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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
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12.シューミナルケアへ!


 そのまま、エル殿下の護衛の騎士さん達のところに、エル殿下が行こうとしたので、私は必死に懇願して、何とか地面へ下ろしてもらった。

 うん、そうだな、これは寝不足だからだ。エル殿下は、完徹のせいでハイになっているんだ!


 と、今の出来事を記憶から消し去って、私は、護衛の騎士さん達のところへ駆け寄った。

 そして、ここまで来させてしまい、迷惑をかけてしまったことを詫びた。

 すると、騎士さん達は、「これも、仕事ですから」と答えてくれたんだけど、その目が、すっごく微笑ましいって感じ全開で。


 もうね、色々と精神的にすり減ってる私からしたら、その温かい眼差しも、視線による暴力ですからね!精神的に大ダメージですからね!


 何かを弁解したいのだが、何をどう弁解すればいいのか分からないまま、色々と諦めた私は、騎士さん達に頭を下げて、エル殿下の方へと戻った。



「彼らはどうするんですか?」


 一緒にシューミナルケアに戻るのかと、問いかけた私に、エル殿下は首を振り。


「あいつらには、一旦この街で休んで、ゆっくり戻って来るように言ってある」



 その殿下の言葉に頷いて、二人、城壁の傍のひらけた辺りへと移動した。


 そして、あ~もう! これは恥ずかしいんだけど仕方がない、と覚悟を決めて、エル殿下の手を握った。

 こちらを見てくるエル殿下の顔を、視界に入れないようにしながら、私は、「風の障壁。風の翼。上昇」と唱えた。


 途端、私とエル殿下の背中に、片方が二メートルほどの大きな透き通った双翼が現れ、その翼が吹き上げた風を捉えて、上空へと飛び上がった。


 これは、あれだ。ほら、「ああ、私鳥になって、この空を飛んでいきたい」とか「そ~らを自由に~、と~びたいな~」とかゆうあれです。

 いや、私だって、空を移動しようと思った時に、色々と試したりしたんですよ?

 ハンググライダーみたいなのとか、パラシュートぽいのとか、ムササビみたいなのとか、忍者とか。

 ちなみに、風を受けるものを使わずに、体だけで飛ぼうとすると、空中での浮力の維持とか、移動するときなどに、すごく魔力を使うのです。

 だから、何か風を受けるものがあった方が省エネになって、機動性を考えたら翼になっただけで。


 え~、何をうだうだと説明しているかというと、つまり、背中から羽を生やしているこの状況が、すごく恥ずかしいってことです!



 と、激しい葛藤を抱えながら、私は上空から、シューミナルケアのお城の方へと体勢を向け、翼の角度と風を調節して、前進を始めた。

 あ、羽と一緒に、“風の障壁”を張ったのは、風圧と飛行物対策です。結構速いスピードで飛ぶので、以前鳥とぶつかりそうになって、すごく怖い思いをしたからね。

 それから、エル殿下の手を握ったのは、これって、初めの時は体勢を整えるのが大変だから、補助のためですよ。


 決して、お空のデートを目論んだわけではないです! ないんですよ!!



