2.テミズ教国に来ました。
ボイン。
え? あれ、おかしいな、何でボイン? 目の前で揺れる巨乳が真っ先に頭に浮かんだ。
あれ、いや、違う違う。その見事な谷間に何か隠れてそう、って、いや、関係ないから!
顔埋めたら、本当に窒息するの?って、オヤジか私は!
もっと、カメラ引いて引いて。そうそう、全体的に。
えと、あれは確か、シューミナルケアのお城を出てから、帝都では元の世界に戻るための情報は得られなかったし、ギルドでちょうど、隣国テミズ教国の首都コンタツに行く商人の護衛を募集してたから、それに便乗して、馬車に十日ぐらい揺られて、テミズ教国に来たのよ。
それで、首都コンタツで、魔術資料館に行ったり、口コミで有名な魔術師を探して話を聞いたりしつつ、仕事でもしようかなと、ギルドの依頼の張られている掲示板を見てたのね。
あ、ちなみに、皇帝陛下の依頼をこなしたからか、ギルドランクが、一気に2ランクアップのCになってました!
いや、あまりランクが上がるようなことした記憶が無いんだけど、まあ、何かRPGゲームで、レアモンスターを倒して、一気に経験値獲得! レベルが2上がりました! ラッキー! ってな気分です。
あ、例えがマニアックで申し訳ない。
弟に借りてよくやってたのよ。RPGゲーム。
「おい」
なんてことをうだうだ考えながら掲示板を見てると、背後から声が聞こえた。
あれ、私かな、と思って少しだけ後ろを振り返る。
いや、掲示板を見たい人が、ちょっとずれて、とかって言ってるのかと思って。
すると、そこには、ベージュ色のマントを身に纏い、顔も見えないほどに深くフードを被った、私よりも少し背が高いくらいの人が立っていた。
え? なに、怪しい。と、私がつい後ずさってしまったのも、もはや防衛本能というやつだ。
そのまま何でも無い風を装って、掲示板の前を離れようとしたんだけど、もう一度その人物に声をかけられた。
「そこのお前」
いや、これは私にじゃないと、すっとぼけて立ち去ろうとしたけど、悲しいかな、その場所には私とその人しかおらず、その人に行き先を遮られた。
きゃー、何か変な人に絡まれたー、と内心焦りながら、その人物を見上げる。
まあ、顔は見えないんだけど。見えるのは顎先か。うん、なかなか形の良い顎先だ。
「何ですか?」
声が、警戒心丸出しだったのは許してほしい。だって怪しいんだもの!
すると、そんな私に構わず、その人物は掲示板をすっと指差した。
「その依頼は受けないのか?」
は? と、首を傾げながら掲示板を振り返り、その人の指差した依頼書を見てみると、
『貴族の悪事を暴くために、屋敷に忍び込む。協力者求む』
と書いてあった。
って、アホかああぁぁぁ!!
何じゃこの、馬鹿正直な依頼書は!
忍び込むってことは秘密の計画なんじゃないの!? 何でこんなところで、計画丸出しにしてんの!? やる気あんの!?
いや、依頼内容がはっきりしてて、考えようによっては親切かもしれないけど!
てか、良くギルドの人もこんな依頼書載せたなぁ、と思っていると、おや、この紙なんか変。
まさか、まさかとは思うけど、勝手に貼ったわけじゃないよね?
「受けませんよ」
危険な内容だけに、報酬の額はかなり高額だったけど、いやいや、怪しすぎるでしょう。
何かの罠か? とも疑ってしまうけど、こんないかにも疑って下さいって感じの罠ってあんのかしら?
「何でだ!?」
と、その怪しい人が声を荒げる。
ええ~、こっちが何でだ!? ですよ。受ける必要性が分かりません。
「これなんかどうだい?」
私が再度お断りの言葉を口にしようとしたとき、いきなり隣から声がした。
おや、いつの間にか他に人が来ていたようだと、隣を向くと。
ボイン。
え? あれ? 何これ?
ちょうど私の目の前に、非常に立派なボインがあるんだけど。あ、ボインって、女の子が使う表現として大丈夫かしら?
しかし、本当に目の前にたわわな巨乳が。おおお~、と心の中で感嘆の声を漏らしてしまう。
つい釘づけになりすぎて、上を見るのをしばらく忘れてた。
ちらっと隣を見れば、フードでわかんないけど、顔の角度からしてその人も、その立派な巨乳に目が奪われているようだ。
いや、ちょっと触っていいですか、と言いたくなりつつも顔を上げれば、ウェーブを描くオレンジ色の豊かな髪を肩に流した、褐色の肌のエキゾチックなお姉様がおられました。
うわー、背も高い。なんたって、私の目の前にちょうどボイン……いや、胸がくるぐらいだ。
何となく見ていると、彼女が手にしているものが目に入った。
あ、そのいかにも怪しい依頼の紙は………。
「それを受けるのか?」
隣にいたフードの人が、彼女に声をかけた。
どんだけ受けて欲しいのよ!
この人、掲示板を見ている人みんなに声をかけていたのかしら? よく摘み出されなかったわね。
「あんたは?」
その女性は、フードの人を訝しげに見下ろしながら、問いかけた。
「その依頼をした者だ」
フードの人がそう答える。ああ、やっぱりか。
その女性は、その人をじろじろと上から下まで見た後、「話を聞こうじゃないか」と頷いた。
え? 受けるんですか! 明らかに怪しい人物に怪しい内容なのに。
ああ、でも、あんなに馬鹿正直に依頼内容書いて、こんなに堂々と勧誘してるんだから、もはや疑うのも馬鹿らしいって感じなのかもしれない。
というか、何かあったら、目の前のこの人を絞めればいいのか。
とりあえず、受けてくれる人がいて良かったね。と、私がその場を離れようとしたとき。
「で、そこのあんたは?」
いきなりボインの女性に声をかけられた。