23.作戦実行中です。その2。
そんなバルールくんを見送った後、私達も移動を始めた。
実は、この後バルールくんには、アイゼル妃のおられる例の武器庫の建物へと、行ってもらうことになっているのだ。
下っ端とはいえ、未だ新人兵士であるバルールくんは、本来1人ではあの辺りには行ってはいけないそうだ。
危険だったり、あと過去に新人兵士に武器の持ち逃げをされたことがあるから、との理由かららしい。
それを、今日は1人で行ってもらうのだ。
え?どうやってそう差し向けたかって?ふふふ、こちらには権力者がいるのだよ!こんな時に使わんで、何のための権力か!
目的はもちろん、アイゼル妃とヒューゴさんを会わせるためです!
まあ、会わせることで何が起こるかは、さっぱり予想がつかないんだけど。
漸く会えた2人が、手に手を取って愛の成仏、だと良いんだけどな。
なんてことを考えながら、もそもそ移動しているわけですが。
今の状況は、エル殿下の後ろに私が張り付き、その後ろにナディア様が引っ付いているという、電車ごっこのような状況の、エル殿下号と。
その後からは、魂が抜けたままのカクさんを、スケさんが後ろから押して進ませているという、カクさん号が続いている。
そんな2つの電車ごっこが、城の敷地をこそこそと歩いているわけです。
あ、ほら、案の定、すれ違った兵士の人が気まずそうに目を逸らした!
お、あっちの侍女さんは、先頭のエル殿下の美貌に見惚れたまま、背後のおかしさには気づいてねぇぇ!
そっちの侍女3人!「私達も加わりた~い!」って。入りたいならどうぞお入りなさいな!行き先は恐怖の幽霊劇場だがな!
そんなこんなでやってまいりました、例の武器庫のある建物。
私達は、武器庫の建物と廊下で繋がれている城の西棟に隠れながら、その建物に入っていくバルールくんを見送っていた。
「来た。」
既に可視化の魔方陣を敷いていたので、ぼんやりと薄暗い中で、エル殿下が声を上げた。
巧みにバルールくんの背中から目線を逸らしながら見てみれば、バルールくんの正面からはアイゼル妃の幽霊が。
可視化の魔方陣の中なので、当然にバルールくんにもアイゼル妃の幽霊は見えているようで、突然現れた幽霊に、バルールくんは声にならない悲鳴を上げてその場に尻餅をついた。
背後からでも、その体ががくがくと震えているのが分かる。
あ、何かちょっと罪悪感。
でも、許してバルールくん!これも昔のお姫様と騎士の恋のため。そして、しいてはその騎士にとり憑かれている君のためになるのだ!
後でちゃんと、説明と謝罪はしに行くからね!
「あら?」
ふと、私の後ろから、ちらちらとバルールくん達を見ていたナディア様が、声を上げた。
さっきはあんなに怖がってたのに、意外と好奇心が強いですよね。いや、私も人のことは言えませんが。
「え?素通り?」
ナディア様に続いて、私もつい口に出してしまった。
だって、廊下の突き当たりを通りかかったアイゼル妃は、目の前にバルールくん―――プラス、ヒューゴさん―――がいるにもかかわらず、相変わらず目線の定まらないぼんやりとした様子のまま、その建物の奥へと歩いて行ってしまったのだ。
そして、バルールくんの背後にいたヒューゴさんも、見えないので表情は分からないが、特に変わった様子は見られなかった。
え?お互い気づいてない?あんなに真正面にいたのに??
アイゼル妃が消えた途端、慌てて建物から逃げ出すバルールくんに内心で謝って、全員今の状況に首を傾げたまま、とりあえずいったん殿下の執務室へ戻ろうということになった。
―――結界の消えた建物は、人の声も風のさやめきも聞こえなくて、やけに静かだった。