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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
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19.お茶会ついでの対策会議です。その1。


 今、私の前に亡霊がいます。




「カカカカカクさん!?ええ?いったいどうしたんですか!!?」


 何となくお互いにタイミングが合わず、カクさんに会うのは数日ぶりだったんだけど、あまりの変わりように私は思わず後ずさった。

 

 だって、全体的にげっそり痩せてるし、頬はこけてるし、目の周りは隈で真っ黒だし、目は充血して真っ赤なのだが、瞳には生気が全く感じられない。


 う~わ~!以前会ったときは、可愛い感じの美青年だったのに、今はムンクの叫びのようなお顔になってる。


 「おーい、生きてますか~?」とつい目の前で手を振ってしまった。………反応無いんだけど。本当に大丈夫!?これ!



 さすがに心配になり、隣に立って、カクさんの肩を掴み立たせているスケさんに、顔を向けた。


「なんでも、あれ以来、毎晩あの亡霊の夢を見るのだそうだ。


 殿下の部屋で寝させてもらっても、他の誰かと一緒に寝ても、城下の宿で寝ても、娼館に行っても、教会に泊めてもらっても、効果は無いらしい。」


 と、スケさんが肩を竦めながら説明してくれた。


 知らなかった。色々と試してみてたんだね、カクさん。


 途中、乙女の前でさらっと言わないで欲しいことが聞こえたけど、まあ、そこは大人の事情ということでスルーして差し上げましょう。


 

「いっそう、殿下に抱き締めて寝てもらったらどうですか?」


 何となく提案してみただけなのに、先にテーブルについてお茶を飲んでいたエル殿下に睨まれた。


 ええ~、男同士なんだから良いじゃないですか~。

 いや、むしろ男同士だから嫌なのか。



 ちなみに、今日は久しぶりに、私、エル殿下、ナディア様、ハティ様、スケさん、カクさんのメンバーで、殿下の執務室でお茶をしています。


 う~ん、単なるお茶会だと思ってたんだけど、もしかしてカクさんのための対策会議だったりしますか、これ。



 とりあえず、ふらふらしているカクさんを椅子に座らせ、私とスケさんもその両隣に座った。

 エル殿下、ナディア様、ハティ様はすでに席についている。


「やはり、原因はあの女性の亡霊なのでしょう?光の魔術でぱぱっと祓ってしまうことはできませんの?」


 ナディア様が、こくんと首を傾げながら聞いてくる。


 うん、動作は非常に可愛らしいですが、解決策が何だか乱暴な気がするのですが。


「うーん、光の魔術を使えば、あの幽霊の女性に取り付いている瘴気は祓えますが、幽霊自体を成仏させることはできないんですよ。


 彼女が、何らかの未練を持って彷徨ってるのなら、それを解決できれば自分で成仏してくれるかもしれませんが……。」




 あ、そう言えば、まだ瘴気について説明してなかった。こほん。


 えと、この世界では、誰もが魔力を持っているんだけど、妬みや恨み、悲しみといった負の感情が魔力に作用すると、濁った魔力、いわゆる瘴気と呼ばれるものが生まれるのです。


 でも、普段なら、適当にストレス発散したり、他に楽しいことがあったりすると、その瘴気は体から離れて行っちゃうのね。


 まあ、たまに瘴気をうまく切り離せなくて、瘴気によって負の感情が増幅されて、どんどん瘴気を生み出しちゃうっていう、悪循環にはまっちゃう人もいるらしいけど。


 でも、そういう人は、たいていどこかで気がおかしくなっちゃって、狂死してしまうか、瘴気に取り込まれて魔物化してしまうのだそうだ。


 稀にごく一部が、うまく瘴気を取り込んで魔物―――ベースが人の場合で、正気を保ったままの者は魔人と呼ばれたりする―――化するんだって。



 それから、人から切り離された瘴気は、より瘴気を生み出しそうなものに取り付くか、もしくは世界中に点在する“磁場”と呼ばれる場所に集まる。


 そして、そこから瘴気が凝り固まって魔物が生まれたり、運悪く磁場に取り込まれてしまった生き物―――動物や、たまに精霊など―――が魔物化してしまったりするのだそうだ。


