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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
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11.そろそろお暇させて頂きます。

「ちょっと用事がありますので、しばらく出てきます。」


 変な空気の中、そう言って、ハティさんが部屋を出て行った。


 そのハティさんの行動に、みんなもほっと体から力が抜けたみたいで、一気に空気が和らいだ。


 はあ、良かった。事情が分からないままあの場にいると、この先どういった行動をとればいいのか分かんなくて、本当に困ってたのよ。



「じゃあ、私もそろそろお暇しますね。」


 手元の紅茶を飲み干して、私も椅子から立ちあがる。


「は?」

「え?」

「……?」

「へ?」


 上から、エル殿下、ナディア様、スケさん、カクさんね。って、またこれかい!


 びっくり顔で私を見上げてくる面々に、私の方が首を傾げる。


「もうお城も十分に見学できましたし、あまり長居するのもお邪魔でしょうし。

 この度は大変お世話になりました。とても楽しかったです。ありがとうございました。」


 にっこりと笑って、深々と頭を下げた。



 そしてそのまま部屋を出て行こうとしたんだけど、がしりと腕を誰かに掴まれた。てか、しがみ付かれた。


「…っちょっ、ちょっと!あの亡霊どうすんの!?追い払ってくんないの!!?」


 必死な様子でカクさんが問いかけてくる。


「いえいえいえいえ!!私は霊媒師でもエクソシストでも無いんですよ!幽霊を祓うなんてできません!どうか他所をあたってください!」


 カクさんから腕を引き抜こうと、私は思いっきり力を込めて踏ん張った。


「だからって、ほっとかないでよ!俺もう二度とあそこに近づけないよ!というか城内歩けないよ!何とかしてよ~~~!!」


 段々カクさんに泣きが入ってくる。

 だが断る!私も早くこの城を出たい!


「私だって、あれを見た後でこの城で一夜を越すなんて怖くて出来ません!私は城下の宿に泊まります!

 あの幽霊はあの辺りから離れられないと思いますから、皆さんは普段通り過ごしていれば大丈夫です!」


 何か言っていることに矛盾があるような気がするけど、そこは気にしない!

 だって、怖いものは怖いのよ!ああいった類は本当に苦手なんだってば~!!


「うわ~~~ん!!自分だけ逃げようなんて、ずるいぞ!!」


 私の腕を掴み泣き叫ぶカクさんと、必死に腕を抜こうともがく私。


 傍から見たら、随分と滑稽な争いだと思うけど、本人達はいたって本気だ。今夜の安眠がかかっている。




「―――何をやっているのですか。」


 そんな時、多分に呆れを含んだ冷たい声が室内に響いた。


 引っ張り合いの格好のまま声のした方を見れば、いつの間に戻ってきていたのか、扉の前に凍りつくような眼差しをしたハティさんが立っていた。



「カーヤ殿が城を出て行くと言い出して、カークラントがそれを必死に止めているところだ。」


 あ、初めてスケさんに名前を呼ばれた!しかし、カーヤ殿って……すっごく変な感じ。


 あと、スケさん。その言い方だと、私が家出でもするみたいじゃないか。私は、あまり長居するのも悪いから、そろそろ帰ろうとしているだけなのですが!


「城を出る――ですか。」


 わあ、ハティさんに流し目くらった!う…美しいです!でも、何か背中が寒いです!


「いえ、もう十分お城見学は堪能させて頂きました!皆様もお忙しいと思いますので、私はこの辺で失礼させて頂こうかと!」


 片手にカクさんをぶら下げたまま、はきはきとハティさんに訴えた。


 早く退出させて下さい!時間が遅くなると、宿をとるのが困難になりますし!



「そう言えば、あなたに対して、陛下からのご依頼を言付かっています。」


 そう言って、ハティさんは手持ちの書類をぴらりと見せた。


 そこには、陛下のサインと皇帝印がしっかりとなされた依頼書。ちなみにその内容は―――。


「殿下に対する光魔術の教授??」


 どういうこと?と首を傾げれば、ハティさんは眼鏡を押し上げながら。


「あなたのおかげで、エリュレアール殿下に光属性があるということが分かりましたが、我が国には殿下に光属性の魔術をお教えできるような者はおりません。


 ですから、あなたの知る範囲で、殿下に光魔術をお教えして頂きたいのです。」


 さらりと言われた言葉に、私は慌ててすごい勢いで首を左右に振った。


「いやいやいやいやいやいやいやいや!私の魔術なんて自己流ですから!殿下に間違ったことを教えでもしたら大変ですから!!」


 無理です!無理です!と私がおたおたしていると、思わぬところから声がかかった。


「目の前で使って見せてくれるだけでもいい。間違っていても、使えなくても、決してお前に責を負わせることはしない。


 俺に、光魔術を教えて欲しい。」


 いつの間にか立ち上がっていた殿下が、真摯な目で訴えかけてくる。

 おおお!美形の真剣な顔って、すっごく心臓にくる!


 だが断―――あ、何か周りのみなさんも、「お願いします!」みたいな目になってる。いや~!そんな目で私を見ないで~!


「で……でも………」


 往生際悪く渋っていると、ハティさんが持っていた書類の一角を指差した。




「分かりました!精いっぱい、頑張らせて頂きます!!」




そこに書かれていたのは―――。



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