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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
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13.あなたにお礼の花束を。


 雲一つない、真っ青な空が、なんとも気持ちいいこの日。


 現在、私は、シューミナルケアのお城の天辺。四角錐の形の屋根にこの国の国旗がはためいている、その旗の傍に腰掛けて、遥か下に見える街並みを見下ろしています。

 今日は、めでたくエル殿下の立太子の儀が行われる日で、城の前の広場には、多くの人が集まっていた。

 くくく、人がまるでゴミのようだ。……ちょっと悪ぶってみました。すみません。ちなみに、アリのようだ、だったら普通の感想?


 背後から襲う強い風に、ポンチョのような上着をはためかせながら、私は遠く空の向こうを見ていた。



 実はシューミナルケアに来て後、私は、風の魔術を使って届けられた、フェルくんの手紙を受け取った。


 フェルくんの軟禁はまだ続いていて、部屋から出ることは叶わないのだけど、室内では比較的自由に行動できるらしい。


 フェルくんは、手紙の中で何度も、牢屋から助けられなかったこと、事件に巻き込んでしまったこと、そして、自分の国が私にしたことを、謝っていた。


 それから、事の次第を手紙の中で説明してくれた。


 これは、兄王には秘密なのだが、フェルくんには、フェルくんを崇拝する味方が、城内にも城外にも、何人もいるらしい。

 その人達は、フェルくんを王にすることは考えておらず、ただ“光の御子”であるフェルくんに従うことを喜びとしているのだとか。

 そして、その人達から、城下の街で起きている子どもの誘拐事件の話を聞き、兄の治める国のために、何かできないかと、今回の行動を起こしたそうだ。


 それから、あの事件の後、城の魔術師が、あの地下の魔方陣を調べたそうなのだが、あの魔方陣は、精霊界と繋げて精霊を呼び出すものではなく、あの場で集めた魔力を瘴気に変換し、魔物を生み出すという仕組みになっていたらしい。

 あの魔方陣を、あの貴族の人や隊長が、どうやって知ったのかは不明だが、彼らは魔方陣の本当の仕組みを知らなかったのだろう。

 この情報も、フェルくんの味方の人が教えてくれたのだそうだ。


 その文を読んだとき、私はがっくりと肩を落とした。

 せっかく、元の世界に戻るための、ヒントになると思ったのに………。


 そして、誘拐されていた子ども達は、無事に家へと帰されたそうだ。

 子ども達は、栄養失調や精神的疲労で、衰弱してはいたが、命に別状はなかったらしい。

 結局、子ども達のことは誰にも聞けなかったから、私はほっと胸を撫で下ろした。


 最後に、今回のことは、ギリヤーケット伯爵と、テスワーク警備隊長の仕業ということが明らかになったらしいが、私が関与していたという疑いもまだ残されているようで、それに関しては、フェルくんが責任を持って晴らす、と誓いのようなものが書かれていた。



 もやもやと心の奥にわだかまる何かを、私は深く溜息を吐くことで収めた。




 その時、わあっという歓声が、下の方から聞こえてきた。


 ハティ様に今日の段取りと聞いたところ、王城の儀式を行う間で、エル殿下の皇太子の指名式を行い、その後この下にあるバルコニーに出て、国民へとお披露目をするらしい。


 押し開くようになっているガラスの扉が開かれ、そこから正装したエル殿下がゆっくりと出てきた。


 “光の皇太子”ということから、白を基調とした衣装に、王家の紋章であるバラのような花が刺繍された、ゆったりとした長さのマントを羽織っており、上からでも分かるその堂々とした出で立ちに、つい感嘆の溜息を吐いてしまった。


 エル殿下が手を振ると、より一層の歓声が上がる。

 女性のキャーッという甲高い悲鳴も聞こえてきて、まるでアイドルみたいだと思った。今度名前入りのうちわでも用意しとこう。

 「エリュレアール様~~!!」と叫ぶ声に、一瞬誰のことか分からなかった。あ、そっか、エル殿下の名前か。しかし、噛まずによく言えるなぁと、ちょっと感心してしまう。



 などと、ぼんやりとその様子を見ていた私は、はっとここに来た目的を思い出して、よしっと気合を入れた。



「夜の空」


 そう呟いて空に手を振れば、さっきまで青く晴れ渡っていた空が、日蝕の日のように暗くなった。

 

