の言うことを王様がすんなり信じてくれるとは思えないので、シューミナルケア帝国の教会に勤める聖職者ということにした方がいい、という結論に至ったからだ。教会では、特に強い力を持つ者は人――主に権力者――に狙われないように、今私が来ているようなマントを羽織って顔を隠すことを認められているらしい。


 あと、‘風の宮’とは、特に風の精霊への信仰心が強かったり、風の精霊に関する仕事をする人が勤める、まあ部署みたいなもののようだ。当然他にも、‘光の宮’‘闇の宮’など七種類の精霊の宮と、‘神の宮’という創造神の宮がある。まあ、別にそれぞれに分かれているからといって、他の精霊を信仰してはならないというわけでもないし、派閥があるわけでもなく、本当にただの担当分けのような感じみたい。

 今回身分を借りるにあたって、ちゃんと教会の許可は取りましたよ。ハティ様のコネで一発でした。ハティ様の名前を出した時の、あの教会の方々の反応……絶対、今教会を影で牛耳っているのってハティ様だと思うのよ。何故なら……おっと、これ以上話しちまうと、おいらが消されちまうぜ、くわばらくわばら。


 エル殿下が紹介してくれたにもかかわらず、王様はまだうさん臭そうな顔をしているので、私は仕方なしに事前に了承を得ていた風の精霊を、マントから差し出した手の上へと召喚した。“可視化”の魔法陣を敷いていないので、室内の誰にも風の精霊の姿は見えていないようだが、掌に生じた緩い竜巻に、王様や文官のおじいさん、そして護衛の人の視線までもが、ぐっと集まる。しばらくその竜巻を維持してもらったまま、風の精霊に室内をふわりと一周してもらう。そして、再び私の所へ戻ってきたところで、竜巻を消しもとの場所へと帰還してもらった。


 そんな一連の私の行為を食い入るように見ていた王様は、やがて力を抜きソファへと体を沈めた。


「……なるほどな」


 そうして何かを考え込んでいる。基本精霊達は嘘を嫌うと思われているので、こうして現在も私が風の精霊と交流を持っているということは、風の精霊から聞いたと言って嘘の内容を話しているという可能性も消えたはずだ。

 しばらくして、王様が顔を上げエル殿下に目を向けると。


「では、どうすれば風の精霊様はジョエルの居場所を教えて下さると?」

「あくまで私の推測ですが、ジョエル王子を隠している精霊様は、ジョエル王子の幸せを願っておいでのようです」

「では、ジョエルとその娘との結婚を認めよ、ということか」

「それは私には分かりかねます」


 王様の問いかけに、エル殿下が答えていく。うわ~、しっかし嫌だなぁこの雰囲気。ぴんと空気が張り詰めた感じで、腹の探り合いしているみたい。でも、凛と背筋を伸ばしつつ、しっかりと、しかしどこか鷹揚に答えるエル殿下は、さすが大国の皇太子って貫禄がある。どうですうちの子すごいでしょう? やればできる子なんザマス! ホーッホッホッホ! と高笑いしたくなった。


 そんなやり取りの後、王様はちらりと傍に控えていた文官のおじいさんを見てから。


「実は、先日砂漠の果てより魔王が我が国に攻めてくる、という報せが入ったのだ」


 突然内容の変わった話に、私はおやと内心で首を傾げたが。


「ジョエルには国内の有力貴族の娘と結婚してもらい、魔王侵略に備えて国内の結束を固めようと思っていたのだが……」


 そこで言葉を区切った王様が、意味深にエル殿下に目を向ける。


「ところで、エリュレアール殿は非常に強い光の属性をお持ちとか。魔王など、簡単に倒してしまわれるのでしょうな?」


 にやりと笑みを浮かべたその顔に、苛立ちが腹の中で蠢いた。こっ、このオヤジ、一国の皇太子相手に魔王討伐に行かせようって魂胆か!? もしエル殿下が承諾しなければ、ジョエル王子と侍女の子との関係を認めず、あえて見つけることをしないで、今までのようにシューミナルケア帝国に難癖をつけ、あわよくば兵士を入れさせる気か。確かに、この王には息子が五人と娘が八人はいるそうなので、ジョエル王子が見つからなくても、第二王子を世継ぎに据えればいいわけだ! おのれこの金ピカメタボめ! もう様なんか付けてやんないもんねー! バーカバーカ!



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