1.異世界に来たみたい。
拙い作者の、初投稿作品です。未熟な文章で、更新も不定期になると思いますが、温かく見守って頂けると嬉しいです。
現在、文章の修正作業を行っております。途中、文章の形式が変わると思いますが、見逃してやって下さると助かります。
気が付けば異世界だった。
いや、どこの小説の始まりの文句だって話だけど、私が実際にこの――一年生活した結果、ここは異世界というやつだと思う――世界に足を踏み入れたのは一瞬のことだった。
太陽が照りつける中、じりじりとした暑さにぐったりしながらアスファルトの道を歩いていた。
そして、ふと顔を上げた瞬間、巨木生い茂る森の中に佇んでいたのだ。
は? え? 何??
当然に状況が分からず、辺りをきょろきょろと見回してみた。
道を間違えて森林公園にでも迷い込んだのかとも思ったが、うちの近くにこんな、白い犬神の出る某ジブリアニメかと思うような樹の生い茂る公園はない。
地面には枯葉の混じる濡れた土。周囲には両手を広げて抱き着いても追いつかないほどの太い幹の木々。葉の擦れる音とともにちらちらと揺れる木漏れ日。
先ほどまで感じていた茹だるような暑さも、脳にまで響くような蝉の声もどこにもない。湿気を含まない穏やかな気温に、どこからともなく可愛らしい鳥の囀りが静かな空間に響く。
明らかに、先ほどまでとは違う状況に、私は小一時間ほど呆然と佇んでいたと思う。
この時、私が幸運だったのは、私のいた近くに人を襲うような動物や魔物がいなかったことと、とりあえず歩き出して三時間ほどで、森の中にぽつんと人の住む小屋を見つけられたことだろう。
恐る恐る、その小屋の扉をノックすれば、キィと高い音を伴って扉が開き、そこから顔を覗かせたのは、これまたお城の動く某ジブリアニメの主人公が魔法で変えられていたときのような姿の老婆だった。
私はこの時、誰でもいいからこの状況を説明してほしかった。
だから、不審そうな顔をしながらも家の中に入れてくれ、食事をさせてくれたこの老婆――名を、タトリ・ティチェナーという――にありのままを全て話した。
タトリさんは、最初は不可解そうな顔をしていたけど、私の必死な様子が伝わったのだろう、話を聞き終わった頃には私の置かれた状況を理解しようとしてくれていた。
そして、タトリさんと色々と話した結果、私はこことは別の世界から迷い込んできたのだろうということ。
別世界の人間が迷い込んできたことは、タトリさんの知る限りは無いということ。
だからタトリさんも帰り方は分からないということだった。
悲嘆に暮れる私に、タトリさんはこの家に居ればいいと言ってくれた。
右も左も分からない異世界で、このまま放り出されれば野垂れ死に確実な私にとって、タトリさんの申し出は雲間に差し込む光のようにありがたく、私は日本人特有の謙虚さも忘れて、「出来ることは何でもします! よろしくお願いします!!」と頭を下げていた。
その後分かったことだけど、タトリさんはこの小屋に一人暮らしをしていて、山で採った薬草なんかを調合して町に売りに行っている、いわゆる薬師というものらしい。
私も、タトリさんに付いて行っては薬草のことを学んだり、この世界では誰もが当然に――魔力の大小や使える魔術の多少はあるにしても――使える魔術についても教えてもらった。
そう言えば、今更ながらに言葉が通じたり、文字が読めたりすることが不思議になったけど、いくら考えても答えは見つかりそうになく、それも一つの幸運だったと、私は考えることをやめた。
そして、タトリさんと色々と試したり、タトリさんの持っていた本なんかを読んだりした結果、私には膨大な魔力があることが分かった。
とはいっても、はっきりどのくらいと分かるわけではない。ただ、日常的に色んな魔術を長時間使ってみたけど、魔力切れでだるくなったり動けなくなったりしたことがないから、とりあえずたくさんあるんだろうな、と分ったくらいだ。
それから、魔術は、呪文や魔法陣なんかもあるけど、一番大事なのは確固としたイメージのようだ。
そして、その辺に関しては、私の元の世界での知識が非常に役に立った。
現実にあったものに限らず、アニメや映画で見たものを思い浮かべたりすることでも、イメージが固まり色んな魔術が使えた。
他にも、地理や通貨、日常生活に関することもタトリさんから色々と教えてもらった。
そして、私がこの世界に来てから、一年ほど経ったと思われるこの日、私は旅に出ることにした。目的はもちろん、元の世界へ戻る方法を見つけることだ。
だって、あっちの世界には、家族も友達もいる。残念ながら彼氏はいなかったけど。でも、大切なものがたくさんあるのだ。
この世界では、私は独りで。タトリさんという繋がりはできたけど、それでも自分は何者で何処に居ればいいという確固たるものが何も無い。
それは、足元が不確かになるほどに不安で怖くて、何かをして気を紛らわせていなければ、崩れ落ちてしまいそうだった。私という存在がすべて消えてしまうような、目の前が真っ暗になるほどの絶望的な気分。
私の居場所がどこかわからなくて、ふとした瞬間に内臓が締め付けられるような恐怖に襲われた。
全てが夢ならいいのにと、何度も夜中に目が覚めては涙を流した。
だから、わたしを存在させるために、希望を見失わないでいられるように、私は足掻こうと決めた。
どれほどの時間がかかっても、どんな困難があっても、私は私の世界に還ってみせる。
その決意が、私を生かしている原動力となった。