 いきなり陰った空に、下の方で悲鳴やざわめきが聞こえたけど、私は構わず続ける。


「花火」


 そう唱えて腕を振り上げれば、ひゅーっという音は無いものの、いくつもの光の筋が空へと駆け上がり。


 ドンッと盛大な音を立てて弾けた。


 大輪を咲かせた初めの一発に続き、ドンドンドンと音を響かせながら、次々と色とりどりの花火が暗い空を色づかせる。

 大小様々な光の花が、重なるように弾けては、キラキラと光をばらまきながら消えていく。


 そう、これは、以前エル殿下との練習中に思いついた、光の魔術による花火だ。

 私のイメージを形にしたものなので、その色や形も思い通り。打ち上げによる回転もないから、見える角度もばっちりです。

 ほーら、星形。次は、ピカ○ュウ。続いて、頑張って、ドラ○もん。


 と、誰にも分かってはもらえないが、いくつもの花火で空を埋めた。



 やがて、最後に打ち上げた、空全体を覆うような大きな一発が、金色の光をまき散らして消えていくのに合わせて、その光の欠片を花へと変えた。

 様々な色の花が、風に吹かればらばらと下へと流れていく。そして、それと同時に空も元の青空へと戻した。



 しーんと静まり返る国民に、あれ?まずかったかな、とひやりと腹の奥が冷えた。

 一応、事前にハティ様に相談して、不吉な現象だとは思われないだろうと、許しはもらったんだけど……。


 色とりどりの花が、花弁を揺らしながら地面に到達する頃に、いきなりどっと空気を揺らすような歓声が上がった。

 わあああ! とはしゃぐ声があちらこちらから上がり、バルコニーの前に集まった人達のみならず、街のそこここで、エル殿下を讃える声が聞こえてくる。

 国民のみんなが空に手を上げて、花を捕まえようとしながら、口々にエル殿下の名前や「光の皇子!」と叫んでいた。


 その活気が上まで伝わってきて、あ、悪いことにはならなかった、とほっと息を吐いた。


 そのまま、私が下を見ると、いつから私に気付いていたのか、エル殿下がこちらを見上げて苦笑いしていた。

 それに、ふへへと、悪戯がばれた子どものように笑い返す。



「随分と派手にやったねぇ」


 いきなり聞き覚えのある声が聞こえて、私は首を捩じって背後に目をやった。

 すると、近くの屋根に、真っ白なコートを羽織った、淡い金色の髪に金色の目の、長身の男の人が立っていた。

 その人は、危うげもなく軽い足取りで屋根の上を移動し、私の傍へとやって来る。


「琥珀様」


 私は目線を、下のバルコニーに立つエル殿下に戻しながら、その人に声をかけた。

 その人がこちらに顔を向けたのが、視界の端で分かったけど、私は顔を下に向けたまま。


「もし、私のいない間に、あの人に何かあったら、力を貸してあげてもらえませんか?」


 お願いします。と言葉を続けた私に、彼はゆっくりと口の端を上げて、

「珍しいね。君がそこまで他人を受け入れるなんて」

 と、面白そうに言った。


 その言葉に、私は、彼の方に顔を向けて、困ったように笑った。


 そんな私を見ていたその人は、ふんわりと柔らかい笑みを浮かべ。


「うん、いいよ。彼に力を貸そう」



 そう言った彼にお礼を述べて、私はその場に立ち上がる。


 強い風に髪を流されながら、すうっと大きく息を吸い込んだ。

 そして、口の横に両手を添えて、


「エル殿下ーー! ありがとーー!!」


 腹からの大声で、空の向こうに向かって、そう叫んだ。下まで声は届いてないだろうけど。何か叫びたい気分だったんです。


「青春だねぇ」


 背後から、くすくすという笑い声と共に聞こえた言葉に、ちょっと、恥ずかしさで鳥肌が立ってしまった。



 でも、まあ、本当に、助けに来てくれて嬉しかったから。おかげで色々と気づけたこともあるし。



 だからね、―――ありがとう。



 これで、一応第2章は終わりです。

 伏線を張るだけ張って終わってしまった気がしますが……;


 ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました<(__)>

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