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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
29/75

28.どうもお疲れ様でした。その2。

 とりあえず、どうしても気になるのは………。



「結局アイゼル妃は、誰が好きだったんですかね?」


 ちょっと手を上げて発言した私に、みんなの目線が集まる。


「だって、最後のヒューゴさんとアイゼル妃のやり取りだと、2人は恋人同士ではなかったようですし。愛の逃避行では無かったんですかねぇ。」


 私が首を傾げると、他のみんなも頷いてくれた。



「わたくしは、お互い口にはできませんでしたが、やはりヒューゴさんだと思いますわ!」


 あれ、ナディア様が元気になってる。てか、目がきらきらしてる。


 「お互い口にできなかった想い。それを死して後に漸く伝えることができたなんて、すごく切ないですわ。」と、遠くを見ながら、ほうと溜息を吐いてる。


 その様子は、昼ドラに心躍らせる奥様のようだ。 


 あれ?さっき静かだったのって、禁断の愛の世界に浸ってたからですか??



「もしくは、他に好きな人がいたとかね~~。」


 やっぱり少し元気が無いような様子で、カクさんがふっと笑った。


 ああ!違う!これは、様々な(精神的)苦難を乗り越えて、(精神的に)成長した者の、達観した余裕のある微笑みだ!世の中の地獄を見てきました、みたいな。


 RPG風に言うと、カクノシンは(精神的な)レベルが上がった、ってことか!


 んん?カクさんの名前って何だっけ?



「どうだろうな、女心は複雑だからな。」


 スケさんが手に持ったカップの中を見ながら、誰にとは無しに言った。


 えええ!?ス……スケさん!何ですかその意味深な発言!


 過去に女性と何かあったんですか?あったんですね!?心に禁断の思い出の宝箱があるんですね!!


 し……知りたい!いや、だが、スケさんのミステリアスさを今後も大事にしていくなら、そっとしておくべき!?でも気になる!!



「さあな。」


 疑問を投げかけた私に対して、エル殿下は苦笑いを浮かべながらそう返した。


 あっ、止めてください。その、人の恋愛事情が気になるなんて、まだまだ子どもだな、みたいな微笑ましげな眼差し!


 こんなところで大人の余裕を見せ付けても無駄です!


 私忘れませんからね!あなたが昨夜、カクさんのエル殿下人形をこっそり捨てようとして、カクさんの手から抜けなくて苦戦してた姿を!



「分かるはずがありません。」


 ええ、ハティ様は相変わらずのクールなお答えです。


 でも良いんです!ハティ様がこの話題に乗ってきた方が怖いですから!


 ナディア様みたいに、頬を染めてうっとりとされても………………………見たいいいいぃぃぃ!!



「カーヤさんはどう思われます?」


 興味津々に聞いてきたナディア様に、私はふっと笑い。


「私は、裏の裏のそのまた裏をひっくり返して、ウェ皇帝だと思います!」


 胸元で、両方の手でこぶしを作って力説してみた。


 しかし、みんなの反応は、ええ~?って、不評な感じだ。


 ハティ様は、「変な呼び方をしないで下さい。」と呆れ気味。



 でも、だって、すごく綺麗だったのだ。


 ウェ皇帝に向けた、アイゼル妃の、あの映像の中の笑顔が、どれも。


 そりゃあ、最後の方は、辛そうな顔だったり、泣き顔だったりしたけど、それ以前、きっとアイゼル妃が後宮に入るまでは、あんなふうにウェ皇帝に微笑みかけてたんじゃないかな、って思った。


 でも、もし、2人が心から想い合ってたんだとするなら、今回のこの結末は………。


 すれ違っちゃったんだろうな、気持ちが。お互いにうまく伝えられなかったのかもしれない。それはひどく悲しい。




 やっぱり、言わなきゃならないことは、ちゃんと直接伝えとかないと、だよね。


 うん、と頷いて、私はエル殿下を見た。



「殿下!」


 席を立って、声を上げた。

 そんな私に、エル殿下は驚いた顔をしたけれど。


「私は………」


 本当はずっと考えてた。


 いつ言い出そうかと悩んでたんだけど。


 ぐっと言葉を飲んだ私に、みんなの視線が集中しているのが分かる。


 よし、言うぞ、言うぞ。




 私は、一つ息を吐いて、ぐっとお腹に力を込め。


「私、明日この城を出ようと思います!」


 きっぱりと言えば、周囲から息を飲む声がした。


 殿下も、目を見張って私を見上げている。



 もう、エル殿下への魔術の教授も一通り終わったし、光魔術の最重要特性である“浄化”の魔術も問題は無かった。


 幽霊事件の解決はおまけのようなものだったけど、帝国図書館の魔術書も調べ終わったし、宮廷魔術師や、めぼしい魔術師の方々の話も聞けた。


 もう私が、ここにいる理由が無いもの。



 いや、本当は、いつ、どう言おうか考えてた。


 見送られるのはどうにも恥ずかしいし、別れの言葉を言うのは、何だか寂しくて。泣いてしまいそうで。


 みんなを前にして、「さようなら」なんて、言いたくなくなるほどには、みんなといるのが楽しかったから。


 だからと言って、いつ元の世界に還るか分からないから、「またね」って約束も躊躇われた。


 いっそ、みんなが寝てる間にこっそり出ていこうかと、ちらっと考えたこともあるけど。



 じっと殿下を見ていれば、殿下もしばらく真顔で私を見返し、やがてふっと笑って、「そうか。」と答えた。


 その言葉に、私は、ちゃんと言えてほっとするような、勝手にも、止められなかったことを寂しく思うような、複雑な想いを浮かべながら、笑った。


 うまく笑えていたかは、分からないけれど。



 だって、ここはあまりにも心地が良すぎて。


 いつまでも居たいと、思ってしまうから。



 でも、私は還らないといけない。


 きっと心配している両親や、弟が待ってるから。


 家族が、必死になって私を探している姿を想像するだけで、心臓が締め付けられるほどの痛みが走る。


 もういいから、自分で必ず還るから、ただ待っていて、と、せめて伝えられたらどれほどいいだろう。


 あの温かい家を、優しい家族を、穏やかな日常を、思い出すだけで泣きたくなるの。



 だから、いつまでもここにいるわけにはいかない。


 前に、進まなきゃ。



「つきましては、報酬は誰に貰えばいいのでしょう??」



 

 諦められないものがあるの。



 今後は、更新が遅くなります。


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