 魔物自体は武器や地の5属性の魔術で倒せるんだけど、瘴気を祓うには、光魔術で浄化してしまうか、闇魔術で吸収してしまうしかない。


 また、完全に瘴気に精神を侵蝕されていなければ、魔物化しかけていても瘴気を祓うことで元の姿に戻れることもあるらしいのだ。



 死んだ人間は魔力を持たないため、瘴気は生み出せないから、あの幽霊の女性に瘴気が付いてるのは、きっと彼女の未練が強すぎて、瘴気を引き寄せているのだと思うんだけど。


 ただ、この間見た感じでは、まだ魔物化するほどには至ってなかったはず。





「あの亡霊の未練か。カークラント、何か思い当たることはないのか?」

 

 毎晩夢に見るほど恋しい相手のことだろう、とエル殿下がからかい交じりにカクさんに声をかけた。


 殿下の声に、今までテーブルに顔を付けて、「寝てるの?」と聞きたくなるほどに微動だにしなかったカクさんが、ぴくりと動いた。


「うう~知らないよぉ……。……毎回、真っ暗な暗闇の中を……『ヒューゴはどこ?……早くわたくしを、ここから連れ出して………』って言いながら、ふらふらふらふら歩いているだけなんだよ。あのぼろぼろの格好で、虚ろな表情でだよ!ううう~怖いよぉ!!」


 わあああぁぁぁ~ん!!と泣き叫びながら、テーブルに手をついて、がたがた揺らしだした。


 っちょ、危ないですって!お茶がこぼれる!


 あ、スケさんがカクさんの後頭部をチョップしたら静かになった。………なんか哀れすぎるぞ、カクさん。



「ここから連れ出して……ってことは、閉じ込められでもしてたんですかね?もしくはめったに外出を許されない深窓のご令嬢だったとか?」


 私がお茶請けのクッキーみたいなお菓子を口に入れながら、首を捻ると。


「ん?………ああ、そう言えばあの辺りは………。」


 エル殿下がカップをソーサーに戻して、顔をハティ様に向けた。


 すると、ハティ様も何かに思い当たったのか、「ああ、確かに。」と頷いている。



「何ですの?」


 ナディア様が不思議そうに殿下を見上げると、殿下はナディア様を見て、少し言いにくそうにしながら口を開いた。


「あの場所には、確か先々代の皇帝の代まで、後宮があったはずだ。」


「そのような話を聞いたことがありますね。それで、先代の皇帝陛下が即位なされたのち後宮を廃止され、建物を取り壊して兵の訓練場にしたとか。


 その女性の亡霊が出たという辺りは、後宮の建物のうち、残された一部にあたるのやもしれません。」


 殿下の後をハティ様が引き継いで説明をしてくれた。



「ああ、後宮ですか。だったら納得ですね! 


 きっと、あの女性とヒューゴという方は、恋仲だったんですよ!それで、決して結ばれることのないお互いの立場を嘆き、ついに互いに手に手を取って愛の逃避行、駆け落ちをしようとして―――!!」


「男が来なかったと、そういうことか?」


 後宮といえば付きものな、道ならぬ男女の恋話に、私が鼻息も荒く盛り上がっていると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべたエル殿下に水を差された。


「ええ!そうですよ!しょせん男なんてそんなもんです!女性の純粋な想いなんて、道にぽい捨てした煙草のごとくじりじりと踏みにじるんです!!


 はっ!そんな薄情な男は、とっとと見限った方が彼女のためです!


 カクさん、あなたのすべきことが分かりましたよ!彼女の新しい恋人になって、彼女を幸せにしてあげてください!!」


 興奮のあまり立ち上がり、私はびしりとカクさんに指を突きつけた。

 カクさんが、「えええ~~」と、より一層の悲壮さを滲ませている。



 私はそんなカクさんの胸ぐらを掴み、


「何が不満なんですか!明るいところでちゃんと見れば、あの女性も美人ですよ!格好を気にせずよくよく見れば、ナイスバディですよ!お話ししてみれば、きっと気も合いますよ!」


「いやいやいやいや!それ以前に、相手は死人だよ!亡霊だよ~~!」


「大丈夫ですよ!今のあなたも亡霊のような状態です!お似合いのカップルです!!」


 カクさんの胸ぐらを掴んで捲し立てる私と、涙目で必死に首を振るカクさん。もはやカオスな状態です。



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