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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
31/75

30.謁見の間に行こう!その2。


 陛下に許しを得て、中央に敷かれていたカーペットを捲ると、そこには一辺20センチほどの正方形のブロックみたいなものが、床に嵌められていた。


 その上部の窪みにはひねるような摘みがあって、遠慮なくそれを右にひねってみると、90度ほど回ったところで、ずずずずずっという音と共に、正方形の台がせり上がってきた。


 え?何これ何これ?とテンションが上がりながら見ていると、摘みの付いている天板が左右に割れて、下からドーム状の半透明の水晶が出てきた。


 私の頭の中では、何かのヒーローものの、出撃シーンの音楽が流れている。


 その一連の出来事に、一緒に謁見の間まで来ていた皆さんが、何だ何だと周りを囲むように集まっていた。

 思ったより人数が多くて、………熱気で暑い。



 え?何これ?何かのスイッチ?


 これを押すと、謁見の間が回り出すとか、天井が開くとか、より大きな仕掛けが動き出すのでしょうか?


 ちょっとわくわくしながら、ドーム状の水晶を押してみる。


 ぺち………


 ああ、何か、どこからともなく、何してんの?みたいな視線を感じるんですけど。

 


 誤魔化すように、おほんと1つ咳をしてみる。


 そして、よくよく観察してみれば。


「あ、これ、魔力が切れてますね。光の魔術を使う装置のようです。」


 そう言って、念のため皆さんに壁際に移動してもらい、エル殿下にご協力頂いて―――え、だって1人で挑むのって怖いじゃないですか―――、水晶に魔力を注いでもらう。



 そうして、しばらく魔力を注いでいれば、突然水晶がカッと四方に光を放った。


 え?何何?と水晶を見ていれば、誰かが「あれは!?」と、声を上げた。


 その声に顔を上げれば、謁見の間の壁から天井にかけて、ウェ皇帝の傍に浮かび上がったみたいな、薄いセピア色の映像が浮かび上がっていた。


 そして、その映像が動き出すと共に、石の台座から音が響く。




 その映像は、やはり誰かの目線から見たもののようだった。


 最初に映ったのは、後ろの方だけ長い淡い色の髪を括り、古めかしい鎧に身を包み、長いマントを羽織った青年だった。


 高台に立っているその青年の周りには、同じように鎧を纏った数百人の人々。


 そして、彼が見下ろす大地には、地面と空を埋め尽くさんばかりの魔物達が蠢いている。



 その時いっそう強い風が吹いて、彼の髪とマントを揺らした。


 そんな中、彼は腰に差していた剣を抜き、それを空に向かって高く掲げた。


 その剣が根元から光を放ち、二回りほど大きな、光の剣に代わる。


 彼が何かを叫んだのと同時に、彼は丘を駆け下り、魔物の群れへと突っ込んで行く。


 彼の周りや後ろにいた人々も、いっせいに彼に続いて走り出した。


 先頭に立った彼が、光の剣を一閃すれば、目の前にいた魔物達がまとめて立ち消えていく。


 そこここで、人と魔物の交戦が起こり、魔術の炎や風などが沸き起こる。


 

 しばらくの混戦状態の後、場面は切り替わり、多くの死体が横たわる大地の真ん中で、彼は部下らしい男性に支えられ辛うじて立っている状況だった。


 しかし、その精悍な顔立ちは決意に満ち、彼の濃い色の瞳は強い光を宿していた。


 ぼろぼろに傷つきながらも、彼は、周りに集う人達を見回し、頷くと、手に持っていた剣を空へと高く突き上げ、


『我、イディシオム・シューミナルは、ここに我らの国の建国を宣言する!』


 澄んだ空のもと遠く響いた彼の声に、いっせいに大きな歓声が上がる。


 血に汚れ傷ついた人々が、互いに抱き締め合い、肩を抱き、涙を流しながら興奮と歓喜を顕わにしていた。




「これはまさか………建国史。」


 みんながそれぞれに天井を見上げながら、その映像に見入っていたとき、誰かがそうぽつりと呟いた。



 実は、私はずっと、この謁見の間の造りが気になっていたのだ。


 だって、窓は、陛下の座っていた王座の後ろに、しかもあまり高さの無いものがあるだけで、左右の壁には何もなく。


 柱だって必要最少限で、天井は高く丸くなっており、大抵こういった歴史ある王宮にあるはずの壁画も彫刻もない。


 ただ真っ白な壁と天井が広がるだけだったのだ。


 それがまるで、以前日本で行ったことのある、プラネタリウムの会場みたいで。

 

 やっぱり、この部屋は、この映像を映すための、大きなスクリーンだったようだ。



 しばらくみんなは感嘆の溜息を吐きながら、天井や壁を見上げていたが、そんな中、エル殿下がそっと顔を寄せてきて、実は建国史に関して記された書物が、この城にはどこにも存在してなかった、ということを教えてくれた。


 そして、この仕掛けに関しても、いつの間にか忘れ去られていたのだろう、と。



 建国史をあえて文書で残さず、このような形で残した人は、一体何を想ってこの仕掛けを作ったのだろう。


 まあ、その辺りもまた歴史のロマンですけどね。



「お手柄だな。」


 と笑った殿下は、やっぱり、何処か映像の中の男性に似ている気がして。



 その美形っぷりに、私が、その頬を思いっきり引き伸ばしたいと思ったとしても、仕方がないでしょうよ!(何ギレ?)



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