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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
32/75

31.それでは、お世話になりました。



 翌日、元々少ない荷物を纏め、数日お世話になった部屋を後にした。


 もちろん、この間何かと世話をしてくれた侍女さんにも、ちゃんとお礼を言ってね。



 その足で、一応の挨拶にとエル殿下の執務室へと向かう。


 執務室までの道を歩きながら、漸くこの道も憶えたのになぁと、やっぱり寂しくなった。



 ノックをして扉を開くと、そこには、執務机に着くエル殿下とハティ様、それから、テーブルに着いてるナディア様、スケさん、カクさんのいつのもメンバーが揃っていて、ちょっと驚いた。


 まあ、その驚きの何割かは、エル殿下が執務机に着いていたからだけど。


 私、良く考えたらエル殿下が仕事している姿、初めて見たような………。


 これもいい思い出ってやつになるのだろうか、一応目に焼き付けておこう。



「じゃあ、もう行きますね。お世話になりました。」


 笑って、改めて頭を下げた。


 そんな私をみんな複雑そうに見たが、まずスケさんが「気を付けてな。」と頭をぽんぽんと撫でてくれた。


 あ、何かどきっとしたぞ。大人の魅力ってやつだ。


 今回はスケさんの魅力を、ほとんど引き出せなくてすみませんでした。


 次機会があれば、もっとスケさんの秘密のベールを捲ってみたいと思います。



 すると、ナディア様が、「またいつでも戻ってきてくださいね!」と、ぎゅっとお腹に抱き着いてきた。


 うん、一緒に寝たり、ご飯食べたり、本当に楽しかったですよ。


 ナディア様と出会って、まだ十数日しか経ってないっていうのが、すごく不思議な感じだ。



「今度は一緒に城下街回ろうね~。」って、カクさんが笑う。


 何だか、カクさんに対しては、ともに戦場を潜り抜けた同志意識のようなものを感じるのだが。


 私達は、どちらともなく手を固く握り締めた。


 ふへへ、いいお化け屋敷探しときますから、また一緒に行きましょうね。


 へ?懲りてない?いやいや、カクさんと一緒だと、カクさんの方が怯え方が激しいから、こっちは怖さが減るんですよね。


 え、S心ではないですよ。カクさんの怯えてる姿が楽しいだなんて、決してそんなこと思っちゃいませんよ!


 たぶん私が怪しい笑い方をしていたからだろう、カクさんが訝しげな顔をしていた。

 


 それから、いつの間にか傍に立っていたハティ様は、「存分に、思うことをやってきなさい。」と、私の頭に手を置いた。


 うん、鬼畜ではあったが、色々と気にかけてくれたハティ様は、まるでお母さんのよ………いや、ないない、母は無い!


 やっぱり、学校の先生かなぁ。常に厳しく、ときに優しい、みたいな女教師!


 あ、いたた、ハティ様、頭押さえつけないで下さい。縮む、背が縮んじゃいますから!


 だから何で、考えてることが分かるんですか!?



 最後にエル殿下は、「門まで送る。」と、私の背中を押した。


 え、いやいや、良いですよ!せっかく仕事してたんだから、仕事してください!との私の念は、エル殿下には通じなかった。


 ハティ様や、カクさんにも何となく伝わるのに、何故エル殿下には分かってもらえないのか。



 うむむ、と複雑に思いながら、エル殿下の背中を見ながら歩く。


 そういえば、この背中には色々とお世話になったなぁ、と感謝の念を送っておく。背中に。



 特に会話もなく、門の前に到着してしまい、え、何のために送られたの?これ。と、私が困惑していると、エル殿下は胸元から何かを取り出し、その手を私の前に出した。


 殿下の手に乗っていたのは、シューミナルケア皇家の紋章である、バラのような花の細工が巻き付いたヘッドに、ダイアモンドのような透明な石が嵌められた、ペンダントだった。


 首を傾げて殿下を見上げれば、すっとそれを首に掛けられる。


 えええええ?これ、くれるってことなんですか?何かすごく高そうなんですが!


 貸すって言われても、返す当てなんか無いですよ!


 慌てて、鎖に手をかけた私の手を、殿下が上から手を重ねて止める。


「持っていろ。」


 照れくさそうな声に、目を瞬いた。


「それは俺に関係のある者という徽章だ。門でそれを見せれば、直ぐに城に入れる。」


 それを聞いて、私は鳩尾の下辺りにあった、白銀のペンダントヘッドを手に取って、じっくりと見てみた。



 ああ、そう言えば、この石は、皇家の人によって色が違うのだと聞いた気がする。


 確か、その人の髪や目の色など、その人に関わる色が使われるらしいんだけど、何でエル殿下は透明な石なのだろう。


 

「一月後、俺は立太子の儀を行う。」


 石を見ながら首を傾げていると、殿下がそう言葉を発した。


 その言葉に、以前にハティ様が言っていたことを思い出す。


 そうか、これで気兼ねなく、皇太子になれるんですね。


「おめでとうございます。本当に良かったですね。」


 笑ってそう言えば、殿下は「お前のおかげだ。」と笑った。


 いや~、こうして美形に感謝されるなんて、満更でもないですね。


 属性を見つけたのは偶然だし、言い出した経緯もあれですが、まあ、終わり良ければすべて良しってやつです。




 いつまでも、こうしてほのぼのしているわけにもいかず、「じゃあ、もう行きますね。」と告げると、


「ああ、いつでも戻って来るといい。」


 と、頭を撫でられた。



 ここ数日だが、何か皆さん人の頭を撫でるの好きですよね。


 え、何ですか、それは、もしかして背が低くて撫でやすいとか、そういうことですかね!?もしくは子ども扱いですか!?実はケンカ売られてたんですかねぇぇぇ!


 なんて無理矢理思考を逸らそうとしてみましたが、照れ隠しです、すみません。


 もー、その優しい手つきがすごい恥ずかしいです。なに?何なのこれ?


 心臓を羽毛で擽られてる気分。ぞわわわわわわって、こそばゆ過ぎる!

 


 あわわわわ、門番の兵士の方にすごく微笑ましそうに見られてる。


 私はぱっと顔を上げ、「お世話になりました!」とはきはきとお礼を言って、素早くエル殿下から離れた。


 エル殿下に向かって深く頭を下げて、温かい目を向けられながら門番の兵士さんにも挨拶をし、今の出来事を記憶から抹消してくれることを祈りながら、門の外へと歩き出した。



 振り返れば、まだエル殿下はそこにいて、それにへらりと笑い返してから、背を向けた。


 もう振り返らないつもりで。






 門を出て、城下へと続く、石畳の緩やかな坂道を歩く。


 ふと上を見上げれば、青く澄んだ空はとても綺麗で、何だか誰かさんの瞳みたいで。


「楽しかった……な。」


 つい、そうぽつりと漏らしてしまった。



 これで第1章は終わりです。

 ここまで読んで下さって、ありがとうございました<(__)>。

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