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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
23/75

22.作戦実行中です。その1。

 少しですが、残酷な描写があります。


 なんてことがあった後日。


 

 私、エル殿下、ナディア様、カクさん、スケさんは、建物の陰から、兵士の宿舎の長い廊下を覗いています。


 あれから、結局、ハティ様にその少年―――今は15歳の新兵らしい―――の名前を教えてもらい、兵士宿舎の彼の部屋を調べ、ついでに勤務時間も調べ、彼がこの廊下を通るであろう時間に、5人でここで張っているわけです。


 プライバシー?え?何それ美味しいの?………一応言ってみた。



 しかし、私はともかく、エル殿下とナディア様は皇族なんですよねぇ。国民にとっては、まさに雲の上の人なはずなんですよ。高貴の塊なんですよ。


 カクさんとスケさんだって、エル殿下の近衛騎士をしてるくらいだから、エリートなはずなんですよねぇ。


 ………こんなところで張り付いてて良いんでしょうか?


 みんな思い切り好奇心で動いてますよねぇぇぇ!

 


 と、私が、大丈夫かこの国、と帝国の行く末を心配している間に、廊下の向こうに例の少年―――名を、バルール・アニンという―――らしき人影が見えた。


 今はまだ遠くにいるので、目を凝らしてじっと彼を見ると、彼の背後に背の高い人物がぼうっと見え―――。



「っ…ひっ……!」


 一瞬見ただけで、私は小さく悲鳴を上げて、エル殿下の背中に張り付いた。


 あまりの恐怖に心臓が締め付けられて、胃の中がぐるぐるして吐きそうになる。


 ぎゅうっと殿下の服を握り締めた私に、みんなが心配そうな顔をしてくれる。


 ぎゃあああぁぁぁ~!見ちゃった、見ちゃったよおおおぉぉぉ!

 いや、もうシャレになんない!あれはシャレになんないよ!!

 もう、ここで帰ろう?おうち帰ろう!?

 あれはいかんて!関わっちゃいかんて!!


 怖い怖い怖いグロい怖い怖いいいいぃぃぃ!!



 とりあえず、一通り脳内で叫んでから、あえて深呼吸を繰り返して何とか気を落ち着ける。


「い、良いですか?心臓の弱い方は見ない方が良いと思います。ナディア様も、見るならちらっとだけにしといたほうが良いですよ?


 誰か、カクさんを支えといてあげてください。きっと気を失います。


 それでは、皆様……心の準備は良いですか?…い……いきますよ?」


 私の言葉に、ナディア様は、エル殿下の背中にくっ付いた私の背中に、スケさんがカクさんの背中に張り付いた。


 「何で俺が前!?」と、慌ててスケさんの背後に行こうとするカクさんの肩を、スケさんががっしり掴んで支えている。


 ほほほ、なんてワタクシの言葉に忠実に従って下さるのかしら。



 私は、殿下の背中に顔を付け、バルールくんを視界に入れないようにしながら、一つ息を吸って言葉を唱えた。


「可視化!」


 私達のいる場所と、バルールくんのいる場所はかなり離れているので、学校のグラウンド半分くらいの巨大な魔方陣が足元に現れる。


 それと同時に、以前と同じように、辺りがうっすらと暗くなった。



「っ!きゃああぁぁぁ!!」


 私の後ろから、そっとバルールくんを見たナディア様が、やっぱり絹を裂くような悲鳴を上げて、私の背中に抱き着いた。

 むしろ、私のお腹に腕を回してぎゅうぎゅうと。

 

 ぐええええぇぇぇ!!


 っちょ、ナディア様!さっき何とか堪えた、胃の中身が出ちゃいますから!意外と腕力あるんですね!


 ああ、柔らかいし良い匂いがするなぁと、癒し効果は大変ありがたいですが、私の魂が抜けそうですぅぅ!


 少し抜けかけた魂で隣を見ると、案の定カクさんは白目を剝いて気絶しており、それを背後のスケさんが支えていた。


 あ、カクさんからも魂が抜けてる。やは、カクさんごきげんよう。



 ちなみに、エル殿下はさすがというか何というか、体を硬くして顔を逸らしただけだった。


 スケさんは、カクさんの後ろからカクさんを支えつつも、目線はカクさんの後頭部だ。無表情のまま自然を装って視線を逸らしている。


 いやいや、情けないと言ってやって下さるな!


 そりゃあもう、バルールくんに憑いているヒューゴさんの様相はすごかった。


 せめて、誰も吐く人がいなかっただけで、褒めてあげたいくらいだ!―――偉そうに言っている私は、まだ口の中が酸っぱいですが。



 古い型の騎士服は、前から後ろからズタズタに切り裂かれていて、黒いシミと付いた泥で元の色が分からない。


 おそらく長かったのであろう髪も、所々切られ、不揃いでぼさぼさだ。


 そ……それから、ヒューゴさんを殺した犯人は、よほどヒューゴさんに恨みがあったのではないかと思われる。


 だって、顔が………!体以上にズタズタに切られているのだ。元の容姿なんて面影もないくらいに。


 縦横に走る傷と、そこから流れ落ちた血がこびり付いて、ヒューゴさんの顔はよほど免疫のある人でないと直視できない。



 ちらっと見た一瞬で、私の頭にはヒューゴさんの様子が頭に張り付いて離れなくなった。


 ううう、夢に見る!これ絶対夢に見るよ!!


 あの日以来、殿下の部屋で寝させてもらってはいなかったけど、今日も集合だな、これは。




 当のバルールくんは、いきなり辺りが暗くなったことに驚き慌てはしたが、背後のヒューゴさんに気付かないまま、首を傾げながら小走りで廊下を通り過ぎて行った。


 うむ、あれを担いであんなに軽快に走っていけるとは、バルールくんって案外大物かもしれん。

 


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