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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
42/75

10.感激MAX!

何だこのタイトル……;



「………どうしてここに……」


 ぽつりと漏れた言葉に、相手は私のいる牢獄の扉の鍵を開けながら。


「また、変な騒動に巻き込まれたと聞いてな」


 キイと金属の擦れる音がして、牢の扉が開く。



 呼ばれるままに牢を出て、約一月ぶりに会ったその相手………エル殿下を、私は呆然と見上げた。

 

 薄暗い地下牢の中なのに、その姿はやけに神々しく、美術館で見た絵画の天使のようで。

 ああ、後光が見えます、エル殿下!

 思わぬ救世主の登場に、私は不覚にも手を合わせて拝みたくなった。




 エル殿下の後に続いて、地下牢への入り口の扉を出ると、そこに看守の人が立っていて、エル殿下に私の荷物を手渡した。

 そのままエル殿下に頭を下げ、その後ろの私には、忌々しいような目を向けてくる。



 薄暗い石造りの階段を上り、重々しい鉄製の扉を潜れば、そこには青い空と緑の木々が広がっていて、久々の外の空気に、私は手を大きく広げて肺いっぱいに空気を吸い込んだ。


 そんな私に目を細めた殿下は、「行くぞ」と声をかけて、どこかへと歩き出した。

 私も慌ててその後へ続く。


「そういえば、どうして殿下がここに?」


 改めて殿下の背中に疑問をぶつけると、エル殿下は少し後ろを振り返って、「その話は、ここではまずい」と、苦笑いを浮かべた。

 ふむ、何か事情があるのかと、大人しく頷いておく。


「じゃあ、どうやって、私が出れるようにしてくれたんですか?」


 やっぱりあれですか? 権力ってやつですか? きーっ、大人って汚い!

 そう、手元にハンカチが無かったので仕方なく、唇を噛み締めていると、私の表情を横目で見ていたエル殿下は、私の考えを読んだかのように苦笑いを深めて、顔を正面に戻した。


「俺は、シューミナルケア帝国の第一皇子だが、それ以前に光属性の持ち主でもある」


「えと、それで?」


「この国の王や上層部のやつらに、お前は我が国に縁の深い者であるから、俺が身元を引き受けると言ったんだ。

 それでも渋った奴らには、『光の御子の意志に従え』と………」


 そこまで言って、エル殿下が何かを思い出したように笑った。


「“光輪”を使ったんだ。以前お前と光魔術の練習をしていたときに、お遊びで作ったあれだ。」


 その殿下の言葉に、私は記憶を探る。


 ああ、そういえば、頭の背後にうっすらと光を纏わせる魔術を作ったことを思い出す。

 後光みたいなもんで、「何かこれってかっこ良くないですか?」とか言いながら、大仏様のポーズとかして二人で大笑いしてたんだが。


「光を背負った俺を見て、そこにいた者達がいっせいに膝を付いたぞ。あまりの効果に、俺も驚いたがな」


 その時のことを思い出したのか、エル殿下は少し困ったような表情になっていたけど。


 へえ、思わぬところで役に立つものだと、私はエル殿下の後頭部の辺りを見た。

 しかし、この精巧に作られた容姿に、眩いばかりの金色の髪で、背後に光を背負ってたら、光の精霊を称えるこの国の人達からしたら、かなりの衝撃だったんじゃなかろうか。まさに光の精霊の化身って感じで。


 そりゃひれ伏したくもなりますよねぇ。

 え? ていうか、さっきエル殿下の背後に後光が射して見えたような気がしたのって、その魔術のせいとかじゃあ………?


「そいつらとの話し合いの時に、俺の光属性を見つけたのがお前だということも言ったんだが、どうも納得がいかないといったような、複雑な顔をしていたぞ」


 続けられたエル殿下の言葉に、私は、そうだろうなぁと苦笑いを浮かべてしまった。

 だって、彼らが崇拝する光の属性を持つ者が、彼らの忌避する黒い色を有しているのだ。うーん、なんていうか、基本理念の崩壊?

