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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
26/75

25.突っ込み厳禁のシリアス展開。その1。

 んで結局、夜中に行くなんて怖すぎる!これ以上付き合ってられっか!!と、夜になる前に城から逃げようとしたところをエル殿下に捕まり、部屋に立て籠もったところをナディア様に連れ出され―――ちなみに、ナディア様は、いっそここまで来たら最後まで見届けなければ気が済みませんわ!とのお覚悟だそうです。―――私はこうして無事!(涙目)集合場所の城の西棟にいるわけです。



 私とナディア様が到着すると、そこにはすでに、あまりのことに緊張して固まっているバルールくんとエル殿下、そしてカクさんの襟首を掴んだスケさんがいました。


 あ、スケさん。いないと思ったら、スケさんはカクさんの捕獲要員だったんですか。


 いつの間に無我の境地から帰って来たのか、カクさんは真っ青な顔でガクガクブルブル震えています。


 涙目で、「ねえ、俺ここにいなくてもよくない!?」とスケさんに縋りついては、「お前も見届けろ。」とスケさんに宥められてます。


 ああ、良かった、それでこそカクさんです。一人だけ高みに昇り詰めてしまうなんて、お天道様が許してもこの私が許しませんよ!




 辺りはもうどっぷりと暗闇に沈み、お城の方からもどんどん人の気配や灯りが無くなって、ひっそりと寝静まってきたころ。

 

 私達は、あの武器庫の建物の出入り口が見える辺りに待機していた。

 すぐに対応できるように、すでにこの辺一帯に、“可視化”の魔方陣が敷かれてます。


 エル殿下は、廊下の見える辺りの壁に背を付けて立っており、バルールくんはスケさんと何やら話している。

 もう、ヒューゴさんに慣れたんですか!やはり只者ではないようです!スケさん!



 そして、私とカクさんとナディア様は身を寄せ合って―――意地でもバルールくんの背後を見ないようにして―――、気を紛らわせるために話をしていた。


「あら、それは何ですの?」


 話が途切れたとき、ナディア様がカクさんの胸元に掛かっている物に気付き、カクさんに問いかけた。


 あ、それは私も実はずっと気になってました!


 カクさんに許可を得てそれを手に取ると、それは、な……何と!エ…エル殿下の手のひらサイズのぬいぐるみ人形!!


 何でも、お守り代わりにスケさんが作ってくれたそうです。どんだけ器用なのよ!んで、どんだけ愛されてんの!?


 しかも何か、人形の肌とか服とか、この手触りにこの光沢……良い布使ってますね。


 わあ、目はちゃんと青い……宝石ですか。しかもこの大きさ……いくら金かけたんですか!?この人形!!


 輝く金色の髪の毛なんてすごいリアル!


 な、何と、1本だけ本物のエル殿下の髪の毛が混ざっているそうです。どうやって手に入れたのかが気になる!

 しかし、その前に―――


 この人形持ってる方が怖いわああぁぁぁ!!


 思わずその人形を壁にぶつけようとしたが、その壁にエル殿下がいたので止めました。祟りが起きそう。


 ああ、でもバルールくんやナディア様が、ちょっと羨ましそうにこの人形を見てるよ。


 うん、とりあえず、このお守りが流行らないことを祈っとこう。エル殿下の髪の毛のために!




 なんて、比較的まったりと時間が過ぎていたとき、途端に辺りにぴりりとした緊張が走った。


「来たみたいだな。」


 エル殿下がそう言って壁から背を離した。


 そして、バルールくんに目をやると、バルールくんはすでに事情を聞いていたようで、こくんと頷いて武器庫の建物の方へと歩き出した。


 当然、背後のヒューゴさんもそちらへ向かい、その後に、エル殿下が歩いて行く。



 ああ……!私は今、勇者達の旅立ちを目にしている!!


 エル殿下もバルールくんも本当にすごいです!すごい勇気です!素晴らしいお覚悟です!お2人の背後に後光が見えます!!


