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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第1章
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10.衝撃の事実…なの?

 その後、お城見学ツアーの中止を高らかに宣言した私に、カクさんとナディア様が頷き、慌てて元の部屋―――エル殿下の執務室らしい―――に駆け戻ることになった。


 血相を変えて戻った私達に、室内で仕事していたハティさんはものすごく不審そうな顔をしていたが。






 ハティさんの指示で、侍女さんがお茶を用意してくれ、それを2・3杯飲み干したとき、漸く私達は落ち着いた。


 そして、事の次第をハティさんに話した。


「で、あれは何だったんだ?」


 優雅な応接セットの椅子に足を組んで座り、紅茶を飲んでいたエル殿下が私に問いかけてくる、が。


「いや、私も知りませんよ。もともとあそこにいたんですから。」


 思い出して鳥肌の立った腕を私がさすっていると、私と少し離れた場所にある椅子に腰かけ、お茶のカップをテーブルに置いたスケさんが、顎に手をやりながら言葉を発した。


「そう言えば、あの建物の一階は訓練用の武器庫になっているのだが、夕暮れから夜にかけて、女性の亡霊が出ると噂になっていたな。」


「あ!俺もそれ聞いたことある!だから夜にはあそこには近づかないようにしてたのに~!」


 カクさんは未だに顔色を悪くしたままだ。彼が非常に怖がりなのはよく分かった。




 あ、ちなみに、本来なら身分が違うスケさんやカクさんが、エル殿下やナディア様と同じテーブルに着くのは許されないんだけど、実はみんな旧知の仲らしく、公式の場でなければこうして一緒にお茶をしたりするのだそうだ。


 どうりで、スケさんもカクさんも、エル殿下やナディア様に対してあまり恐縮してないと思った。




「なぜ、昼間なのにあんなにはっきりと見えたのでしょう?」


 お茶を飲み、ほうっと息を吐いたナディア様が首を傾げる。


 そのナディア様の言葉を受けて、エル殿下がじろりと私に目をやった。


「あの時何かを叫んでいたな。何か魔術でも使ったのか?」


 じっとり見てくるエル殿下に、私は首を竦めた。………あ、盾にしたの、怒ってます…??


「いや、………だって、私だけ見えてるっていうのか何か不公平に思えて……。普段は見えないものが見えるようになる、“可視化”の魔術を使いました。」


 えへへ~と、誤魔化し笑いをしてみる。


 みんなの目が何だか冷たい。特に、カクさんなんかは、見たくなかったのに…と恨みがましげだ。



「それに、エリュレアール殿下を盾にしたというのも、非常に問題です。」


 眼鏡を押し上げて、ハティさんが冷静に言う。


 エル殿下の目がいっそう眇められた。ひえええ~!ごめんなさい!ごめんなさい!


「うう…、だって、殿下は光の素質が強いから、ああいった類のものは近づけないと思って………」


 言い訳がましく、目を彷徨わせながら答えた。

 いや、だからって人を盾にしたら駄目ですよね。うん、本当にごめんなさい!!


「は?」

「え?」

「え?」

「…?」

「へえ?」

 え??


 あ、上から、エル殿下、ナディア様、ハティさん、スケさん、カクさんです。

 いや、それはいいとして。ええ?私なんか変なこと言った??


 一様に驚いた様子で私を見るみんなを見回す。何か怖い。


「………え?どうかしました…??」


 おずおずと問いかけてみる。誰かなんか言って!



「………俺に、光属性が?」


 ぽつりと問いかけたエル殿下に。


「あれ?殿下は、光属性と火属性でしょう?」


 今度は私が首を傾げた。




 今更だけどちょっと説明するわね。


 この世界に存在する魔術には、光と闇という天の2属性に、土・水・火・風・木という地の5属性、合計7属性がある。


 それで、基本誰もが1属性は持っているけど、2属性以上を持っている人はかなり少ないらしい。


 それから、人にはそれぞれ、魔力と素質があって、魔力が多ければ魔術の規模が大きくなったり、持続時間が長くなったりする。


 一方、素質が強い人は、使える魔術の数が多くなったり、自分でも自由に魔術をアレンジできるようになるそうだ。

 


 今この室内にいる人でいうと、エル殿下が光と火属性。魔力も素質もかなり大きい。


 ナディア様は水と木属性。どちらも癒し属性だから、ナディア様にはぴったりかも。


 ハティさんは水と土属性。クールだから、水属性なんかはしっくりくるわ。


 それで、スケさんは土属性。うん、落ち着いた雰囲気だし、合ってると思う。


 カクさんは風属性ね。どこかひょうひょうとした人だし、うんうん、納得。




「俺の属性が分かるということは、お前も光属性を持っているのか?」


 私がつらつらと頭で考えていると、エル殿下がそう聞いてきた。



 属性に関しては、互いにその属性を持ってる同士にしか分からないらしい。

 あ、でも、素質が弱い人には、素質がかなり強い人のは分からなかったりするみたいだけど。



「はい。」


 そう言って、私はそれを証明するために、指先に小さな光を灯してみせた。


 みんながぎょっとして私の指先を凝視する。



「………俺にも、できるのか?」


 エル殿下がおずおずと聞いてきた。何か妙に自信無さ気なんだけど、使ったことないとか?


「あれ?使ったことないんですか?」


「………ああ、今まで俺に光属性があるなんて知らなかったからな。」


 指先の光を消して私が首を傾げれば、エル殿下は色々な感情を込めたような苦笑いを浮かべた。



「ご存知かと思いますが、現在確認されている光属性を有する者は世界中で5人しかおりません。」


 一瞬微妙な静けさが場を包んだが、ハティさんが声を発した。


 へえ、光属性を持っている人が少ないのは知ってたけど、そんなに少ないんだ。


「そのうちの3人はテミズ教国に、残りの2人は国を形成していない国家外の地域の集落にいるので、我が国内には光属性を持った者はいないのです。


 ですから、属性を持った者による確認はできません。」


「それで、一応みんな光属性の魔術を使ってみるんだけど、本からだと使い方が良くわからなくてね~。結局光属性が無いんだろうってことで済ましちゃうんだよね。」


 ハティさんの言葉を、カクさんが引き継いで説明をしてくれる。


 あ~、なるほどね。光属性の魔術って、イメージが付きにくいものが多いから、実際に実物を見てみないと、イメージしにくいのかも。

 私の場合は、科学の灯りとか、ファンタジーの知識がだいぶ役に立ってくれたんだけど。


「じゃあ、殿下も試してみられたらどうですか?こうして、指先に光を灯すイメージで。」


 私はもう一度、指先に光を付けて見せた。


 そんな私を見て、エル殿下も自分の指先をじっと見つめた。


 火の魔術は使えるんだから、魔術自体の使い方は分かるのだろう。



 途端、殿下の指先からカッと強く白い光が発せられた。


 うお、眩しっ!やっぱり魔力が大きいから、光もかなり強い。



 目の前に手をやって光を遮りながら、殿下を見てみると、何だか呆然としていた。


 周囲のみんなも、じっと息を詰めて殿下の指先を見ている。



 しばらくして、ゆっくりと殿下の指先の光が消える。


 未だに呆然と自分の手を見ているエル殿下。


 そして、何故か俯いているハティさんと、安心したように微笑んでエル殿下を見ているスケさん。


 あ、ナディア様とカクさんは涙ぐんでる。てか、カクさん泣いてる。



 ええ?何?何なのこの状況??

 私だけ置いて行かれているみたい。


 でも、そこは日本人ですからね!ちゃんと空気読んで静かにしてますよ。



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