3.よくある展開(?)に遭遇しました。
残酷描写あり。でも、拙い戦闘シーンですみません。
帝都まで徒歩で後8日ほどかかるかな、等と考えていたある日。
片側に森、そしてもう片側には雑草の生い茂った荒地が広がる、踏み固められただけの道を歩いていると、道の先の方から悲鳴や喧騒、金属のぶつかるような音が聞こえてきた。
何事かと小走りで近づくと、道の真ん中で3台の馬車が立ち止まっており、その周囲には兵士だと思われる人達が、大きな鷲のような魔物数十匹を相手に剣で応戦していた。
しかし、相手は巨大な羽を広げ上空から鋭い鉤爪で襲ってくるため、剣での対応はかなり苦労しているようだ。
しかも、やつの爪や嘴には毒があるから、掠り傷でも付けられることは危険だ。あ、ちなみに、この知識はギルドの魔物図鑑によるものです。
いや、しかし、3台の馬車のうちの1台、真ん中のやつってなんか妙に豪奢なんだけど。
前後の2台がシンプルで造りの頑丈さを重視したような茶色の馬車なのに、真ん中のは真っ白で、金色で細かい模様が施されているみたい。
しかも、あのドアのところの紋様って、もしかして皇家の………。
あれ?何だろう、このお決まりの展開。
これ、もし私が助けちゃったら、何か面倒臭いことに巻き込まれちゃったりしない??
助けて、
「ありがとうございました!」
「当然のことをしたまでサ!じゃあ、この先気を付けてね☆でわ!!」
「あ!せめてお名前を!」
「名乗るほどの者じゃないさ~~~」
とかって、何事もなく立ち去れるだろうか。
まさか、「助けてくださったお礼に」とかって、どっか連れて行かれちゃったりとかしないよね??
もしくは、「貴様のような庶民に」とか暴言吐かれちゃうと、心折れちゃうよ??
とっさに、私は辺りを見回した。
私以外に、この窮地を救える真のヒーローがいるんじゃないかと思ったからだ。
だが、残念なことに私以外には人っ子一人いなかった。通行人Aも村人Bもいなかった。
私がそんなことを考えているうちに、護衛と思われる兵士の人達も徐々に押され始めており、馬車を囲む輪が狭まってきている。
兵士の一人が、魔物の爪にやられたらしく、腕を抑えて膝を付いた。
ふうと一つ溜息を吐いて、私は腰の武器―――黒光りする15センチほどの銃を1丁構えた。
あ、ちなみにこの銃、弾は入ってませんよ。
これは、私の魔力を圧縮し弾丸にして、撃ち出す武器なのです。
いや、臆病者の私には、剣のような、敵を倒した時にその感触を感じたり、返り血なんかが飛び散るような武器は怖くて使えないので、苦肉の策で飛び道具にしたのですよ。
―――この世界に来て間がない時、タトリさんの家の近くで、食事のために兎のような動物を手にかけた。
じたじたと暴れる体を押さえつけ、手にしたナイフを突き立てるとき、恐怖に手が震えてどうしようもなかった。
兎もどきの命を奪った後、手に残った感触と、掌にこびりついた血に、気が狂いそうなほどの罪悪感を感じて、私はその場でへたり込み、何度も謝罪の言葉を繰り返しながら泣き叫んだ。その後、しばらくお肉が食べられなかった。
命を奪うことが怖くて怖くて怖くて。
何もしなくてもお肉が手に入る元の世界が、いかに平和で、いかに恵まれていたか、私は噛み締めるように思い知った。
けれど、自分が食べるために、生きるためには、他の命を奪わなければならなかった。
特に、凶暴な魔物がそこここに出没するこの世界で、武器を持たずにいるのは殺してくださいと言っているようなものだから、武器を持たないという選択肢はなかった。
相手が魔物だからといって、生き物を殺す罪悪感は簡単には捨てられない。
いや、殺すことへの罪悪感、震えるほどの恐怖感は決して忘れてはいけないのだと分かっている。
でも私は弱いから、自分が壊れないために手に感触の残らない武器を選んだのだ。
飛び道具を武器とすることに決めて、最初に試したのは、某漫画の霊界探偵の主人公が使うような指先に霊力―――私の場合は魔力だが―――を集めて発射するという方法だった。
いや、普通に魔術も使えたけど、どうしても規模や範囲が大きくなりすぎるので、ピンポイントで敵を狙える方法を考えていたのだ。
この方法は、確かに命中率も威力も良かったけど、何というか撃った後の味気なさとか、武器を持った気がしないところから、私は銃を作ることにした。
何より、旅の途中に武器を見せてくれと言われて、親指と人差し指で銃の形を作ってみせるのは、何か白い眼で見られそうだという危惧もあったし。むしろこっちの心配の方が大きかったし。
というわけで、タトリさんの家の近くの山で採れた金属を魔術で加工して、二丁の銃を作ったのです。
いや~、私のような素人にもそれなり物が作れるんだから、魔術って本当に便利よね。
でも、デザインとか装飾にはあまり詳しくないから、シンプルで真っ黒なのだけど。
さて、構えた銃に、火の弾丸をイメージして魔力を込めた。
鷲のような魔物が毒を持っていることから、火で焼いた方が良いだろうと思ったからだ。
狙いを、兵士を襲っている魔物の一つに照準を合わせて引き金を引く。
パシュッという、サイレンサー付の銃のような音がして、真っ赤な弾丸が銃口から飛び出す、と紅蓮の軌跡を残しながら魔物の羽に当たり、途端に魔物はゴウッという音と共に赤い炎に包まれた。
ぐぎゃゃぁぁぁ!!!
甲高い声を上げた後、魔物は瞬時に焼き尽くされ、黒い灰となって消えた。
間を置かず、私は次々と弾丸を発射しては、魔物達を打ち落としていった。
どこからともなく飛んできた炎の弾丸に、それまで魔物と戦っていた兵士達も混乱していたようだけど、誰かが私の存在に気付いた後は、呆気にとられながら魔物達が倒される様を見ていた。
やがて、馬車の上空を覆っていた魔物達をすべて倒すと、私は銃を腰のホルダーに戻し、馬車の方へ近づいた。
警戒心や不審を顕わにする兵士達に構わず、地面に座り込んだり、倒れたりしている兵士に近寄った。
いや、まあ別にこんなことしてないで、さっさと立ち去ればいいと思うんだけどね。
でも、私が介入すべきか悩まずに、直ぐに魔物を倒していれば、彼らは傷を負わずに済んだかもしれないと思うと、小市民の罪悪感がちくちくと疼くのです。
だから、私は座り込む兵士の横に膝を付き、苦しそうに息を吐く兵士の、緑色に変色した傷口に手を翳した。
「解毒。治癒。」
ぽつりと呟いて魔力を放出すれば、傷口はみるみる元の肌色を取り戻し、気づけば傷口も綺麗に消えていた。
黙っていても魔術は使えるんだけど、こうして言葉にした方がイメージを固めやすいのよね。
かと言って、RPGゲームみたいな回復呪文を唱えるっていうのも………何か精神的に激しい抵抗があったもので、大人しく漢字でイメージしているのです。
瞬時に治った傷に、また周囲からざわめきが上がるけど、私は構わずに次々と負傷者を治療していった。
そして、すべての治療が終わった後、すっくと立ち上がり、事態に付いて行けていない周囲を放置して、颯爽と立ち去ろうとした―――のよ。
したんだけど………!
「お待ちください!」
まさに鈴の転がるような凛とした声が、無傷の真っ白い馬車の中から聞こえてきた。