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そのお詫び、二十四通目ですので結構です 〜妹に婚約者を六回奪われた姉が、ようやく自分の人生を取り戻す話〜  作者: 九葉(くずは)


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第八話 謝ってきたではないか

前の夜、ヴァランシュタイン家から、書状が、届いた。


リーゼが、銀の盆に、それを乗せて持ってきたとき、すでに、灯火を、ひとつ、落としかけていた。


「奥様」


「ええ」


「いまの時刻に、お運びすべきか、迷いまして」


「迷うときは、なさるのがいいわ」


「差出人は、ヴァランシュタイン家のお当主」


「……」


「夜更けの便でございました」


夜更けに便が動く、というのは、礼法上は、ほぼ、ない。

ない、ということは、急を要する、ということ。

急を要する、というのを、ご当主は、けっして、声には、なさらない方だ。

そういう方が、急を要する、という判断をなさったときは、書状の形式と、便の刻限だけで、それを、示す。


便箋は、家紋透かしの、正規のもの。

封蝋は、深い、緑。

押し方は、いつもの、ご当主の指の角度。


『明日のお話し合い、私は隣家のお応接間で、お待たせていただきます』

『お返事は、不要にございます』

『万一、ご退路が、ご必要になられました際は、お声がけくださいませ』


それだけだった。


明日のお話し合い、と、文面に、書いていた。


明日、ということは、当家の屋敷に、明朝、アルヴィス様が来られる、という事実を、ヴァランシュタイン家のお当主は、すでに、知っていた。

当家には、本日の夕方、クラーケンハイト家から、面会の申し入れの便が、届いていた。

受け取ってからまだ、ほんの数時間しか、経っていない。

それを、こちらが社交界のどこへも、話した覚えはなかった。


それを、知っていた。


知っていた経路は、おそらく、私には、当面、わからない。

ただ、知るだけの力を、ヴァランシュタイン家は、持っているのだ、という事実だけが、書状から、伝わってきた。


「隣家のお応接間」と、文面に、書いていた。

当家の屋敷の隣は、もう、長く、留守になっている屋敷だった。

ご当主が王都を離れていて、雇いの管理人だけが、屋敷に、住んでいた。

屋敷の建物は、立派なものだったが、家門の社交には、いまは使わない、と、噂で、なんとなく、聞いていた。


その屋敷を、本日、ヴァランシュタイン家のお当主が、すでに、借り上げていた、ということだった。


借り上げを、いつ、手配したのか。

たぶん、夕方、クラーケンハイト家の面会の便が、社交界に知れた、その夜のうちに。


「お返事は不要」と、書いていた。

「お声がけください」と、書いていた。


その二つは、矛盾しているように、聞こえるかもしれない。

矛盾は、しなかった。

ご当主は、こうして、当家に返事の義理を、負わせなかった。

負わせない代わりに、もし、明日、私のほうが、助けが、必要になったときは、こちらから、一声、声を上げさえすれば、助けに、入ってくださる、ということだった。


ただし、一声、こちらから、声を上げない限り、入っては、こない。


その境目を、こんなに、はっきり、引く方を、私は、これまで、見たことが、ない。


「リーゼ」


「はい」


「返事は、書かないわ」


「……かしこまりました」


「明日、お見舞いに、伺うつもりも、本日は、ないわ」


「ええ」


「明日のことが終わってから、改めて、ご挨拶の便りを、別の便で、出すから」


「明日のことが、終わってから」


「ええ。明日が、終わるかどうかも、まだ、わからないけれど」


リーゼは、銀の盆を、机に置いた。

それから、深く、お辞儀をして、扉を、閉めて、下がった。


私は、その夜、長く、書状の封蝋を、見ていた。

深い、緑。

深い緑の蝋に、紋章が、まっすぐ、押されていた。


明日、声を、上げる、ということが、必要だろうか。

