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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第2章
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3.何かに巻き込まれました。



 あ、私の存在、気づかれてました? 頑張って気配消してたんですけど。


 いや、ただの通りすがりです、と笑顔で答え、立ち去ろうとしたのだが。


「ああ、こいつにも依頼を受けてもらったんだ」


 フードの人が何でも無い風に言った。


 え? っちょ! 私受けるなんて一言も言ってないんですけど!

 ああ、ほら、女性の方も、戦力になんの? みたいな顔で見てらっしゃるじゃないですか!

 私はそういった依頼は向かないんですよ!


 ほら、見てください、あそこの依頼書! 庭の草むしり、って書いてあるでしょ? 私には、あちらの依頼の方が性に合ってます。


 燦々と降り注ぐ太陽の下、日焼け防止用の完全装備をして、庭を覆っている草をザクザク抜いて行くんです。

 途中虫なんかが出てきちゃって、きゃっ、と声を上げながら、それを放り投げ。

 お昼には、塩だけで握ったおにぎり……は無いので諦めますが、木陰でお弁当を食べて。

 作業が終わる頃には、綺麗になった庭に、ほうっと溜息を吐いて達成感を噛み締めるんです! ああ、なんて健康的!


 間違っても、人のお屋敷に忍び込むなんて、不健全なお仕事は嫌です!


 と、私が断ろうとしたとき。


「こいつは、光の属性を持っているんだ。こいつがいた方が、都合がいい。」


 フードの人がさらっと言った。


 くっ、こいつ! ええ、ええ、私だって、あなたが光の属性を持ってるなんて、とっくに気づいていましたとも!

 しかし、先に言われるとなんか悔しいな。今度から、会う人会う人の属性ばらして回ったろか。


 と、私がぎりぎりしていると、女の人がぎょっとして私を見た。




 そう、ここ、テミズ教国では、創造神が世界に融けた後、光の精霊こそが世界の原点であるとし、光の属性を持つ者――この国では光の御子と呼ばれる――、は、神の意志を具現する者として、絶対的な存在とされているのだ。

 光の御子の意志は神の意志、逆らう者は神に背くものであり、悪である、みたいなね。


 そして、光の精霊を崇め奉る一方で、闇の精霊は世界を無に還すもの、世界の終焉をもたらすものとして、恐怖され、忌避されている。

 だからこの国では、光の精霊の色である白は尊い色であり、闇の精霊の色である黒は嫌悪すべき色として、扱われているのだ。



 そうそう、私の髪と目も、ちょっとあのままではやばかったようで、この国に来た時にお世話になった商人の方が心配をして、色々と教えてくれたのです。

 いや、日本の恵比寿様みたいに人のよさそうなお顔の方でした。


 それで、現在の私は、光の魔術で目の錯覚を利用して、髪と目の色を変えています。

 髪は少し濃いめの茶色、目も茶色です。

 カラフルな髪や目に憧れなかったわけじゃないんだけどね、あんまり元の色と離れすぎると、ぼろが出やすくなるので。



 あ、私が光属性持ちだと知って、女性の人が複雑な表情をしてる。

 本当だろうかって疑わしいのと、ひれ伏すべきなのかって悩んでる感じ。

 いや、そんなことしなくてもいいですから。むしろ私が、そのボインにひれ伏したい。ご利益ありますかね?


「そういうあなただって―――」


 人の属性ばらしておいて、何食わない顔をしてるフードの人が何だか腹立たしくて、この人のもばらしてやろうかと口を開こうとしたとき。


 私達に、影が差した。


 いや、建物の中だし、昼間だから灯りは点けてなかったから、もともとあまり明るくは無かったんだけど、より一層暗くなったというか。

 

 んん? といつの間にか目の前にできてた壁を見上げていくと、そこに山があった。

 ええええ? と、ぽかんと口を上げて見上げていると、山の頂上、あ、失礼、その人の頭がわずかに動いた。

 切れ長の威圧感のある目が、私より遥か高い位置から私達を見下ろしているようだが、多分頭頂部しか見えてない気がする。

 しかし、大きい。2メートルは優に超えていると思われる身長に、筋肉の付いたがっしりとした体形。

 黙ってズーンと立っていると、本当に山みたいだ。


 と、少し顔を動かせば、あれ、隣にももう一個山が。


 先ほどの山よりは頭一つ分小さめだが、良く似た体形に、あ、でも目はぱっちり愛嬌を感じさせる。


 わー、でも、彼らの三分の二ほどの身長しかない私からすれば、この二人に目の前に立たれると、とてつもない息苦しさを感じる。

 というか、周囲の景色が全く見えなくなったんだけど。私の景観返して!


「どうしたんすか?」


 小さいほうのお山さんが、ボインの女性に声をかけると、女性は私の隣のフードの人を見ながら、

「どうやら、この人が依頼人らしいよ。」

 と答えた。


 へー、と言いながら、小山さんがフードの人を覗き込む。


 あ、フードの人が押されたように後ずさった。

 フードの人からしても、小さいほうのお山さんも大きいほうのお山さんも、ボインの女性も、だいぶ大きいからなぁ。




 結局、いつまでもみんなでそこに立っているわけにもいかず――いや、ほとんど掲示板全体を覆っちゃってたからね。

 近くの食堂に、移動することになった。


 というか、何故私まで連れてこられているのでしょうか?


 私としては、移動する間こっそり逃げようとは思ってたのよ。

 ただ、気が付いたら、フードの人に上着の裾を摘ままれてました。

 何となくだけど、依頼のために逃げないようにしたというよりは、この三人相手に一人で挑みたくないっていう方が、本音な気がするんだけど。


 私は道連れか。



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