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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第3章
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4.異世界でのささやかな楽しみ。



「ちょっとお邪魔するやさ」


 晴れ晴れと笑ったラデ殿下が非常に可愛くて、私もニコニコと笑い返していると、何やら軽い声が聞こえてきた。

 

 え? とラデ殿下と同時に格子の向こうの通路を見ると、いつの間にか二人の人物が立っていた。先ほどの誘拐犯たちとは違う、おそろいの茶色のつなぎを身に着けた、ひょろりと背の高い男の人と、卵のように丸いシルエットの男の人だ。


 えー、まず、背の高い人の方だけど、緑色の髪を立てて先の方を後ろに流しているから、その細くて高い身長と相まって、あー、ほら、あれだ、冬場のお鍋に欠かせないお野菜、……長ネギみたいなのだ。人を野菜に例えて申し訳ないのですが……。

 んで、もう一人の方は、丸い体と細い手足のせいで、不思議の国のアリスに出てくるハンプティ・ダンプティみたいなのよ。その体にぴったりのつなぎがまたコロコロ感を強調していて……妙に可愛いな、おい。

 見た感じでは、長ネギさんは二十代後半、玉子さんは三十代後半から四十代ってとこかな?

 うん、で。


「だ「誰だ!」……」


 …………ラデ殿下に先越されちゃった。いや、まあ、いいんだけど。


 先ほどまでの、状況にそぐわないほのぼの空気はあっという間に吹き飛んで、ラデ殿下は警戒心も露わに男性二人組を睨んでいる。

 体をずらして、さり気なく私の前に出ている姿なんて、何て紳士的……!

 その背中が、まるで子犬が精いっぱい敵を威嚇しながら、かばってくれているようで――ラデ殿下に知られたら怒られそうなイメージだが――、ついきゅんとしてしまった。

 さっきから思ってたが、この子って、弟属性というか、子犬属性というか、何か可愛いのよね。いや、だから、年上かもしれないけど。


「いえ、私達はあなた方の敵ではありません」


 はうっ! 何か今、すっごい低くてダンディな美声が聞こえた!


 声の出どころを探してきょろきょろしてみたが、ここにいるのは、牢の中に私とラデ殿下で、鉄格子の向こうにはネギさんと玉子さんしかいない。


「あんた達のことは~、あいつらの話聞いてたから、ちゃんと分かってやさ~」


 この少し変わった語尾は、つなぎのポケットに手を入れてどこかやる気なさそうに話す、ネギさんのものだな。だる~としてて、ちょっとイラッとくるぞ。でも、その語尾は何か可愛い。方言なのか、ネギさんの口癖なのか、気になるところだ。

 ということは……。


「我々は、依頼を受けて、ある組織について調査をしている者です」


 やっぱり、玉子さんだったあああぁぁ!! テノールのオペラ歌手のようなよく通る声に、ついうっとりと聞き惚れてしまう。


「それは、さっきあいつらが言っていた“闇の組織”というやつか?」


 疑わしげに、ラデ殿下が問いかける。


「そうやさ。あ、依頼内容とかは、秘密やさけどね~」


 へらっと笑って、ネギさんは髪を撫でつけた。フワサっと揺れた緑色の髪が、青々しくて新鮮そ……いやいやいや。


「敵ではないと言ったな。では、俺達がここから出るのを、手伝ってくれるのか?」


「ええ、そのつもりでここへ来たのですから」


 玉子さんがにっこりと笑う。ああ、その美声といいシルエットといい、妙に安心感をもたらす人だ。



 ネギさんが、ポケットから取り出した鍵で、ガチャガチャと牢の鍵を開けてくれたので、私とラデ殿下はあっさり牢を脱出。

 鉄格子の扉を潜って、うーんと体を伸ばした。いや~、やっぱり牢の中ってどうにも緊張しちゃうのよね。牢屋の中でくつろげるほど慣れたいわけでもないけど。


「申し遅れましたが、私の名はホー・ムーズと申します」


 玉子さんがゆったりと笑って、自己紹介をしてくれた。

 本当にいい声だわ。ふむ、ホーさんですか。つなげて言えばホームズですね。かの有名な名探偵ですね! 依頼を受けて“闇の組織”を調べているとか仰いましたが、ご職業は探偵でいらっしゃるのでしょうか?


「んで、俺は助手の~」


 続いて、ネギさんも自己紹介をしようとする。

 じょ、助手! ホームズさんの助手! ということは、お名前はまさか、ワトソ「ワトトン・キッスやさ」ん?


「ワトソンさん?」

「いやさ、ワトトンやさ」

「いやいや、ワトソンさんですよね?」

「いやいやいや~、ワトトンやさ~」

「ワトソンさんと呼ばせて下さい!」

「ん、いいやさ~」


 というわけで、助手のワトソンゲットおおおぉぉぉ!!


 一人で片腕を振り上げていると、ワトトンさん改めワトソンさんが不思議そうに首を傾げていた。


 いやいや、決してワトトンさんの名前を否定しているわけではないのですよ! でもせっかく、ホームズさんの助手なんだから、どうかワトソンと呼ばせて欲しいのよ! 一文字違いって、どういうことよ、異世界いいいぃぃぃ!! 私の、「あれ? これ、地球で言うとあれじゃね?」的な名前探しの楽しみを奪う気かああぁぁぁ!!


 そう、世界に向けて叫びたい気持ちをこらえていると、その横でラデ殿下がホームズさん達に向かって自己紹介をしていた。

 あ、いかんいかん、私もきちんと自己紹介とお礼を言わなければと、改めて二人の方へ向き直った。


「助けて下さってありがとうございました。私は、魔術師のカーヤ・ナツキと言います」


 ぺこりと頭を下げる。


「そっちの皇子サマは分かるんやさけど~、あんたは何で捕まったのやさ?」


「ただの巻き添えです!」


 ワトソンさんが不思議そうに聞いてきたので、私は間髪置かず答えた。いや、今回はもう、それ以外の何でも無いからね!



 軽く事情を説明しようとしていた時、ギイと重い扉が開く音がして、どたどたと数人の足音がした。


「お、お前ら何もんだ!?」


 そこの現れたのは、さっきまでいた誘拐犯の男達で。ええ!? ちょっと、見張りとかつけてなかったの!? と驚きで、ホームズさんとワトソンさんを凝視してしまう。


 いやいやいや! これが探偵小説とかだったら、あ、うっかり主人公が犯人に見つかってしまった! 主人公ピ~ンチ! この窮地をどう切り抜ける!? といった、盛り上がりどころなんでしょうけど、こんなところでそれを発揮されても困るだけですから! ついうっかり☆では済みませんからね!!


 と、私が一人であわあわしている間にも、剣呑な顔をした男達四人は、いかにも悪役らしいごつい剣を持ち出してきた。


 それに対峙するホームズさんは魔術用の杖を、ワトソンさんは鎖鎌!? を構えている。うわ! 鎖鎌って初めて見た~! と、つい視線がそちらに釘付けに。


 そして、目の前がふと陰ったかと思うと、私より少し背の高い、ラデ殿下の背中が!

 あああああ! もう、何この子! スマートすぎる! 誰? 誰の教育のたまもの!?

 その後ろ姿が、一回りは大きさが違うけど、エル殿下のものと重なって、やっぱり兄弟だなぁって、場違いなことを考えてしまった。まあ、エル殿下の場合は、私が無理矢理盾にしてる方が多いんだけど。



 更新のペースがすっかり遅くなってしまい、申し訳ありませんm(__;)m

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