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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第3章
53/75

7.青い鳥を捕獲。

 更新が遅くなって、申し訳ありませんm(__;)m



 その後、二人の話によると、二人はさっき捕えた四人を救助隊に引き渡そうと入り口まで引きずって行ったのだが、肝心の私達二人がまだ出てきていないことを知らされたそうだ。そこで、迷っているのだろうと考え、救助隊と手分けしてアジト内を探してくれていたらしいんだけど。


「どうやったらここまでたどり着けるのか、不思議なんやさけど~」


 と、困ったように言われてしまった。


 何でも、この部屋は、すでにお分かりの通りかなりやばいものが隠してあったので、アジトの奥の奥、しかもちょっと分かり辛い隠れた通路の奥にあるらしい。

 ホームズさんとワトソンさんは、このアジト内を探索しつくしていたのでたどり着けたが、普通はここまで来ようと思っても到達することは非常に難しいのだそうだ。


 え? 普通に迷っているうちにたどり着きましたけど。 

 と、ちらりとラデ殿下を横目で窺えば、ラデ殿下はバツが悪そうに、顔の下半分を手で覆って顔を逸らしていた。

 いや! 大丈夫ですよ、ラデ殿下! ただ走ってるだけで隠し通路を見つけてしまうなんて、立派な特技になりますよ! 冒険家のアシスタントとか、犯罪捜査の手助けとか、飯のタネにもなりそうです! 恥じる必要なんてありません! いっそこの特技を存分に伸ばしてください! ただその際には、方向音痴でないパートナーを付けてくださいね! と、慰めるべきか悩むな。


 とりあえず思春期の少年のナイーブな心を慮って、何も言わずにおくことにした。


「お二人とも、ご無事で何よりです」


 と美声と柔らかな笑顔で言ってくれたホームズさんに心癒されながら、早く救助隊の人達と合流しなければと廊下を戻ろうとしたとき、部屋の奥からガタガタと何やら騒がしい音がして、私達はそろって足を止めた。

 ええ~、もうグロいのとかヤバいのは勘弁なんですけど~と思いながら、互いに目配せをしあう。


 やがて、こういった役割に慣れているのか、溜息を吐いたワトソンさんが、踵を返して部屋の方へと歩き出す。

 あれ? ホームズさんって、穏やかそうに見えて案外人使い荒い? ま……まあ、先に現場を引っ掻き回す助手と後から解決する先生ということで、助手と先生の関係としては正しいのかもしれない。……正しいのか?


 それでも、何となく音の正体が気になって、私も恐る恐るワトソンさんの後に続いた。

 すると、その後からラデ殿下も付いて来る。ん? ラデ殿下っていつの間にか私の保護者化してる? でも、どっちかっていうと冒険仲間的な関係なのかも。とりあえずお前が行くなら俺も行く、赤信号みんなで渡れば怖くない、てな感じの。

 よし、共に地の果てまで行こうぜぃ! 横道には逸れないように気を付けますんで! あとお夕飯までには帰ります! ツレは王子様ですからね!


 果敢にも部屋の中に足を踏み入れたワトソンさんは、その長身を利用して、私が投げ入れた光の玉をそっと押して、光が届いていなかった辺りまで灯りが届くよう移動させた。

 すると、部屋の奥には、壁際に古びた本棚にいかにも怪しげな分厚い本が並び、その本棚の手前には大きな机が置かれていて、奇妙な形の実験器具のようなものが並んでいた。

 見る限り人はいなさそうだし、瘴気も感じなかったので、ワトソンさんを先頭に、私、ラデ殿下の順でそちらの方へと向かう。こうして全体像が分かると、部屋自体はバレーボールのコートくらいの広さだったみたい。


 そして、さっきのガタガタという音の正体は、大きな机の片隅に置かれた鳥籠が揺れる音だった。

 しかし、鳥籠には紙状のものがぐるぐる巻かれていて、その隙間からは、色や形はよく見えないが、インコサイズの鳥が必死で飛び立とうと暴れているのが見えた。

 その鳥籠を見ていたラデ殿下とワトソンさんが恐る恐るといったふうに、その籠に巻かれている紙のようなものを突いていた。これを取っていいものか悩んでいるようだ。

 う~ん、ここにさっきまでいたモノがモノだけに、実は呪いの何とかが封印されてたりして……と、恐る恐る私もその紙状のものを覗き込んでみると、そこに書かれていたのは呪文のようで、読めそうなところを所々組み合わせて解読してみると。


「は……早く出してあげてください!」


 慌てて私が手を伸ばすより早く、その私の言葉を聞いたラデ殿下がびりびりとその紙を破いてしまう。

 その豪快っぷりに、ちょっとラデ殿下に渡したプレゼントのラッピングがどうなるかを理解しているうちに、カシャンと音がしてラデ殿下が鳥籠の入り口の格子を開けた。

 途端、待っていましたとばかりに、中に閉じ込められていた鳥が飛び出す。そして、そのまま自由を喜ぶかのように、部屋の天井辺りをグルグルと旋回しながらしばらく飛んだ後、ふわりとラデ殿下の肩に舞い降りた。

 

