12.安眠確保のために!
「謁見の間では陛下からの褒美を断っていたのに、結局はお金ですか。」
ハティさんが、陛下からの依頼書を丁寧に丸めながら呆れたように言った。
「いや……これは正当な労働の対価ですし………」
そう、ハティさんが指差していたのは、依頼に対する報酬の項目だったのだ!
それはもうすごい額だった!
ギルドに登録した街で稼いだ金額とは、桁が違った。
あの苦労した日々を思い出して、ちょっぴり目頭が熱くなるほどには。
ちなみに、そのお金は魔術教育費として、ちゃんと国の予算に組み込まれているものらしい。
しかも、普通の魔術講師とほぼ同じくらいの金額なのだとか。
あの金額がお給料かぁ……いいなぁ、国家公務員。
まあ、皇帝陛下からのものとはいえ、依頼をこなして得た報酬なら、堂々ともらえるし、遠慮なく使えるし、そりゃ飛びつきたくなります。
うう、周りのみんなの目が、何か生ぬるい気がします。
ふっ、しょせん世の中金なのよ!と、開き直ってみる。心の中だけだけど。
「ああ、それから、この度の亡霊騒ぎを解決すれば、その分の報酬も下さるそうですよ。」
綺麗にリボンの巻かれた依頼書を私に手渡しながら、ハティさんがさらっと告げた。
あ、カクさんの目がきらりと光った。
「いやいや~、幽霊に関しては私はド素人ですよ。むしろ極力関わり合いたくない人間ですよ。
どこかに、除霊をする人とかいないんですか?あ、ほら、教会とかに。」
ぽんと、丸められた依頼書で片方の手を打つ。
ハティさんに冷眼ビームを向けられた。すいません、丁寧に扱います。
「はあ。我が国の教会が信仰しているのは、創造神と7つの御使いですよ。光の魔術の使い手であるあなたが祓えないのに、他の誰が祓えるというのですか。」
ハティさんが、少し顔を落として溜息を吐いた。
うお~!美人の溜息ってすっごく絵になる。いや、わたしのせいで溜息を吐かれたんですけどね。
まあ、幽霊の件は置いておいて、エル殿下に魔術を教えるにあたって、衣食住は報酬とは別に保障してくれるらしい。太っ腹!
部屋は、今使わせてもらっている客室ね。
あのベッドって、本当に寝心地が良くて―――――!
「あ!あああのっ!依頼を受けるにあたって、一つだけお願いが!!」
突然慌てだした私に、ハティさんが眉根を寄せた。
「一応お聞きしましょう。何ですか?」
「殿下と一緒に寝させて下さいっ!!」
「はあ!?」
「え?」
「……は?」
「うええええ!?」
上から………って、もう言わなくても大体分かるよね。ちなみに、ハティさんは無言です。
「………え??」
あれ?なんで、みんなそんなに驚いてんの?私なんか変なこと言った??
と、自分の言ったことをじっくり思い返してみる。
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―――って!!うわぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!
「ちっ……ちちちちち違いますっ!!!いやっ!あのっ!い、一緒の部屋で……って、意味でっ!!」
私は、頭から湯気でも出てそうなくらい真っ赤になってたと思う。
とりあえず否定しなければと、意味もなく大げさに手を振りまくる。
殿下と一緒に寝たいって!こんな大勢の前で!どこの痴女ですか!!
「ひっ…1人で部屋で寝るのは怖いし!ど…どうせなら、幽霊避けになる殿下の傍で寝させてもらえば、よりいっそう安心するからであって……!!
決っしてやましい意味ではないんですよ!これ本当に!絶対です!!」
精いっぱい力説してみた。
途中、何か殿下に対して失礼な表現があった気がするけど、それどころじゃない!
いや、良く考えたら、私も光の属性があるから、幽霊は近づけないんだけど、だからって一人で幽霊と対峙できるかって言われると、それは絶対にお断りです!
仮に除霊できるとしても、怖いものは怖いんです!
私の必死さが伝わったのか、みんな「な~んだ。」って私から視線を逸らした。
あ、おい、エル殿下。そんなあからさまに、ほっと息を吐かないで下さいよ!地味に傷つくわ!
で、「床で寝ますからぁぁ!」と必死に泣きつき、終いには「じゃあ、城下で寝ますぅ!」と逆切れし、何とかエル殿下と同じ部屋で寝ることを許可された。
ああ、良かった。これで今夜は何とか眠れそうだ。