20.お茶会ついでの対策会議です。その2。
「静かになさい。」
そんな中、静かな声が執務室に響いた。
ええ、あれです。北極の氷の上に立たされて、周囲には何にもない状況で、耳の痛くなるような恐ろしいほどの静けさってやつです。嵐の前の静けさです。
私とカクさんはぱっと離れて、速やかに席に着きました。
これが椅子取りゲームなら、他の誰も追いつけない、記録的なスピードだったと思います。
声の主はもちろん、我が恐ろし―――ではなく、愛しの君、ハティ様です。
「駆け落ちの話で思い出しましたが―――」
私達が席に着き、静かになったのを見て、ハティ様が口を開いた。
あれ?私とカクさん以外の人もやけに静かな気がするんですけど………気のせいですよね。
「以前、私が、ちょっと仕事の合間に暇ができ、特にすることも無かったので、教会の懺悔室で聞き役をしたときのことですが。」
って、えええええ!?そんな、懺悔の聞き役って、暇つぶしみたいな感じで出来るもんなんですか!?
それにもっと、カウンセラーのような、辛抱強く話を聞いてくれて懐も広い、穏やかな人がなるもんなんじゃないんですか!!?あ、すみません、すみません。悪気は無かったんです!つい本音が……いえ、何でもありません。ごめんなさい!
え?ハティ様は、教会からその免許も頂いてるんですか?さすがです!完璧です!さすが、ハティ様です!!
と、今のやり取りを、ハティ様と何故か目線だけで交わしながら、私は話の続きを聞いた。
「1人の少年が懺悔室を訪れましてね、彼は、幼い頃から定期的に不思議な夢を見ていたそうですが、帝都に来てからその夢を見る頻度が増したとか。
その夢の内容というのが、ある姫君とどこかから逃げる約束を交わし、約束の夜に待ち合わせ場所に向かおうとするのですが、突然現れた覆面の男達に切り殺され、森の中へ埋められる、というものらしいですね。」
え?まさにそれじゃん?みたいな顔を、私がしてたかどうかは分からないけど。
私は、ついハティ様以外の人達の顔をぐるりと見回した。
すると、みんなも何とも言えないような顔で、私を見返し、
(それって、もしかして………)
(いや、もしかしなくてもあれだろ。)
(まああ、すごい偶然ですわね!)
(も少し早くその話聞いてたら、さっさと解決できてたんじゃないのか?)
(俺の今までの恐怖は何だったの~!?ごっそり寿命が縮んじゃったよ~~~!!)
(いや、文句でしたらハティ様に言ってくださいよ。)
((((無理。))))
という会話―――というか心話―――が、5人の間で交わされた。
「その者の話によると、夢の中の自分は『……アイゼルリーテ様。……お許しください……』と、何度も何度も謝っているのだそうです。
そして、彼の手の届かぬ先に、淡い金髪の美しい女性が佇んでいるらしいのです。」
ハティさんはみんなの表情には気づかず―――むしろあえて気にせず―――、話を続けた。
いや、もう十分分かりましたよ。
きっと、そのアイ……アイ……なんだっけ?………お姫様と、ヒューゴさんは恋仲になったんだけど、お姫様が後宮にいて―――つまりは当時の皇帝のお妃様、既婚者だったってことだよね―――、それで2人で逃げようとして、待ち合わせ場所に行こうとしたら、何者かに殺されてしまったと。
それで、お姫様はいつまで経っても訪れないヒューゴさんを、ずっと待ち続けていて………。
あうう、ええ話やないかい!!
しかも、ヒューゴさんは後宮に入れたってことは、皇帝陛下の側近だったとか?
もしくは、お姫様に会うために命がけで忍び込んで!?
身分の違いや、お姫様の立場に悩み、葛藤を繰り返しながらも愛を深めていく2人。
やがて、溢れ出た想いは、もはや誰にも止めることはできず、ついに2人は決意をするんですね!!
―――愛しています、ヒューゴ。どうか、わたくしをここから連れ出してください。
―――しかし、姫様……。
―――自由にあなたに会えぬ日々にはもう耐えられないのです。それとも、あなたはそのように思ってはおられないのでしょうか……?
―――とんでもありません!私とて同じ気持ちです、姫様!………しかし、よろしいのですか?
―――ええ、わたくしをどこへなりとも連れて行って下さい。
―――お慕いしております、姫様。
―――ヒューゴ………
ひしっ!(と抱き締めあう。)
て き な!
きゃぁーーー!すごい、すごい!これぞまさにハーレクイン!
1国に1つは欲しい後宮事情ですね!愛の聖地はここにあったのですね!!身分差身分差!騎士と姫様の禁断の恋!!