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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第3章
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1.知ってるっぽい人がいたので。



 おや、と何となく見知った人物が、目の前を通り過ぎて行ったのに、私は串焼き片手に首を傾げた。




 前回、エル殿下を送るついでに、シューミナルケアのお城にやって来た私は、少し頭を冷やした。

 還ることばかりを必死に考え、精神的に焦りすぎていて、気が付けば色々と参っていた自分に気付かされたのだ。

 煮詰まったまま突っ走っても、かえって遠回りになりかねない。もっとしっかりと腰を落ち着けて、考えて行動しなければ!


 そう思い立った時、急がば回れとはこういうことか! と、拳を握りしめて叫んでしまったほどだ。

 実はそれを叫んだのが、エル殿下の執務室で、仕事をしていたエル殿下に不可解な目で見られた。ハティ様に至っては無反応だ。あえて? それはあえての無視!?


 まあ、そんなわけで、時折息抜きついでにシューミナルケアのお城に寄らせてもらうことにして、また元の世界に戻るための方法を探して、世界中を飛び回ることにしたのだ。

 息抜きを挿んだせいで、還るのが遅くなってしまうかもしれないけど、たまには落ち着かなければ、何をしでかすか分からないと、テミズ教国の牢屋で学んだのです。……あんまり、いい思い出じゃないけどね。


 父さん、母さん、弟よ。少し帰るのが遅くなるかもしれないけど、許してね。信じて待っててね。――この思いだけでも、どうか届きますように。


 そう決意して、城に立ち寄った際には、エル殿下やハティ様、スケさんカクさんに、ナディア様達と、お茶をしたり、せっかくなのでと街を散策したりしています。



 それからね、これはもう感動ものなんだけど、ハティ様が、私の不在の間に、世界中から空間云々に関する本や情報を集めてくれたりするのです。その中には、異世界のことに触れられたものも混ざってて、ハティ様は何をどこまで知ってんのか、たまにドキドキするけど、でもすっごく嬉しかったのです!

 ああ、もうなんでしょうね、あの方、何なんでしょう!?

 こう、心がふわってなるような心遣い? 普段、自分は関係ありませんって、クールなお顔してらっしゃるのに、こんなさり気ない気遣いは卑怯だ!

 惚れてまうやろおおおぉぉぉ!! 一人隠れて悶えてしまった。あ、このネタもう古いの? 大丈夫?



 あと、もうここまでエル殿下達に迷惑をかけてしまっているので、本当のことを話すべきかと、悩んだりもしたんだけど、やっぱりどうしても踏み切れなかった。


 いや、信じてくれないんじゃないかって、疑ってるわけじゃなくてね。こちらの世界に来た時に持ってた、携帯電話とか、文房具とか、プラスチックのカードとか、この世界に無いものはいくつか持ってるから、それを見せればさすがに信じてくれると思うし。

 問題は、私の心というか……。やっぱりね、心のどこかで、これは夢なんじゃないかって、思っている自分がいるのですよ。

 だから、どうせ夢の中だしって、どこか一歩引いたところから見ていたり、いつか覚めるならいいか、って放置しようとしてしまう部分もあるのよ。

 何より、口にして説明することで、これが現実だって改めて認めるのが、怖いっていうのもあって……。


 というわけで、まあ、私の心の整理がつくまでは、もうちょっと事情説明は先にしようと思ってます。

 ただ、エル殿下やハティ様には、いつか突然ここに来なくなるかもしれない、ということは言っておきました。

 突然還ることになったときに、挨拶に来れるか分からないからね。


 



 今日は天気も良かったし、街の大通りに市が立つ日だったので、一人で街をぶらぶらしてます。


 本当は、カクさんが、案内しようか~? って言ってくれたんだけど、訓練をサボるなって、凛々しい女性の副騎士団長さんに、首根っこを掴まれて引きずられて行きました。

 カクさんを引きずることができる人が、スケさん以外にもいたのかと、ちょっと驚かされた瞬間だった。


 そして、出ていたお店の一つで、美味しそうな匂いに釣られて、地球にはいない動物のお肉の串焼きを購入し、行儀は良くないけどお祭り気分でそれを齧りながら歩いていた時、目の前を見覚えがあるような無いような人が、通り過ぎて行ったのです。


 短く整えられた金色の髪に、エメラルドグリーンの瞳。どこか騎士っぽい格好の、まだ日本でいう高校生ぐらいの見た目の男性だったけど、何か非常に……。


 えー、まさかなー、とか思いながら、何となくその思い詰めたような表情が気になって、つい彼の後を歩いていると、突然道の端から手が出てきて、目の前の彼が引っ張り込まれた。

 へ? は?? とその早業に驚きながら、慌てて路地を覗き込むと、そこには彼を袋詰めにする、がっしりとした体格の男が二人。

 いや、比較的狭い路地だし、影になってるから、注意して見てないと気づかれにくいとは思うんだけど、何故こんなところで? しかも、何故に袋詰め!?

 と、一瞬私はぽかんとした顔になってたと思う。ついでに向こうも驚いて、動きが一瞬止まってた。


 その時、袋の中から「うう!」とくぐもった声が聞こえて、互いにはっと我に返ったときには、その二人組の一人が、「ちっ! そいつも捕まえろ!」と、いかにも人攫いらしいセリフを叫んだ。

 とりあえず逃げねばと後ずさったとき、急に目の前が暗くなった。

 背後にも仲間がいたのかと気づいたときには、すでに、おそらくは袋の中に詰められてた。


 頭から袋を被せられ、足首のところを紐で縛られてるみたいだから、傍から見たらエビフライっぽくなってるんじゃないだろうか。

 いやいや、呑気にそんなこと考えてる場合じゃないんだけどね、わぁ、この袋柑橘系の良い匂いがする。きっと、果物が入ってたんだな。

 お、大した強度じゃないけど、この袋にも一応魔術封じがかけてあるみたい。多分、魔術で燃やされたり、袋ごと盗まれないようにするためのだと思うんだけどね。決して、人攫い用ではないと思うのよ。


 なんてぐるぐると分析していると、「よいしょ!」という掛け声とともに、体がふわりと浮いた。

 ぐえっ! っちょっと! 痛い痛い痛い! 担ぐならせめてうつ伏せでお願いします! 背中側を曲げられてるから、せ、背骨が折れるううぅぅ! エビフライだけに、まさに海老反りってね!


 運び手の気の利かなさに袋の中で腹を立てていると、今度はどさりと何か硬いものの上に下ろされた。痛いぞこのやろー!



 やがてごとごとと動き出した振動に、荷車かなんかで、どこかに運ばれているのだろうということが分かった。

 隣にもう一つ何かが横たわっている気配を感じるから、きっと先に攫われた彼だと思う。


 まあ、ここで抜け出してもいいんだけど、二人の身に危険が無いのなら、彼を攫った奴らの目的やアジトを知ってからでも、遅くないような気がしてきた。


 だって、彼が私の思ってる通りの人物なら、これは重大事件だし。



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