 特にバルールくん!なんて勇ましい姿なのでしょうか!あなたよりしっかり年上な私達がここでガクブルしてて、本当にすみません!


 あ、よろしければこの人形でも、と、エル殿下人形を渡そうとしたけど、すでにカクさんががっつり握りしめてた。



 武器庫のある建物の入り口にアイゼル妃が現れる。


 しかし、昼間の虚ろな様子ではなく、明らかに扉の辺りに身を隠し、きょろきょろと辺りを窺っている。


 こんな夜中に駆り出されて非常に悔しいが、どうやらハティ様の言っていたように条件が満たされているらしい。


 やがて、バルールくんが、建物と西棟をつなぐ廊下の半分まで行ったころ、すうっとヒューゴさんがバルールくんの体をすり抜けて、バルールくんよりも前に出た。


 そして、ヒューゴさんがバルールくんを通り抜けた瞬間、がくんとバルールくんの体が崩れ落ちた。


 慌てて、バルールくんの背後にいたエル殿下が、片膝を付いてバルールくんの体を支える。



 そんな2人の向こうで、徐々にヒューゴさんがアイゼル妃へと近づき、―――ついにアイゼル妃がヒューゴさんに気付いた。


 顔を上げ、驚いた顔をした後、急いでヒューゴさんの方へと小走りに近づいていく。


 アイゼル妃もヒューゴさんも、どちらも変わらずぼろぼろの格好で生気の無い顔だけど、ちゃんと意志のある行動をしてるだけで、やけに人間らしく思えた。


『待っていたわ……、ヒューゴ……!―――あなた……その姿……!』


 おそらくアイゼル妃のものだと思われる声が聞こえた。


 その声は今にも風に掻き消えてしまいそうなほどか細くて、しかし、可視化の魔術が作用しているのか、しっかりと辺りに響いて聞こえた。


『私のことはどうぞお気になさらず。さあ、早くここを出ましょう。』


 ヒューゴさんがそう言って、アイゼル妃に手を伸ばす。


 驚いた表情だったアイゼル妃も、おずおずとヒューゴさんの手に、自らの手を乗せようとした。



 ―――その時。



≪―――ゆ、許さん!そのようなこと、ゆるさんぞおおおぉぉおぉぉぉおおぉ!!≫


 獣の咆哮のような声が辺りにびりびりと響き、武器庫のある建物の奥から真っ黒な瘴気の塊が渦となって噴き出した。


 その黒い塊は、霧のような触手を、アイゼル妃の腰の辺りに巻き付かせ、彼女を自らの瘴気の中へと取り込もうとする。


≪許さぬ。許さぬぞ、ヒューゴおおおぉぉぉ!!何故、私から彼女を奪おうとする!死してなお!!なぜだああぁぁぁ!!≫


 黒い瘴気の塊はズルズルと建物の奥から這い出し、ヒューゴさんの方へと向かって行く。



 ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!な、何か出たあぁぁ!!何あれ、何あれ!!?


 あまりの展開に、思わず解説だけに従事しちゃってたよ!!


 えと、えと、なんて説明したらいいんだろう!?


 あ、しいて言えば、某ジ○リアニメの、祟り神の黒くてデカいバージョンって感じ。周囲で動く瘴気の触手が、すごくリアル!


 黒一面に覆われた体の間から、ぎょろりと血走った目がのぞいた。うひいいぃぃぃ!



 私とナディア様が、両手を握り合って、固唾を飲んで成り行きを見ている間にも、瘴気の塊からはものすごい勢いでどす黒い瘴気が吐き出されている。


≪憎い、憎い!ヒューゴおおおぉぉぉ!!わしからアイゼを奪う!許さぬ!今度こそ、その身を消し去って―――!!≫


 その声と共に、吐き出された瘴気がヒューゴさんへと襲いかかっていく。


『………まさか、……テネス…?』


 ヒューゴさんはその場に立ち竦んだまま、驚きを浮かべ瘴気の塊を見上げていた。



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