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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
39/75

7.いざ突入です!その2。



 あー、まあ、幸いなことに、通路には何の仕掛けもなく、私達は黙々と真っ暗な通路を走っていた。

 光を点けようと思えば出来たけど、そんなことを口に出せる状況でもなく、ただ黙って足を動かした。



 やがて通路の先に、ぼんやりと灯りが浮かび上がった。

 その火によるオレンジ色の光は、明らかに人工的なものだと分かる。


 フェルくんと並んで通路から飛び出せば、通路の先は十畳ほどの広さの何もない部屋で、その奥に重厚な鉄製の扉が見えた。


 そして、その扉の前に、一人のでっぷりとしたおじさんが立っていた。

 その派手な服装と、両手にはめられた大きな石の付いた指輪はいかにもで。


「ギリヤーケット伯爵」


 そのおじさんに対して、フェルくんが声をかける。


「き……っ! 貴様、何者だ!!」


 扉を背にしたおじさんは、顔を真っ赤にしてフェルくんを睨みつけ、怒鳴りつけてきた。

 唾でも飛ばしそうなおじさんに、フェルくんは至って冷静に、


「貴殿の悪事もここで終わりだ。貴殿が“闇の者”だということが明らかになれば、すぐに異端審問機関から捜査の手が入るだろう」


「なっ……!!」


 フェルくんの言葉に、おじさんは息を飲んだ。


 まあ、確かに、国教である光の精霊信仰を揺るがしかねないしね。

 しかも、闇の精霊王まで引っ張り出そうとしたなんて、国家転覆を図っていると思われても仕方がないのかも。

 異端審問とか、信仰に関して大抵のことは自由だった日本人からすると、ちょっと理解できない世界なんだけどね。


 毅然と言い放ったフェルくんに対し、そのおじさんは顔を強張らせながらも、


「闇の精霊王の手に掛かれば、邪魔な者共など、一瞬で消し去ってくれるわ! そして、この儂こそが闇の精霊王による新たな国の王になるのだ!」


 歪んだ顔で、おじさんは笑った。


 ああ、うん、いかにも悪役って感じだ。

 闇の精霊王を呼び出そうとした理由も、自分が王になるためですか。それをお願いする気ですか。

 殺 さ れ ま す よ !!

 と、何故か私の体に震えが走った。


「そんなことはさせない!」


 フェルくんが強く言うと、おじさんはぎりぎりとフェルくんを睨みつけ、腰に手をやった。

 そして、腰に下げていた剣を抜くと、フェルくんに向かって切り掛かってきた。


「フェルくん!」


 慌ててフェルくんの前に入ろうとすると、フェルくんは私を肩を掴んで止め、自分の剣を鞘ごと抜き、おじさんの方へ躍り出た。


「うおおおおお!」


 と声を上げながら剣を振り上げたおじさんのお腹に、フェルくんが鞘付のままの剣を叩きこんだ。

 カハッと息を吐いて、おじさんが地面に倒れ込む。

 そして、フェルくんが体勢を直しておじさんの方を振り返ったとき、おじさんの剣を持ってなかった方の手が上がった。


「危ない!」


 私が声を上げると同時に、おじさんの手から風の鎌が放たれた。


 フェルくんの顔めがけて放たれたそれを、フェルくんは寸でのところでかわしたけれど、風の鎌の端がフェルくんの仮面に当たり、それを跳ね上げた。

 宙を舞った仮面が石の床に落ち、カシャンと音を立てて砕け散る。


「フェルベルト……王弟殿下……」


 風に巻き上げられた白銀の髪が、フェルくんの額に落ちるのを見たおじさんが、目を見開いて呟いた。

 次の瞬間、フェルくんは、おじさんの首元に剣を落とし、おじさんを今度こそ気絶させたようだった。


 おじさんを見下ろしたまま、私に背を向けるフェルくんに、私もどうにも困っていた。


 あー、今何か聞こえたかしら? いやいや、うんうん、私は何も聞いちゃいないわ。フェルくんが、ピーチョメチョメ(脳内自主規制)だなんて、はっはっは、やだなぁ、そんな物語みたいなことあるわけナイナイ!

 しかも、フェルベルトで偽名がフェルだなんて、ははは、そんな安直な、ははははは……。


 頑張って今聞いたことを無かったことにしつつ、私は砕け散ったフェルくんの仮面を見ていた。


「……フェルくん……」


 私が声をかけると、フェルくんは僅かに肩を揺らしてから、私の方をゆっくりと振り返った。

 その灰色の瞳が、不安そうに揺れた気がしたけど。


「仮面壊れちゃったけど、どうする? 下半分の方しとく?」


 私が、床の仮面の破片を指差しながら聞けば、フェルくんはちょっと目を瞠った後、苦笑いを浮かべて首を振った。


「いや……もう、ばれてしまったしな」


 後半の方は小声だったけど、聞こえてますから!

 せっかく人が、聞いてないことにしようとしてるんだから、とぼけ通してよ! 誰かと勘違いしてるんだろう、とかありきたりな言い訳ぐらいしなさいよ! もしくは、このおっさんボケてんな、なんて暴言吐いてもいいから!


 やる気見せろやぁ! と内心拳を握りながらも、私は、そう、とだけ頷いた。



「子ども達はこの奥だろう。行くぞ!」


 扉を真っ直ぐに見ながら言ったフェルくんは、目元がきりりとしてて、ちょっとかっこ良かったぜい。



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