必要にならない、ように、明日を、話の場で、終わらせたい、と、私は、思っていた。

声を、上げないことが、返事になる、と、思いたかった。


朝、お父様は、書斎に、籠もられた。


朝食の時刻に、お母様だけが、降りてきた。

お母様は、本日、加減はよろしいご様子だったが、言葉数は、少なかった。

昨夕、クラーケンハイト家からの面会の便が届いたことを、お母様は、すでに、知っていた。

知ったうえで、何も、尋ねない、というのが、お母様らしい、おもいやりだった。


「アデライド」


「はい、お母様」


「部屋の窓に、白を、一輪、切っておきましたよ」


「……ありがとう存じます」


「話を、なさるのに、役に立つかは、わかりませんけれど」


「お母様のお花は、役に立ちます」


お母様は、それだけ笑って、朝食の卓から、先に、下がられた。


朝食のあと、ハーシュが、玄関で、私を待っていた。

ハーシュは、お父様の代から、屋敷に仕えている、最古参の家令だった。

私の礼法の師でもあった。

背丈は、私より少し高く、もう髪も、八割方、白かった。


「お嬢様」


「ハーシュ」


「本日の席に、私が立ち会いますこと、お差し支えはございませんでしょうか」


「お父様は」


「旦那様は、本日は、書斎にて、お仕事の御様子で」


「……」


「旦那様の代理として、家令の身が、席に列なることは、慣例のうちでございます」


「……ええ。お願いいたします」


「かしこまりました」


ハーシュは、深く、一礼した。

礼の角度が、いつもより、わずかに、深かった。

深かったのは、ハーシュの側に、本日、自分の覚悟が、あった、ということだった。


ノエルが、玄関の脇から、顔を、見せた。


「お姉さま、私も、ご一緒します」


「あら、ノエル」


「アルヴィス様が、お越しになるのでしょう?」


「ええ」


「私、席に、おそばに、いたいの」


私は、それに、すぐには、答えなかった。


答えなかったのは、答えに、迷ったからではなかった。

ノエルがいることの、いまの意味を、ノエルが、まだ、わかっていない、ということを、考えていた。

わかっていないからこそ、ノエルが、自分でその場に、立ち会うことは、ノエル自身にとって、たぶん、避けたほうがよい時間に、なる。

それを、止める義理が、私の側にあるかどうかは、もう、わからなかった。


「お入りなさい」


私は、それだけ、言った。


応接間は、屋敷の一階の、庭に面した、いちばん広い部屋。

私の席は、部屋の入り口を、正面に見る席。

ハーシュは、私の左の、すこし下がった位置に、控えた。

ノエルは、私の右に、座った。


アルヴィス様は、定刻、五分ほど、早めに、見えた。

一人で、来られた。

従の者は、玄関ホールに、控えた。


「アデライド嬢」


「アルヴィス様」


「お時間を、頂戴いたしますこと、まずは、お礼を」


「ええ」


応接間のお茶は、運ばせなかった。

運ばせなかったのは、本日の席が、お茶の席ではなく、話の席だ、と、私の側で、はっきり、示したかったからだった。

お茶のない応接は、礼法上は、話の重さを、示す形だった。


アルヴィス様は、それを、見て、顔の表情を、わずかに、変えられた。

変えられたが、何も、言われなかった。

何も言われなかったのは、アルヴィス様が、それでも、本日、話をしようと決めていらしたからだった。


「アデライド嬢」


「はい」


「私は、何度も、謝った」


「ええ」


「二十四通も、お詫びを書きました」


私は、紅茶のカップを、持っていない手のひらを、膝の上に、置いた。

置いて、しばらく、何も、言わなかった。


紅茶のカップが、ない、というのは、こういうときに、手元の拠り所が、ない、ということだった。

拠り所が、ない、というのを、私は、本日、はじめて、選んでいた。


「ええ。たしかに、二十四通、頂戴いたしました」


私は、答えをした。

答えの声に、特別な、意気込みは、込めなかった。

