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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
38/75

6.いざ突入です!その1。



 決行は夜ということで、一旦みんな準備やら何やらのために解散することになった。


 フェルくんは相当下調べをしていてくれたらしく、本当に、後はただ忍び込むだけ、という状況だったらしい。

 だから、必死にメンバー集めしてたのね。


 ちなみに、警備兵に頼まないのは、フェルくんなりの事情があるようだ。

 あの仮面といい、謎多き少年だ。そういうお年頃なのか。





 そうして、その夜。人々も眠りについているであろう深夜に、私達は目的の屋敷の前に来ていた。


 え? ちょっと、フェルくん! 下調べを頑張ってたとこは褒めるけど、侵入が正面からってどういうこと!?

 こういう場合は、普通裏口とか、地下の秘密通路とか……ああ! 皆さん行く気満々ですね!

 突入ーー!! って、ちょっと置いてかないでぇぇ!



 門の前に立っていた門番を、あっという間に小山さんとリシャ姐さんが殴って気絶させ、一気に屋敷の庭へと駆け込んだ。


 すると、異変に気付いたのか、茂みの中から十数匹の番犬が……。


 え? なんだ、あの番犬、何か変……?

 普通の大型犬よりも、二回りは大きな体に、ぼこぼこと瘤だらけの背中、色は真っ黒で、凶暴そうな唸り声をあげている。

 いやいや、いくら異世界だからって、こんな奇妙な犬は見たことが無い。

 どうやら魔物のようだが、それにしてもその体を形作る瘴気の状態がおかしい。……まるで、無理矢理注入されたような――。


 ガアアァァァ!!


 大きく吠えた番犬―― 一応そういうことにしておこう――が、いっせいに飛び掛かってくる。


 すると、私達から一歩前に出た小山さんが、ぶんと棍棒のようなものを振り回して、飛び掛かってきた番犬を打ち飛ばした。


 す、すごい、ナイススイングです、小山さん! そんな武器を持ってたなんて! まさに、鬼に金棒、って、ええ!?

 小山さんが持っていたのは、本当に金棒でした! 鉄製で、痛そうなとげとげがたくさん付いた……。

 いや、鬼に金棒の意味をこの場で体験できて、非常に勉強にはなったけど、それ以前に、その金棒を見ているだけで、自分まで痛い気になってくるのは何故でしょう?

 魔物の体とはいえ、あれでぶん殴られた番犬に思わず同情してしまうのは、何故でしょう!?


 と、私が内心で、うひいいいぃぃぃ! と悲鳴を上げている間にも、飛び掛かってくる番犬を小山さんが打ち返し、リシャ姐さんがアラビアンナイトに出てくるような曲がった形の双刀で切り捨て、大山さんが火の魔術で焼き払った。


 そう、驚きですがこのパーティー、前衛担当が小山さんとリシャ姐さんで、後衛が魔術師の大山さんらしいのだ。

 てっきり大山さんが最前衛だと思ったんだけどね。

 ああ、でも、背後が大山さんなら、安心して後ろを任せられるっていうのもあるのかも。


 あ、私!? す、すみませんが、私は走るのに必死ですよ! 走りながら銃を撃つなんて、器用なマネできません!

 何より、この状況でヘタに撃ったら、大山さんや小山さんに当たる!

 フェルくんと一緒に、しっかりガードされちゃってますからね、三人に。役立たずですみません!


 と、考えながらも、私達は全力で中庭を駆け抜け、屋敷の入り口へとたどり着いた。

 屋敷の入り口を開け、中に入ろうとする間にも、番犬達は次々と襲いかかってくる。


 それを、屋敷の入り口で立ち止まった小山さんが、


「ここは自分が何とかするっす! 先に行ってください!」


 と、カッコよく叫んだ。


 きゃ~~! 映画みたーい! と、喜んでる場合じゃなくて、え? そのセリフって、何かのフラグみたいで怖いんだけど!

 大丈夫だよね、小山さん、大丈夫だよね!?