 私と手を繋いだまま、エル殿下は何とか体勢を整えようと、必死に羽を動かしていた。


 そんなエル殿下を見守りつつ、ぐんぐん遠ざかって行くテミズ教国のお城に、私が苦い思いを抱いていると、何とか体勢の維持に成功したエル殿下が、そっと言葉を紡いだ。


「お前の状況について、フェルベルト王弟から、手紙をもらったんだ。『自分は助けに行けないから、助けてやってほしい』と」


 その言葉に、私はエル殿下に目線を移し。


「え? 助けられないって?」


「フェルベルト王弟は、現在自室で軟禁状態にあるそうだ」


 そう言ったエル殿下に、私は目を瞠った。


「軟禁って、どうして!?」


 慌てる私に、エル殿下は複雑な顔をして。


「テミズ教国では、“光の御子”は何者よりも高貴で絶対的な存在とされている」


 話がずれたことに首を傾げながらも、私は頷いた。


「だが、現在のテミズ教国の王は、光属性を持つフェルベルト王弟ではなく、光属性を持たない兄の方なんだ」


 言葉を区切って、エル殿下は目線を私に合わせた。


「我が国では表面化しなかったが、前王が亡くなったのが突然だったこともあるし、うち以上に、し烈な王位争いがあったのだろう」


 そして、未だにフェルくんを王にしようと企む貴族達も多く、フェルくんはあまり自由に行動することを許されていないのだそうだ。

 そんな時に起こした今回の騒動に、騒ぎを起こした罰として、自室に軟禁されることになったらしい。

 それで、自分ではどうしようもできないから、光属性持ちのエル殿下に、監視の目を盗んで、風の魔術で手紙を飛ばしたのだと。


「あれ? でも、どうしてエル殿下に?」


 私が首を傾げると、エル殿下は、空いている方の手で、私の胸元を指差し、


「たまたま、お前が付けているその首飾りを見たのだそうだ。それで、お前がシューミナルケアの王族と縁のある者だと分かったらしい」


 と言った。

 私は、服の上から胸元を見て、なるほどこの首飾りも色々と役に立つのだなぁと、感心していた。



 そうして、もう見えなくなった、テミズ教国のお城の方を、再び振り返る。


 あの、闇の精霊王を呼び出す魔方陣のあった地下室で、警備隊長の妹への想いを羨んでいたフェルくんの顔や、自分が死ねば、と呟いていたフェルくんの言葉が、頭を過る。

 フェルくんはきっと、その王様になったお兄さんが好きなのだろう。

 では、お兄さんの方はどうなのだろうか。


 フェルくんも風属性の持ち主だから、その気になれば、城を抜け出してこうして空を飛んで、どこまでも行くことができるだろう。

 光属性があると分かれば、どこの国でも手厚く迎えられ、生活には困らないはずだ。

 でも、フェルくんはきっと、どんな状況に陥っても、それをしないだろう。そう、思った。




 そんなことを考えながら、しばらく飛行を続けていると、下の方にぽつぽつと見たことのない湖や森、街や建物が見えた。

 それに興味を示せば、エル殿下が名前や成り立ちなんかを説明してくれる。相変わらず博識な人だ。時折冗談なんかを交えて、二人で笑い合った。


 はっ! いやいや、だからこれは決してお空のデートなどではなく!!


 誰にか分からない言い訳を、脳内で必死にしていると、やがて、視界の先に白く大きな建物と、それを中心に広がる建物の屋根群が見えてきた。


「城だ」


「おお~! 何だか、すごく久しぶりの気がします」


 なんて話しているうちに、お城はぐんぐんと迫ってきて。


 あ、でも、以前城を出るとき、二度と戻らないつもりで格好つけて出てきたというのに、一カ月もしないうちに戻ってきてしまった。

 うわ、そう考えると、みんなにどんな顔して会えばいいのか分かんないかも……。



「そういえば、城には結界が張ってあるんだが、このまま突っ込んで大丈夫なのか?」


 エル殿下に言われ、私ははっとお城に目を凝らした。

 そうだった、この城には、城壁の上から城全体を囲むように、ドーム状の結界が張られているのだ。

 慌てて着地場所を変更しようとするも、もうお城は目の前にあって。


 さて、問題です。空気の入った巨大な風船に、身一つでタックルをかましたらどうなるでしょうか?

 正解。ばいーんと跳ね返される。


「うわっ!」


「ぎゃー!!」


 案の定、城の結界に跳ね返されたエル殿下と私は、城壁の外の茂みへと落下した。

 一応、“風の障壁”を張ってたから、怪我とかはしなかったけど、衝撃がすごかった。脳味噌が揺れたね。


 ガサガサと音を立てながら、茂みから這い出てみると、城の結界に何者かが衝突したことと、それが茂みに落ちたことを聞いた兵士達が、何事かと駆けつけてきて、葉っぱだらけの私達は、困ったように笑うしかなかった。




 その後、兵士の人達に生暖かい目を向けられながら、私達はシューミナルケアのお城の門をくぐった。

 そのまま、エル殿下に続いて城内に入ると、向こうから駆け足で近づいてくる、ナディア様とカクさんスケさんが見えた。


 駆け込んだ勢いのまま、ナディア様にお腹にタックルをされて、私はつい「ぐほっ!」と乙女らしくない声を出してしまった。

 「お体は大丈夫ですの?」と、上目づかいに心配そうに聞いてくるナディア様に、打ち震えるような感動を覚えた私は、危うく頬ずりをしてしまうところだった。

 

 ナディア様の後から来たカクさんは、

「ひっさしぶり~! 大変だったね~」

 とニコニコ笑っており、その感情の篭らない軽い物言いに、ちょっとイラッとさせられたり。


 続いて傍に来たスケさんには、「元気そうで良かった」と頭を撫でられて、心臓に衝撃をくらい、ついよろめいてしまった。

 ああ、何でしょうその落着き。大人の深い包容力を感じさせられます。



 その後、エル殿下の帰還の知らせのために、執務室に向かうエル殿下に付いて、私ももはや執務室の主……もとい、ハティ様に挨拶をしに行った。


 「まったく、何をやっているのですか」とか言いながら、どこかほっとしたような苦笑いを浮かべられて、思わず「ハティ様ああぁぁぁ!」と抱き着きたくなった。

 城の結界に激突したことに対しては、呆れたように溜息を吐かれたけど。



 一連のやり取りが、何だかすごく楽しくて、嬉しくて、私は久々に声を出して笑った。



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