込めなくとも、それは、応接間の、四方の壁に、ちゃんと、行き渡った。


「ならば!」


アルヴィス様の声に、自分の気持ちが、乗り始めた。


「ならば、お受けになって、よろしいではないか」


「アルヴィス様」


「ええ」


「数えるほど、積み重なるのが、誠意でございましょうか」


私は、それだけ、返した。


返した私の声に、力は、込めなかった。

込めようとも、思わなかった。

込めなくても、その問いは、応接間の、庭に面した窓の、すこし上のほうの、明り取りの部分まで、届いた。


アルヴィス様は、しばらく、言葉を、続けられなかった。


ノエルが、私の右で、ふっと、息を、吸った。


「お姉さま」


「なあに、ノエル」


「アルヴィス様だって、お忙しいのよ」


「ええ」


「お姉さまは、こういうとき、お優しかったじゃない」


私は、その言葉を、聞いたあと、紅茶のカップが、なかったことが、よかった、と、ふと、思った。

カップが、手元にあったら、置く音が、いつもよりも、固く、応接間の床に、落ちていただろう。

固い音を、立てないでよかった、と、思った。


「ノエル」


「なに?」


私は、返事を、返す前に、いったん、息を、整えた。


整えたあと、声に、息を、半分、まじえながら、言った。


「『こういうとき』が、何度あったか、ノエル、あなたは、数えていて?」


ノエルは、顔の表情を、止めた。


止めた、というよりも、何の顔を作ればよいか、わからなくなった様子だった。

わからなくなった顔、というのは、ノエルにとっては、生まれて、はじめての、顔かもしれなかった。

ノエルは、これまで、いつでも、顔を、ちゃんと、作ってきた。

ご機嫌に、悲しげに、困りそうに。

本日、そのいずれの、いつもの顔も、作らなかった。


それを、しばらく、私は、ノエルのほうに、向けていた。

責めるためではなかった。

ただ、ノエルの顔が、困りそうにすら、作れなかった、ということを、私の目で、はっきり、見届けたかった。


「お姉さま、私……、私は……」


「ええ」


「私は、お姉さまに、何か、悪いことを、いたしました?」


「……」


「ご機嫌、損ねるようなことを、いたしましたかしら」


私は、返事を、しなかった。

しなかったのは、いま、ノエルに、答えを返すと、ノエルの中で、すべてが、また、自分の気持ちの話に、戻ってしまう、と、わかっていたからだった。


ハーシュが、私の左の少し下がった位置で、わずかに、首を、動かした。

動かした方向に、目を、向けはしなかった。

ただ、私には、ハーシュが、本日の席に、自分の仕事として、立ち会っていることが、いま、確かに、見届けてくれている、と、わかった。


「お嬢様」


ハーシュが、低く、声を、挟んだ。


「ハーシュ」


「アルヴィス様」


「家令、何か」


「ご質問の話を、お続けくださいまし。よろしければ」


ハーシュの声は、慣例どおりに、低く、丁寧だった。


ご質問。

ハーシュは、ご質問、と、言った。

ご非難、ではない。

応答の催促、でもない。

ご質問。


それは、ハーシュが、本日の席の意味を、質問と応答の席として、整え直してくれた、ということだった。


アルヴィス様は、顔を、紅茶のないテーブルに、向けられた。

向けたまま、しばらく、何も、言われなかった。

やがて、顔を上げられた。


「アデライド嬢」


「ええ」


「君は……」


「ええ」


「君は、変わったな」


その言葉は、声の調子が、いつもの、年配めいた、叱りの口ぶりだった。

叱りで、話を、終わりにしようとなさる、いつもの、口ぶり。


叱りで、話を、終わりにできた頃を、アルヴィス様は、覚えていらした。

覚えたままで、いまも、それで、話が、終わるはずだ、と、信じていらした。


私は、返事を、しないでおこう、と、ふと、思った。


思ったが、口が、勝手に、動いた。


「いえ……」


「変わったではないか」


「変わらないでいるのを、やめただけ、です」


そう、言ってから、私は、自分の声が、揃いきっていなかったことに、気がついた。

