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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
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13.羨望、憧憬――寂寥。

 どうにか話も纏まって、夕食まで解散ということになったので、私は、1人で私に与えられた客室へと戻っていた。


 と言っても、途中まではスケさんとカクさんに送ってもらったのだけど。………迷わないように…。




 部屋の前へと着いたとき、背後からカツカツと規則正しい足音がしたかと思うと。


「ちょっとよろしいですか。」

「うわぁ!はいぃ!」


 ハティさんに声をかけられました!


 しかし、背後から声優もこなせそうな美声が聞こえたものだから、背中にぞわぁという痺れが走り、思わず変な返事をしてしまった。


「ど、どうかしましたか!?ハティさ………」


 慌ててハティさんの方を振り返り、思わず口にしてしまった呼び名に、私ははっと口を塞いだ。



 いやあああああぁぁぁ!やってしまったぁぁ!!


 実は、私がさんざん「ハティさん」と呼んでいたのは、私の心の中だけでの呼び名だったのだ!


 本当は、ハティさんも貴族なので、ハティッド様って呼ばないといけないんだけど、正直本人を目の前にして何度も噛みそうで………。


 しかも、これは私だけかもしれないけど、人に“様”付して呼ぶのって慣れてなくて。


 だって、日本では目上の人はたいてい“さん”付だし。


 もしくは役職呼びが多かったのよ。会社の社長だったら、「○○社長」とかだし。大学の先生だって、「教授」とか「先生」って呼んでたからね。


 

 だから、ハティさんは、「ハティさん」って心の中で呼んでた。

 あ、私が声に出してハティさんを呼んだことって、実は紹介されて一度もないんですよ。


 ちなみに、「エル殿下」も、心の中だけの呼び名です。

 本人に対しては、「殿下」としか呼んでないからね!ふふふ、気になる方は確かめてみてね☆




 なんて、だらだら心の中で現実逃避してたけど、本人に向かって言っちゃったよ~!


 皇家に対するみたいに、不敬罪にはならないだろうけど、お…怒られるかしら……。


 恐る恐るハティさんを見上げたけど、ハティさんはふうと溜息を吐いて、話を切り出した。


 むむ、その辺を注意しないってことは、容認の方向でいいのかしら?



「あなたは、本日城の中庭で、結界の綻びを見つけたとのことでしたが………。」


「は…はい!」


 殿下の側近としての仕事的なハティさんの言葉に、私は背筋を伸ばして返事をした。


「殿下からの要請で、宮廷魔術師に点検させたところ、確かに綻びが見つかりました。


 人や大きな魔物の侵入は困難でしょうが、小さくても危険な魔物が侵入する恐れもありますし、あそこから綻びが拡大することも懸念されましたので、直ちに修復を行いました。」


 淡々と告げられる言葉に、仕事早っ!と思いながらも、まあ王宮だしね、とうんうん頷く。


「しかし、よくあれが見えましたね。結界自体を感知することができる者でも、魔術師の中ではかなりの上位。綻びまで見つけることができるというのは、宮廷魔術師でも長かそれに次ぐ者ぐらいですよ。」


 ハティさんが眼鏡を押し上げながら聞いてくる。


「何か、色々と良く見えるもので………。」


 私は、それに苦笑いを浮かべて返した。


 エル殿下にも言ったけど、見えるものは見えるのだ。何故かと聞かれても、それは私も知りたいところだ。



 私がそれ以上説明する気がない―――というか、説明しようがないんだけど―――ことが分かったのか、ハティさんは私から視線を外し。


「まあ、あなたはたいそう規格外のようですので、これ以上はお聞きしませんが。」


 おっ!何だその規格外って!褒められてんのか貶されてんのか………、いや、褒められては無いなこれは。




「それから、エリュレアール殿下の件につき、陛下があなたにとても感謝しておられましたよ。そのうち、直接お言葉を頂くことになると思いますが。」


「殿下の件……ですか?」


 はて、何のことやら。


「光の属性を見つけて下さったことです。」


 私が首を傾げていると、ハティさんが補足を加えてくれた。


「実は、シューミナルケア皇家では、代々皇帝の地位についてこられたのは魔術属性を2つ以上持った方々なのです。」


 エル殿下の光属性を告げたことの重大性が、全く分かっていない私に気が付いたのか、ハティさんはふうと溜息を吐いて話し始めた。


 どうやら、ちゃんと教えてくれるらしい。

 そう言えば、さっき殿下が光魔法使った時も変な空気になってたしね。ちょっと気になってたのです。


「エリュレアール殿下は、非常に知識に富み、知慮に優れ、また剣にしても、将軍に並ぶと言われるほどの使い手なのです。


 それに加え、常に国民の生活向上を考え、様々な面で力を尽くしておられます。


 さらに、誰に対しても分け隔てなく、気さくに話しかけて下さるので、城内の者に限らず国民に至るまで、多くの者に慕われているのです。


 そ れ な の に!頭の固い教会や貴族の糞爺ども―――失礼、古狸爺どもときたら!」


 お…おお!ハティさんが徐々にヒートアップしてきた!

 力の入るあまり、拳まで作ってます。


 しかも、ハティさん、あんま言い直した意味ないですから。とりあえず、爺どもが嫌いってことですね!


「エリュレアール殿下が火1属性しか持っていないのでは、次期皇帝に相応しくないと、第二皇子を皇太子にすべきだと陛下に進言したんですよ!


 殿下自身も自らの属性のことを気に病まれ、本来ならすでに行われているはずの立太子の儀を先延ばしにしておられたのです。


 ふふふふふ、しかし、殿下がもう1つ属性、しかも、光属性を持っておられたと分かった今、これ以上あの狸爺どもに好き勝手言わせたりはしませんよ!


 何より、始祖以来の光の皇子です!うちの殿下はすごいんです!参ったか、狸爺どもめ!


 いい機会なので、あの爺どもを纏めて隠居に追いやって―――――!」


 そこで、漸くハティさんは正気に戻ったようだ。


 いや、かつてなく良く喋っておられましたよ。よほど鬱憤が溜まってらしたんですね。


 しかし、この間誰も通りかからなくて良かったっす。噂の爺どもでもいたらどうするんですか。



 気まずそうにコホンと一つ咳払いをしたハティさんは、改めて私の方に向き直り。


「口にこそなさいませんでしたが、あのままではいずれ殿下は皇位継承権を放棄なさっていたことでしょう。


 ですから、エリュレアール殿下の属性を見つけて頂き、殿下の憂いを取り除いて下さったあなたに、陛下は非常に感謝しておられるのです。」



 それから、ハティさんは、胸元に片方の手を当てて、腰を折り深く頭を下げた。


「そして、殿下の部下であり友人である私からも、心から感謝を申し上げます。」


 そうお礼を述べたハティさんの言葉はとても真っ直ぐで、本当にエル殿下を大切思っているということが良く分かった。




 ハティさんとエル殿下の間にあるものは、信頼であり友情であり、親愛であるのだろう。

 それは友であり、家族でもあるような。


 そんな相手が傍にいるっていうのは、心底羨ましいなって、思った。



 こんな時、本当に寂しいなって思う。


 私にはこの世界に、そんな相手はいないから―――。



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