29.謁見の間に行こう!その1。
以前敷いた伏線の回収話です。
その日の夜、何と、皇帝陛下が夕食に誘って下さった。
マナーとか、どどどうしたら!?と、昼過ぎからパニックになっていた私を、エル殿下とナディア様が、「普通にしてればいい。」と宥めてくれた。
そうして、もういっそ今から出ます、と言っときゃよかったと、私が頭を抱えている間に、時間は過ぎていき。
どうも~、ただ今、映画とかでしか見たことないような、長いテーブルに着いている私です。
いや、想像してたのよりは短いけどね、でも、私と陛下までは5メートルほどの距離がある。
こうして実際に座ってみて、改めて思うけど、この長さの意味って何??
陛下のお言葉に答えるのにも、腹筋に力を入れて大きな声で答えないといけないから、食物を詰め込まれている胃が、過重労働に文句言いそうなんだけど。
縦長のテーブルの両端に座っている皇帝陛下と私、そして、陛下の両サイドにはエル殿下とナディア様がいた。
第二皇子は、今は帝立イル・シェール学院にいるらしく、また、皇后様は、体調を崩していて、避暑地の方で療養中らしい。
とはいえ、そんなに体調が悪いわけではなく、休暇がてらに離宮に行っているのだそうだ。
いや、実は最初っから、皇后様のことは気になってましたよ。
だけど、聞いちゃいけないことだったらどうしようかと、今まで口に出せずにいたのです。
ああ良かった、胸のつかえが取れました。これで気兼ねなく旅立てる。
それから、思ったよりも夕食は和やかに進みました。
いやー、あの子にして、この親あり、と言いますか、さすが気さくなナディア様とエル殿下のお父様です。
皇帝陛下も非常に気さくな方で、最初がっちがちに緊張していた私にも、色々と話しかけて下さり、気が付けば非常に穏やかに会話ができるようになってました。
あ、食事の前に、エル殿下の光属性を見つけたことを感謝されました。
陛下が礼を口にされた時の、エル殿下の表情が、ぷぷ、照れくさいやらこそばゆいやら。
三者面談で、父親に、先生に対して「うちの子は良い子で~」と親ばか自慢されて、ちょ、父さん止めてよ、こんなとこで、なんて言いながら嬉しい、みたいなそんな顔。
隣に座っていたら、肘でうりうり~と脇腹を突いていただろう。
「それで、城の見学はいかがでしたかな?」
陛下がそう聞いてこられたので、
「ええ、とっても………楽しかったです。」
くうっ!最後の方をつい遠い目をして言ってしまった!
ここは建前として意地でも、充実した日々でした!とにこやかに答えておかなければならなかったのに!
しかし、どうしても、あの恐怖の日々が頭を過って………。
ああ、ほら!きっと事情を知っている陛下が、苦笑いしてらっしゃる!我が表情筋の正直者!
あ、でも、気になってはいたんだけど、行けてないところがあるのだ。
「あの、もし不躾な質問でしたら申し訳ないのですが………」
おずおずと言葉を切った私に、陛下は目線で先を促して下さった。
「謁見の間の、赤絨毯の下に、何かあります?」
その私の言葉に、陛下は少し考え込まれ、陛下の両サイドに座っていたエル殿下とナディア様は、きょとんと首を傾げた。
「いや、そのようなものは無かったと思うが………」
思い当たることが無かったのだろう、陛下が、そう答えられた。
一介の小娘に、謀略渦巻く世界を渡ってこられた陛下の顔色を読むなんて芸当はできないが、その表情に嘘はなさそうなので、私は遠慮なく気になっていたことを口にした。
「最初の日にあの辺りに立った時、足元から魔力の残滓を感じたんです。ですから、何か仕掛けがあるんじゃないかと、思ったんですが。」
いや、てっきり落とし穴だと思ってたのよ。
ほら、この無礼者!とか言って、陛下が天井から吊り下げられている紐を引いたら、足元がパカッと割れて奈落の底へ真っ逆さま、みたいな!
ちぇー、もしそんな仕掛けがあるんなら、是非とも見てみたかったのに。てか、紐引っ張ってみたかったのに。
「ほう。」
そう答えた陛下の目が、何か好奇心に輝いているような……。あれ、なにこれ、前にもどこかで見た様な……って、ナディア様だー!
わあい、思わぬところで父娘の共通点を発見!実に似た者親子なんですね。
というわけで、食事を終え、折角だから調べに行こう、ってことになりました。
何か、思いっきりわくわく感丸出しの皇帝陛下。
実は、先日の幽霊騒動にも参加したかったらしい。
止めてください、そんなことしたらお付や護衛の人がぞろぞろと………その方が怖さ激減だったな。参加してもらっておけばよかった!
そうして、私、皇帝陛下、エル殿下、ナディア様と、食事の間を出て、謁見の間への移動中、気が付けば、謁見の時に陛下の傍にいた神経質そうなオジサマ―――この国の宰相様だったらしい―――がいて。
途中会った、カクさんとスケさんが、「え、なになに~?」「また何かしたのか?」と、加わり。
ちょっとスケさん、今までの騒動は、別に私が起こしたわけでは………ないとも言い切れないところが悲しい。
曲がり角で出会ったハティ様は、溜息を吐きながらも加わり。
「別に問題を起こしたりはしませんよ?」と前もって宣言した私に、ハティ様は苦笑いをして「あなたが起こす騒動にも、しばらくは出会えなくなりますからね。」と。
え、何?一瞬心臓が止まりかけたよ。きゅんてしたよ!
ああ!やっぱり普段の鬼畜さとのギャップが大きいだけに、その破壊力は半端ないよ!あ、やばい、私ハティ様にハマりそうだ!こんなところで人生を捨てることになろうとは!
………しかし、だから何で、私が騒動を起こすことが前提なんですか!?
その後にも、ぞろぞろと廊下を進む豪華メンバーに、城で働く侍女さんや騎士さんや文官さん達が、え?何々?あ、ほらあの黒髪の人が噂の……。ああ、なるほど。なんて言いながら、後から付いて来る、付いて来る。
え?何その噂?ちょっと気になる………が、聞かない方が私の心の平穏のためにはいいのかしら?
しかし、どんだけ好奇心旺盛な人が多いの、この城!
こんだけの人の前で、実は何もありませんでした、てへ。じゃあ終われなくなるじゃないかああぁぁぁ!
こうなったら、もし何もなかったら、集まって下さった皆様に、日本人のお持て成しの心をつぎ込んで、一発芸でも見せるしかない!
物真似か?いや、あれは元ネタが分からんとどうしようもない。じゃあ、一発ギャグ……通じんのかしら、異世界で。
などと、どの芸にすべきか悩んでいる間にも、私達は謁見の間へと到着した。