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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
27/75

26.突っ込み厳禁のシリアス展開。その2。



 あ、どうも、カーヤ・ナツキと申します。


 えー、この度はシリアス展開のようですので、私の突っ込み、感想等は控えさせて頂いて、実況中継のみに専念したいと思います。


 ちょ、うるさいのが居なくなったとか言わないで下さいね!地の底までヘコんじゃいますよ!?引き籠りますよ!!?



 こほん。でわ、どうぞー!







 わあああぁぁぁ!飲み込まれるよ!!  そう、思ったとき。


 

『止めてくださいっ!!』


 その、儚くも力強い声に、ヒューゴさんを覆うようにしていた瘴気が、ぴたりと動きを止めた。


『もう、お止め下さい。………陛下。』 


 悲しげな、声が響いた。



 ザザッ


 その時、砂嵐のような音がして、瘴気の塊の前に薄いセピアっぽい色の映像が浮かび上がった。


 それは、砂嵐だらけの薄いスクリーンに、何度も何度も途切れながらも壊れた映写機がカラカラと回り続けるように、一コマ一コマの画像を映し出しているようだった。


 これも“可視化”の魔術の影響だろうか、それとも他の何かの力が働いているのか、分からずに、私はそれでも目を凝らしてその映像を追った。


 ザザ…ッと音を立て、粗い砂嵐の後に現れたのは、覆面の男に金を渡すシーンだったり、ドレスを着た女性にナイフを突き立てるシーンであったりした。


 ただ、その映像はどれも、誰かの目線から見たものばかりのようで。


 おそらく目線の主は、―――瘴気の塊の本体となった………ウェ……皇帝、なのだろう。



 次々と切り替わる映像。それは、ヒューゴさんとアイゼル妃が笑いながら話しているものだったり、悲しそうに涙を零すアイゼル妃だったり、緊張で強張った顔だったり。


 その後はただ、笑顔、笑顔、笑顔。


 徐々に幼く遡っていく、アイゼル妃の、笑顔だった。


 そして、その笑顔の映像が、6・7歳くらいの女の子が、両手で一輪の花を握り、はにかむ様な笑顔で止まったとき。


 スクリーンに真ん中から亀裂が入り、ぱきぃんとガラスが割れるような音を伴って、粉々に砕け散った。



≪う……ぐ……おおおおおぉぉぉォォオオオォオォォォオオアガアアァァァアアアアアアア!!!≫



 黒い瘴気の塊から、絶叫が迸った。


 初めは人の声だったものから、低く太く地の底から這いだしてくるような声へと変わる。



 その叫びに、私はナディア様から手を離すと、通路の途中でしゃがんだままのエル殿下の方へ、急いで駆け出した。


 ああ、今ので、完全に黒い塊が魔物と化したのが分かった。


 先ほどよりも一回り大きくなった塊は、この世の全てを取り込もうとするかのように、辺りに触手を走らせる。


 そこにはもはや意思はなく、無差別に周囲のものを絡め取ろうと蠢き回る。


 やばい!このままでは、殿下達まで……!


「殿下!!」


 走りながら叫ぶと、エル殿下が驚いて顔をこちらに向けた。


「“浄化”の魔術です!早く!!」


 大声で言えば、殿下は頷いて、抱えていたバルールくんをそっと床へおろした。


 そのまま両手を前に掲げる。気を落ち着けるように、背中が一度上下した。



「浄化!」

 

 殿下の声が響くのと同時に、殿下の両手の間に急激に光が生まれ、その光は勢いよく大きさを増していった。


 まるで昼間になったような、強い光が辺りを包み、世界を真っ白に塗りつぶす。




「………え?」


 その時私の目に、光の中に立つ、5歳くらいの小さな子どもの影が映った。


 影なのではっきりとはしないが、その子は嬉しそうに笑ったかと思うと、くるりと体を翻して光の向こうへと走って消えていった。




 何だったんだと目を瞬かせる私と離れた所では、殿下の手元から伸びた光が、瘴気の塊を突き刺し、切り裂き、真っ白な光の奔流が黒い瘴気を拭い去っていく。

 

≪グギャアアアアァァァァァ!!!≫


 もがく様な絶叫を上げながら、瘴気の塊が散り散りに霧散し、やがて風に攫われるように消え去った。

 

 しばらくして訪れた静寂の中、私は手を下ろし荒い息を吐くエル殿下の傍らへと立った。


 その時ちらりと辺りを見回したが、やはりさっきの小さな子どもの姿はない。


 様子を見る限り、殿下は、いきなり初めて大きな光の魔術を使ったため、少し疲れてしまっただけのようだ。


 殿下の魔力にはまだ余裕があった。

 やはり、殿下の魔力は非常に膨大のようだ。


 ―――このことが、今後、彼を苦境に立たせるようなことに、ならなければよいのだけれど。


 ふと苦笑いを浮かべた私の目に、ふわり、と小さな光が過った。


 顔を上げてみれば、いつの間にか、辺り一面にふわふわと蛍火のような光の玉が、いくつも漂っていた。


 おそらくは、先ほどの“浄化”の魔術の残滓だろう。



 夜の帳の下りた真っ暗な世界に、小さな光の玉がゆらゆらと舞い飛ぶ。それは、ひどく幻想的で―――。


 その光の玉の向こうに、向かい合って立つ男女の姿が見えた。


 一人は、腰のあたりまで淡い金色の髪を伸ばし、上質なドレスに身を包んだ、遠目からでも儚い美しさを感じさせる女性。


 そしてもう一方は、騎士服をきっちり着こなした、カーキ色の長い髪を背中で括った、きりりと引き締まった顔立ちの青年だった。


 あれがきっと、生前のアイゼル妃とヒューゴさんの姿なのだろう。



 アイゼル妃を真剣な顔で見下ろすヒューゴさんの前で、アイゼル妃ははらはらと涙を流した。


『ごめんなさい、ヒューゴ……、わたくしのせいで、貴方まで………』


『どうか泣かないで下さい。これは、私も覚悟をしていたことです。それでも私は、あなたの願いを叶えて差し上げたかった―――。』


 涙で頬を濡らしながらも、顔を上げたアイゼル妃に、ヒューゴさんはそっと手を差し出し。


『………ようやく、貴方を外に出して差し上げることができる。さあ、参りましょう。』


 小さく笑ったヒューゴさんに、アイゼル妃も、戸惑いながらも小さく頷いて、ヒューゴさんの手に、自らの手を重ねた。


『世のしがらみから解き放たれた今だからこそ、ずっとあなたに伝えたかった言葉を、口にすることを許してください。

 ―――アイゼ、ずっと君のことが好きでした。』


 柔らかくも切ない愛の言葉に、アイゼル妃はそっと微笑んで、


『ありがとう。ヒューゴ。』


 それだけ、答えた。


 そんなアイゼル妃の言葉に、ヒューゴさんは満たされたように笑い。


 そのまま手を重ねた二人は、中庭の真ん中辺りまで歩み出たかと思うと、夜闇に溶けるように、すっと姿を消した。



 ただ静かに見守っていた私達の前で、小さな光の玉が祝福でもしているかのようにくるくると踊っていた。



 べたな展開で、すみません……;

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