 そこで、ようやくはっきりと見えた鳥の姿に、私は目を輝かせた。ドンと胸を張っているかのような威勢のいい姿、その頭から尾まで全身が鮮やかな青に輝き、ラデ殿下の肩をがっちりつかんだ足は、細いながらに力強さに満ちていた。

 ああ……その姿はまるでまるで、あの童話に出てくる、幸福の青い鳥――。


『やはっ! 助けてくれてありがとう!』


 うん、何か今、ものすごく場にそぐわない声が聞こえた気がする。


 手を組んでうっとりと鳥を見つめていた姿のまま固まった私をよそに、その場にいた皆がぎょっとした顔で鳥を見る。

 そんな周囲の注目に構わず、その鳥は威勢よくばさりと翼を広げた。光沢を放つ青い翼が顔に当たって、ラデ殿下はちょっと迷惑そうだ。


『まったく! あんな狭い場所にこの僕を閉じ込めておくなんて、神への冒涜にも等しい行為だよ! まあ、こんなに美しい僕だからねっ、閉じ込めておきたい気持ちは分からないでもないがね!!』


 鋭く尖った嘴は、キエエエェェェ! とでも鳴きそうなほどに勇ましく開かれているが、そこから発せられるのは、妙に張りのあるハキハキとした人の声だった。そしてその内容は、随分とナルシスティック! ……うぜぇキャラの予感がします。開放するんじゃなかったかしら。


『そこの君!』


 ここまでつらつらと『この僕の壮大かつ優美に飛ぶ姿を見られなくするなんて、世界の損失だよ! 世界中の乙女達がどれほど悲しみの涙を零したことか……』等と自画自賛を繰り返していたその鳥が、いきなり翼の先をびしっとラデ殿下に向ける。翼の先を丸めて、まるで指を指しているようだ。器用だな。

 ご指名されたラデ殿下は、は? 俺? ってな感じで、目を瞬かせている。


『うむ! 君は僕の命の恩人だからねっ! どうしてもと言うなら、契約してあげよう!』

「け……契約?」


 命の恩人と言いながら、随分と上から目線の申し込みだ。ずずずいとラデ殿下の方に体を乗り出しながらの鳥の申し出に、ラデ殿下は顔を離そうとのけ反りながら、しきりに狼狽えている。


 どうして鳥が喋るのかとか、こいつはいったい何を言っているのかとか、何でこんな話し方なのか、といった疑問が、ラデ殿下の頭の中で駆け回っているに違いない動揺っぷりに、傍から見ていると非常に可愛かった。何か蛇に睨まれている蛙のようで。いやいや蛙も見方によっては可愛いと思うよ。

 その鳥のテンションに、さすがのホームズさんもワトソンさんも呆気にとられて、状況を見守っている状態であり、この場はすっかり鳥の独壇場である。


 鳥の、さあ、どうする? まさか、この僕のありがたい提案を断るわけないよねっ! とばかりの圧迫感に耐えられなくなったのか、ラデ殿下がちらりと目をこちらに向けてきた。その目が全力で、助けて! と語っているものですから、そら冒険仲間としては助けないわけにはいかないですよね!

 両手を伸ばして、ぐわしっと鳥を羽の上から掴み、ラデ殿下から引き離す。鳥が、『何をするんだい! ああ、そんなに乱暴にしないでくれたまえ! 僕の美しい羽が!』なんて、叫んでいるけれど、そこは気にしない。


 ほっと肩の力を抜いたラデ殿下に、私は鳥を体の前で持ったまま、苦笑いを浮かべて。


「どうやらこの鳥は、精霊のようですよ」


 そうラデ殿下に説明すると、ラデ殿下は、はっ!? とばかりに、私の顔を凝視した。いやいや、驚いた顔も大変イケメンですから、そんなに見ないで下さい。照れます。


 そう、何故この青い鳥が話せるかと言うと、実はこの鳥は精霊なのです。しかも、自分の力で人にも見えるように実体化できるし、自由に会話もできる“中の上”級精霊のようです。


「それから、属性はどうやら風と火の二属性のようですね。非常に希少な力の持ち主ではあります。まあ、性格が……これですが」


 そう言って、ちらりと青い鳥を見れば、鳥は器用に私の方に顔を向けながら、『なんだね君は! 失礼じゃないか! 僕をもっと褒め尽くしたまえ!』と怒り心頭なご様子。まあでも、嘴を開いたり閉じたりするだけで、表情も良く分からないので、あまり怖くは無いんだけど。


 その私の言葉に、ラデ殿下は鳥をじっと観察しながら、何やら考えているようだ。恐らくはこの精霊と契約するかどうかだろう。

 別に精霊と契約したからって、契約者に何らかの負担や制約が課せられるわけでは無いので、問題は、このうるさいナルシストをずっと連れて歩けるかどうかということだろう。下手したら寝ても覚めても延々しゃべり続けられるのか。私だったら耐えられずに焼き鳥にしてしまうかもしれん。……美味しいのだろうか。甘辛だれ、塩……じゅるり。


 つい、じっと鳥を眺めてしまう。その私の視線に、何かよくない思惑を感じ取ったのか、鳥がバタバタと暴れはじめる。


『そ……その前に君達に頼みがある!』


 何やら焦りながらそう言った鳥に、私達は首を傾げた。



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