4.自己紹介をしました。
食堂に着いて、とりあえず、お互いに自己紹介をすることになった。
大人数を収容するような食堂らしく、長い机に丸椅子がいくつも並べられている、その一角に私達は向かい合って座っていた。
片側には、ボインの女性を真ん中にして、その両サイドに大山さんと小山さんが座っている。
二人とも大きいから、一人が椅子二つ分のスペースをとってる。
その向かいには、私とフードの人が並んで座っていた。
これ、傍から見たら、ものすごく変な組み合わせに見えると思う。
この三人を前にしてると、自然と体がちまっと丸まっちゃうんだよね。何とも言えない圧迫感を感じる。
まずはこちらから自己紹介しよう、と、ボインの女性が名乗った。名前をリシャトリエ・トレノさんというらしい。
そして、他の二人も紹介してくれる。
大きなほうのお山さんが、ダンクス・トレノさん。
名前で分かるように、ダンクスさん―――申し訳ないが、私の心の中では大山さんと呼ばせてもらおう―――と、リシャ姐さんは夫婦なのだそうだ。
似たもの………というか壮観夫婦だ。
この人に口説き落されてねぇ、と色っぽく頬を染めながらリシャ姐さんは、ばしばしと大山さんの腕を叩いていた。
しかし、大山さんは表情を変えることも、びくともしなかった。
この人がどうやってリシャ姐さんを口説き落としたんだろう。機会があれば、是非とも二人の馴れ初めを聞いてみたい。
それから、小山さん、お名前は、トニゼッティ・ボランというらしいけど、もう小山さんで良いだろうか。
実は、大山さんと小山さん、こんなに見た目も体型もそっくりなのに、赤の他人らしい。てっきり、兄弟か何かだと思っていたのに、びっくりだ。
何でも、小山さんが大山さんに憧れ、大山さんを目標に日々努力をしているらしい。
人間、目標って大事なんですね。ここまで近づくことができるなんて!
大山さんと小山さんの身長差は、遺伝によるものか、小山さんが成長期だからか。
是非とも頑張って、双璧ならぬ双山になってほしいものだ。夫婦山は無理だからね!
それから、三人はパーティーを組んで、ギルドで色んな依頼をこなしているらしい。
ギルドランクは、リシャ姐さんと大山さんがAで、小山さんはB。パーティーランクはAなのだそうだ。
なんて心強い!
と一通り紹介してもらったところで、フードの人がフードを脱いだ。自己紹介をするためだろう。
その様子を横から見ていた私は、思わず目が点になった。
え? だって、そのフードの下には………
「………仮面…」
あ、つい口に出しちゃった。
いや、だって仮面だよ! しかも、顔全体を覆うやつじゃなくて、顔の上半分を覆うような、滑らかな白磁の仮面なんだよ!
私の頭の中を、某ロボットアニメの金髪の人や、美少女戦士のタキシードの人が通り過ぎて行った。
ネタが古い? いや、前に、昔懐かしのアニメで見たもので、つい。
「何だ?」
横からまじまじと見ていた私に気付いたのか、フードの人、改め仮面の人が不機嫌そうに聞いてきた。
「何で仮面?」
いや、今日初めて会った人ですけど、この疑問を口に出してしまったのは仕方がない。
「顔を隠すためだろうが。」
何を言ってんだ、と顔を顰められたけど。いやいや、だからって、………え? この世界では、これが普通なの??
「何だ、こっちの方が良いのか?」
相変わらず、ぽかんと見上げている私に何を思ったのか、仮面の人は懐から今度は口元だけの仮面を出して、顔の上半分の方を取り外し、下半分の方を付けた。
今のであなたの素顔分かっちゃいましたけど。
う~ん、下か、下半分かぁ。
これだと、単にマスクをしてる人に見えるような……もしくは、どこかの忍者かしら。白くて忍んでないけど。
しかし、こういう仮面で顔隠してるの見ると、どうやって食事するのか、いっつもつい気になるのよね。
まあ、とりあえず、私は上半分を進めときましたよ。
あのまま日焼けしたらどうなるのかが、気になったからってわけでは決してない! 下半分の場合も見てみたかったけどね! 食事してるところも見てみたかったけどね!
仮面を外した時に見えた彼の姿は、ふわふわ猫っ毛っぽいグレー混じりの白銀の髪に、濃いめのグレーの瞳。目元もちょっとネコ目っぽい。
年齢は、私と同じくらいかちょっと下かも。幼い顔つきだったし。
将来有望そうな、生意気そうな美少年でしたよ。
仮面付けてると、目元が隠れてちょっと大人ぽくなるから………うん、身の安全のためにも仮面しときなさい。
彼は名を、フェルと名乗った。
まあ、仮面を被って正体を隠しているくらいだから、本名ではないと思うけど。
彼に続いて私も簡単に自己紹介をした。
旅をしてるってことと、フェルくんとは今日会ったばかり、って感じのことをね。