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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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3.旅路の試練。



 その後、どうにか風の精霊達を説得しようとしたが、≪二人は私達が守るわ!≫≪絶対に見つけさせないんだから!≫と、どうにも話を聞いてくれない。本当にすみませんっ!


 試しにと、一応風属性も持っている青い鳥に説得を頼んでみたのだけど、「それで僕に何かメリットがあるのかい?」と無表情な鳥の顔(いつも通り)で言われてしまった。鳥の思わぬドライな一面に、全身に戦慄が走った。ってか、助けた恩をすっかりと忘れやがって、あの鳥いぃぃ! いつか捌く!!



 で、結局、王子と貴族の女の子との結婚を止めてもらうようお願いするのは、内政干渉になりそうで出来ないので、ひとまず王子がツァラトゥス国内にいることと、風の精霊に守られていることだけをツァラトゥス王国の王様に告げに行くことになった。


 何故、王子がツァラトゥス王国内にいるのが分かったかというと、風の精霊達の妨害が強すぎるからだ。もし、精霊の力が均衡な他の国だったら、風の精霊が隠していても他に木の精霊なり土の精霊なりが気づいて、教えてくれたり力を貸してくれたりする。しかし、他の精霊に相談してみても、王子の居場所がさっぱり分からないということは、他の精霊の目の届かない、風の精霊達の支配力が強い場所にいるということなのだ。で、人が住めそうで、それほど風の力が強い場所と言えば、ツァラトゥス王国内、という結論に至ったわけです。まあ、王子が王宮から消えて、指名手配されるのも早かったようだし、そう易々と国境を越えれたとも思えないからってのもある。


 それで、行くメンバーは、私とスケさんカクさん、そして騎士の方十数名と……エル殿下。いや、私としてはエル殿下が書状でも書いてくれて、それを私が持って行けばいいんじゃないかと考えていたんだけど、エル殿下いわく、それでは王に会うのにも時間がかかるし、王もなかなか信じてくれないだろうと。だったら、自分が直接行った方が早いだろうということになったのだ。ううう、でも、今回の騒動は私が悪化させてしまったわけですし、忙しいエル殿下達まで巻き込むわけには……! 一人でピュッと行って、ピュッと帰ってきますよ! と訴えたのですが……。

 「気にするな、私もいい息抜きだ」と柔らかい笑みを向けられてしまった。ついでに頭もポンポンされた。うっ、さすが私のエンジェル! 笑顔が素敵すぎます眩しいです輝いてます癒されます! でもその向こうにおどろおどろしい暗黒世界が見えますハティ様です。俯き加減なのと眼鏡のせいで表情は見えませんが、「……仕事が……」と這うような呟きが聞こえてくる。わ、私このままツァラトゥス王国に亡命すべきかもしれません。無事戻ってきた方が無事では済まないような悪寒が!


 ちなみに、私は馬に乗れません。だって、移動は徒歩か馬車か飛ぶかだったので、馬を利用したことが無かったのだ。そこで仕方なくどなたかと相乗りをさせて頂くことになったのですが……。


 いやああああぁぁぁ!! 誰か助けてえええぇぇ!! 死ぬうううぅぅおおぉぉ!!


 私の内心は絶叫のカーニバルだった。阿鼻叫喚のフェスティバルだった。でも、その悲鳴は口から吐き出されることはなく、私は両手で顔を覆って体を前に倒し、プルプルと震えることしかできなかった。

 だって、だってだって、エル殿下と相乗りって!! 詳しく言えば、私が前に座って、エル殿下が後ろで馬の手綱を引いてくれている、という状況なわけなのですが!

 何だこれ恥ずかしすぎるうぅぅ!! 馬の背というスペースには限りがあるから自然と距離は近くなるし、すぐ後ろからエル殿下の気遣う声が聞こえるし、なんかもう爽やかな良い匂いがするし、横を見ればエル殿下のセクシーな手首が服の袖から覗いてるしで、今すぐ馬から転げ落ちたいほどに恥ずかスィー!! ただ馬に乗っているだけなのに、すでに息は絶え絶え、まさに瀕死寸前状態だ。許して私のライフはもうゼロよ! とりあえず言っとく!


 結局、出発してからおそらく三十分も経たないうちに、私は音を上げた。そして何だかんだと理由をつけて、エル殿下以外の人と相乗りをさせて頂くことになった。


 スケさんと相乗りしたときは、基本お互い無言だけど、その沈黙は特に苦にはならなかったし、珍しいものがあったり、気になる建物があったりして、私が問いかけた時なんかは、言葉少なにも答えてくれるスケさんの落ち着いた声が心地よかった。

 カクさんの時は、何か二人でテンション上がっちゃって、色々なことを話しながら爆笑してたり、お互いに知らない歌を大声で歌ってスケさんに呆れられたりと、始終はしゃぎっぱなしだ。「レッツパーリィ!」とか言ってみたり。

 他にも護衛の騎士さん達の間を日替わりで渡り歩いてみました。ふふふ、悪女な私。


 でもエル殿下の相乗りだけは耐えられんかった。あれは、そうだな、我ながら場違い感が半端ないからだ。だって、皇子様と二人乗りって、お姫様っつーか、キラキラしいヒロインのポジションじゃないっすか。そこにこの私。ロマンスの神様に馬から蹴落とされて背負い投げを喰らわされそうなキャスティングですな。うん、そこにはきっと、そのうち正しいヒロインが、すっぽりと収まってくれることでしょう!


 という決意から、エル殿下との相乗りを必死に拒否していたら、エル殿下が徐々に落ち込んできた。そりゃまあエル殿下との相乗りだけ嫌がってたら、いい気分もしませんわな。スケさんが「たまには相乗りしてやれ」なんて言ってきたけど、無理ですよ。次乗ったら五分で吐血します。あ、鼻血かも。


 そんな感じで、途中立ち寄った町や村で宿に泊まったり、野宿したりしながら、ツァラトゥス王国への片道一月ほどの距離を爆走中です。

 ツァラトゥス王国の首都までは結構な距離があることから、実は出発前に、護衛の騎士さん十数名までは無理だけど、エル殿下とスケさんカクさんまでぐらいなら私の風魔術で飛んで行けますよ、とフライトプランを提案してみたのですが、それはエル殿下とハティ様に反対されました。そんな大規模な魔術を他国で披露するのはよろしくない、ということで。

 やっぱりあれかな、大の大人が四人並んで背中から羽根を生やして、うふふあははと飛び回る姿を他国の方々に見せるのは、シューミナルケア帝国の沽券とかにかかわってくるのかもしれない。だってその中の一人は、次期皇帝、のエル殿下だし。でも、その四人で手を繋いでくるくる回りながら、ツァラトゥス王国の教会のど真ん中とかに舞い降りてみたかった。天から射し込む光の中、ふわふわと白い羽根をまき散らしながら、倒れ伏す少年と寄り添う犬を抱き上げて…………だーーーー(号泣)!!



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