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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第3章
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2.やつらの目的。



 なんて考えながらしばらく揺られているうちに、馬車が停まり、またも何者かに担がれ――今回は腹這いだったので、助かった――、どこかへ運び込まれた後、ようやく袋を脱がされたと思ったら、壁に掘られた穴に鉄格子を付けたような牢屋に押し込まれた。



 がーん! またこれかーー!! と、目の前で牢の入り口が閉められるのを見ながら、私はショックに打ちのめされていた。

 ううう、何が悲しゅうて、人生で二度も! しかも、こんな短期間で牢屋に入らねばならんのよ!


 岩を掘っただけだから、窓もないし薄暗いし、牢屋の中にはベッドもトイレも何も無いし。うむむ、設備としてはテミズ教国の方が良かったな。あ、でも、この岩の性質によるのか、テミズ教国の牢屋みたいな陰湿感は無いかも。これは甲乙つけがたい。後は食事しだい……って、牢を比較してる場合じゃなくて!

 ちくしょう! こうなったら、色んな場所の牢屋を巡って、評論文でも書いて、本にして出版したろか。タイトルはズバリ『世界の鉄格子窓から』! とりあえず、シューミナルケアの牢屋も今度見せてもらおう。



「なあ」 


 なんて、若干自棄になっていると、一緒に牢屋に放り込まれていた彼が、声をかけてきた。


「あんた、ナディアを助けた魔術師だろ?」


 胡坐をかいてこちらを見てくる彼は、やはり薄暗い中でも輝いて見える金色の髪に、鮮やかな緑色の瞳が、かの親子によく似ていた。


「えっと、その通りです。……あなたは、シューミナルケア国の、第二皇子様で間違いないでしょうか?」


 名前までは知らなかったが、確か最初に行った謁見の間で、王の傍で見たようなと、そう問いかけた。

 そんな私の問いに、第二皇子は眉間に皺を寄せて、「ラディスリール・アルネリモア・デュ・シューミナルケアだ」とぼそりと名乗った。

 長い! もう一回! とは言い難い雰囲気に、私はとりあえず聞き取れた最初の部分で、ラデ殿下と心の中で呼ばせてもらうことにした。


「私は、カーヤ・ナツキと申します」


 何となく今更のような気がして、戸惑いながら名乗ると、ラデ殿下は「知っている」と不機嫌そうに答えた。


「兄上の光属性を見つけた魔術師だろう。王宮では万能の魔術師と噂されているな。教会の方では、叶わぬ夢を追い続ける新米魔術師と言われていたが」


 そのラデ殿下の言葉に、私は「はぁ!?」と間抜けな声を上げてしまった。

 何だその噂。前半のもなんだが、後半のは、否定的に聞けば嫌味のような、肯定的なら諦めんなと応援したくなるような。

 むう、ハティ様に苛められた爺どもの意趣返しか! それなら直接ハティ様に返しといてください!


「とりあえず、両方の噂を否定させて下さい」


 げんなりしながらそう返すと、ラデ殿下は首を傾げ。


「教会側の噂は良く知らないが、万能というのは城勤めの者から幾度も聞いたぞ。光属性を持ち、多くの魔術を使いこなし、どのようなことも可能にする、と」


 ラデ殿下の言葉に、私は慌てて首を振った。


「とんでもない! どんな属性を持っていても、出来ないことなんかたくさんありますよ!」


 真剣に否定しながら、一瞬頭を過った光景に、胸に突き刺されたような痛みを感じた。


「――どんな属性を持っていても、魔力があっても、……死んだ人を生き返らせることはできないし、時間を戻すことも……できないんです」


 目蓋に浮かぶ映像を打ち消すように、私はぎゅっと目を閉じ、力のない声で言葉を続けた。

 それに、自分の世界に還ることもできない。と内心で自嘲気味に笑う。


 自分の無力さなど、心を引き裂かれるような絶望感と共に、身に染みて知っている。

 魔術を使えることの無意味さを、血に塗れた両手を握りしめ、声が嗄れるほど泣き叫んだあの日に、嫌というほど思い知ったのだ。



 突然落ちた重い空気に――いや、私のせいなんですけどね――、お互いに口を噤んでいると、ガチャリと扉が開く音が聞こえ、どすどすと荒い足音と共に鉄格子の向こうに先ほどの三人組と、リーダーらしき男が現れた。


 大きな体格に、もじゃっと口の周りに剛毛そうな髭を生やした男は、地面に座り込んでいるラデ殿下をじっと見ながら、「あんた、第二皇子だな?」と問いかけた。


「お前達は何者だ? 何故俺達を攫った?」


 男の問いに答えず、ラデ殿下は男を睨みつけながら、逆に問う。

 そんなラデ殿下の態度に、男はふんと鼻で笑って。


「俺らは“闇の組織”の者さ。あんたを攫ったのは、あんたを餌に第一皇子を呼び出そうと思ってよ。第二皇子がよく街をふらふらしてるって噂を聞いたもんでね、あんたを餌にしようと思ったのさ」


 その男の言葉に、私は目を見開いた。

 な……なんて親切な人! 質問にちゃんと答えてくれるなんて!

 しかし、やっぱり私は完全なる巻き込まれですよね。ああ、何だかとても居心地が悪いんですが。


「なぜ、兄上を?」


 よし、気配を消そう、と、私がじりじりと壁際に移動していると、ラデ殿下が声を上げた。


「光属性を持っているからさ」


 ぎくり、と心臓が一度跳ねた。そーっと目線をラデ殿下や彼と話している男、そして男の後ろに立つ三人組へと移動させたが、誰もこちらを見ていなかった。

 これは、私も光属性持ちだっていうことは、知られてないと思っていいのだろうか。


「光属性を持っている者を、うちの上層部に売れば、高値の報酬がもらえるんでね」


 うん? それは、皇子を取引材料に身代金を要求するのと、どちらが高額なの? とも思ったが、彼らの目的はあくまで、光属性を持つ者を“闇の組織”の上層部とやらに売ることらしい。


 ちなみに、“闇の組織”って何?

 ちらりと頭に浮かんだのは、“闇幸福論者”達のことだけど。でも、彼らが光属性を持つ者を集めてどうするんだろう? 目的のために邪魔だから、とかいう理由で、ま……まさか、殺……!?

 私は、ますます気配を消すことに専念した。



「もう城に手紙は出してある。第一皇子もそろそろ来るはずだ。それまで大人しくしてな」


 そう言って、男達が牢の前から立ち去ろうとしたとき、リーダーらしき男と目が……合った。


「あん? この女は何だ?」


「ああ、皇子を攫うところを見られたんで、ついでに攫ってきたんすよ」


 リーダーらしき男が三人組に問いかけると、その中の一人がそう答えた。


「ほう」


 と、男がじっとこちらを見てくる。光属性を持っているとばれやしないかとか、目撃者は殺せとか言われないかと、私は冷や汗を流しながら固まっていた。


「おや、その女が気に入ったんですか?」


 三人組の一人が、ひひと嫌な笑い声をあげながら、男に問いかける。

 ビシッと私の体が固まった。


「馬鹿なこと言うな。俺の好みはむっちりした豊満な体つきの女だ。こんながりがりのガキなんざ、興味もわかねぇよ」


 よし、あいつ絶対燃やす! 何が何でも燃やす!!


 男達が立ち去るのを睨みつけながら、私は全身で怒りに燃えていた。

 灼熱の地獄を見せたらあああぁぁぁ!!



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