 私がハラハラしている間にも、リシャ姐さんと大山さんは頷いて、私達を先に促す。

 きっと、三人の間にはしっかりとした信頼関係があるんだろうけど、私は心配で仕方がない。


「風の障壁、光の障壁。」


 とりあえずの保険として、小山さんに対物理攻撃用の防御結界“風の障壁”と、対魔術攻撃用防御結界“光の障壁”をかけておいた。


 無事に追いついて来てね、小山さん!

 その弁慶のような勇ましい背中を見ながら、私達は屋敷の内部へと走り出した。




 先頭に立って道案内をするフェルくんについて、私達は広い屋敷の中を駆けた。

 屋敷の中は複雑に入り組んでいて、似たような廊下が続いているため、すでに私は自分がどの辺りにいるのか、さっぱり分からなくなっていた。

 こうなったら、行も帰りも君だけが頼りだ、フェルくん!

 

 途中何度か、屋敷の警護の私兵のような人にも会ったけど、そんな時はすかさずリシャ姐さんが前に出て切り倒し、大山さんが魔術で攻撃を――って、大山さんは魔術を発動するのと同時に、大きな杖のようなもので相手を殴り倒していたけど……うん、確実に、その杖の方が攻撃力高いよね。

 どかんどかん人が飛んでいくのですが。



 そうやって、何とか追手を振り払いながら走っていると、フェルくんが、壁際に一定間隔で銅像の置かれている廊下の、一つの銅像の前で立ち止まった。

 どうかしたのかと問いかけようとしたが、フェルくんはその銅像を、見回したり撫でたりしている。

 いや、その銅像がね、何処かの髭のおじさんの銅像なもんで、ちょっと奇妙なものを見てる気分ですよ。

 どうしたフェルくん。いったい何があったんだ。それがそんなに気に入ったのか?

 と、声をかけるべきか私達が悩んでいたとき、「あった」と、フェルくんが声を上げ、その銅像の一か所に手を翳し、魔力を込めた。


 すると、その銅像の横の壁の一部が、ずずずずずと音を立てて横へずれ、そこに奥へと続く通路が現れた。


 ま、まさかの隠し通路!

 その人一人分の幅の通路の奥は真っ暗で、奇妙な不気味さと、アドベンチャーへのわくわく感を感じさせる。

 この先はあれかな、左右から槍が飛び出して来たり、地面がパカッと開いたり、大きな玉が転がってきたりすんのかな? と、状況を忘れて恐る恐る隠し通路を覗き込んでみる。



「いたぞ! 侵入者だ!」


 私がそんなことをしている間に、私達のいる廊下の前と後ろから、多くの警護私兵が駆け込んできた。

 あわわわわ、す、すみません!


 左右から雪崩れ込むように襲いかかってきた警護私兵との間で、その場は一気に混戦状態になった。

 私も腰から銃を抜き、風の衝撃波を打ち放って、私兵を吹き飛ばす。


 何とか背後の隠し通路を守りながら、そこにフェルくんを押し込んで、「よし、ここは私に任せろ!」と、勇ましく言おうとしたんだけど、気が付けば私まで通路の中へと放り込まれていた。

 えええ! と、慌てて後ろを見ると、通路の入り口に、無表情のまま攻撃をする大山さんと、私達の方を振り返り、「ここは何とかするから、あんた達は先に行な!」と、笑うリシャ姐さんが見えた。

 ああ、何ですかその勝気な笑顔! すごく色っぽい………じゃなくて!

 いやいやいや、今回は私もそちらが良いですよ! 防衛頑張りますから、どうぞお二人が先に、と言おうとしたんだけど。


「何をしている! 行くぞ!」


 フェルくんに腕を引かれ、通路の奥へと走り出すはめに。



 ああ、あの「ここは任せて先に行け!」って状態って、タイミングとか、相手に有無を言わせない感とか、実は色々とテクニックがあったんですね。

 なんて思いながら、遠くなっていくリシャ姐さん達を見ていた。


 とりあえず、私にできたことは、二人にも“風”と“光”の防御結界を張ることぐらいです。



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