 別に、その人の持つ属性によって、髪や目の色が変わるわけじゃないんですけどね。

 変なところに固執しちゃってんのよねぇ。



 朝の爽やかな空気を肌に感じながら、私ははっとあることに気が付いた。


「あれ? 私どのくらいあそこに入ってました?」


 ちょっと歩調を速めて、エル殿下の斜め後ろまで近づいて、問いかけた。


「俺が知らせを受けたのが、お前が牢に入れられた日の夕方だから、四日ぐらいか。」


 横目で私を見ながら答えたエル殿下の言葉に、私は目を瞠った。だって。


「え? 私がここに来るまでに、馬車で十日ぐらいかかりましたよ? なのに、殿下は約三日で来たんですか? どうやって………?」


 そんな私の問いに、エル殿下は目を逸らし、「馬でな」と返した。


 ええ? 馬で、ここまで三日って、まさか不眠不休で………?


 眉を寄せた私に気付いたエル殿下が、「兵の訓練ではよくあることだ。大したことじゃない」と苦笑いを浮かべる。


 私の前を颯爽と歩く姿は、危うげも疲れた様子も無くて、それが本当に体を鍛えているからなのか、それとも疲れを見せないという彼の精神力によるものなのか、分からなかったけれど。

 無茶をしてでも、急いで駆け付けてくれたエル殿下に、心臓がぎゅっと苦しくなった。


 あ、でも。


「立太子の儀までに、確か後三・四日しかないですよね!?」


 国を挙げてのイベントだから、そう簡単に日にちをずらしたりはできないはずだ。

 そう思って焦ったように問えば、エル殿下は苦笑いを深めて、


「何とか間に合うだろ。」


 と軽い口調で返してくる。

 それは、また帰りも不眠不休でってことだろうか。

 いやいやいやいや、そんなことをしたら、城に帰る前に今度こそ倒れちゃいますよ!


「じゃあ、私が風の魔術でお送りします!」


 私は、しゅたっと手を上げてそう申し出た。



 殿下が何かを言おうとしたとき、「あんた!」と女性の声がして、私はむぎゅっと柔らかい何かに顔を覆われた。

 驚きにぴきんと固まった体も、太い紐のようなものでぎゅううぅぅっと締め付けられる。


 てか、く……苦しい……! ああ、でも何だこれ。柔らかいし、あったかいし、良い匂いがする………。


 呼吸がままならないにも関わらず、私は不思議な幸福感に包まれていた。

 うふふふふふ、何かしら、ここは天国かしら? ああ、ふわふわの白い雲が周りに………。


 徐々に白くなっていく意識が、危うく途切れそうになったとき、ぐいと誰かに体を引っ張られた。

 いきなり呼吸ができるようになって、私は本能的に大口を開けて空気を吸い込んだ。

 あれ、もしかして、私いま窒息死一歩手前だった?


 え、一体何が起きたの? と辺りをきょろきょろと見回すと、何だか足が地に付かない。

 ぶらぶらと揺れている足に、頭の上がハテナだらけになる。


 やがて、脇の間に誰かの腕があって、どうやら誰かに持ち上げられているのだということに気が付いた。


 え? 誰かって、誰??


 と背後を振り返ると、そこには見慣れたぱっちり目。

 あれ? 小山さん?

 何が起きているのかと首を傾げていると、小山さんは私の向こうを見ながら。


「リシャトリエ姉。それじゃあ、この人が窒息してしまうっす。」


 小山さんにつられてそちらを見てみれば、そこには腰に手を当ててばーんと胸を張るリシャ姐さんの姿が。


 え? もしかして、さっきまで私がいたのはあそこですか!?

 あああ! 何でしっかり意識を保っていなかったんだ、私! 胸に埋もれるなんて、めったに出来ない体験だったのに!

 てか、本当に窒息出来たよ! すごい! ボイン本当にすごい!

 頭の中にボインコールがわき上がる。


 死に掛けたにもかかわらず、称賛の目でリシャ姐さんを見てしまった。



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