うまく、言いきれなかった。

うまく、言いきれなかったのが、本日の、私の、いちばん、自分らしいところだった、と、後で、思った。


アルヴィス様は、しばらく、黙った。


それから、立ち上がられた。


立ち上がった気配で、ハーシュが、すこし、肩を、引いた。

引いたのは、応接間の、出入口の方向を、確認するためだった。

確認する動きは、ほんの、わずか。

わずかでも、その動きは、応接間の、すべての方の、目の隅に、入った。


アルヴィス様は、ハーシュの動きを、見られた。

見て、一度、わずかに、深い、息を、吐かれた。


「失礼を、いたした」


「いいえ」


「私は……、また、考えなおして、まいる」


「ええ」


「アデライド嬢、本日は、ありがとうございました」


「お送りいたします」


「いえ。お送りには、及ばぬ」


アルヴィス様は、応接間を、一人で、出られた。


ノエルが、立ち上がりかけて、足を、ふと、止めた。


「お姉さま、私……」


「ノエル」


「はい」


「部屋に、戻りなさい」


「……」


「話を、別の日に、改めて、聞きますわ」


ノエルは、何か、言いたげな顔を、した。

何か、言いたげな顔、というのも、本日のうちに、何度目だっただろうか、と、私は、ふと、思った。

思ってから、思った自分が、すこし、可笑しかった。


ノエルは、応接間を、出た。

出る途中で、振り返りそうに、なった。

振り返らなかった。

振り返らなかったのが、ノエルにとって、本日、自分でなした、はじめての、まともな作法だった。


応接間に、ハーシュと、私が、残った。


私は、ようやく、膝の上の、手のひらを、解いた。

解いた手のひらの、指のうしろが、湿っていた。

湿っているのが、自分でも、わからないほどの、わずかな汗だった。


「お嬢様」


「ハーシュ」


「私、本日、旦那様の書斎へ、お話を、申し上げてまいります」


「……」


「お差し支えは、ございませんでしょうか」


「ええ」


「では、失礼いたします」


「ハーシュ」


「はい」


「ハーシュ、一つ、伺ってもよろしくて?」


「一つ、と、一つでなければ、その後、また、お伺いいたします」


「お父様には、本日、私の席のことを、まだ、話に、なっていらして?」


「……話には、なっておりません」


「では、話を、先に、なさるのね」


「慣例にて、家令は、本日の席の報告を、その日のうちに、ご主人さまへ、申し上げます」


「ええ」


「報告のうちに、私の身が、添えることが、二、三、ございます」


「……」


「お嬢様」


「ええ」


「失礼ながら、本日、お差し支えなければ、私の身の、添えの言葉を、止めにはなさらないでくださいまし」


ハーシュは、深く、お辞儀をした。

お辞儀を、返すのに、私は、慣例どおりの角度を、思い出すのに、一拍、要した。


「お父様にお仕えするあなたが、お父様に、話を、申し上げるおり、私が、止めをいたす道理は、ございません」


「ご明察、痛み入ります」


「ハーシュ」


「はい」


「ありがとう。本日、席に、いてくれて」


ハーシュは、答えに、それ以上、言葉を、加えなかった。

ただ、もう一度、深く、お辞儀をして、応接間を、出た。


応接間に、私、一人になった。

一人になった応接間の、庭に面した窓の外で、庭師が、薔薇の蔓を、留めなおしていた。

留めなおす手が、いつもより、ほんの少し、ゆっくり、動いていた。


ふと、視線を、庭の門の方向に、送った。


門の前を、ヴァランシュタイン家の馬車が、一度、ゆっくり、通り過ぎるのが、見えた。


馬車は、当家の門の前で、止まらなかった。

止まらず、ただ、ゆっくり、通り過ぎて、隣家の屋敷の方向へ、続けに、去った。


それで、よかった。

それで、十分だった。


私の側から、声を、上げる必要は、結局、なかった。


なかった、ということを、こうして、馬車の通り過ぎる速さで、向こうから、確かめてくれていた。


私は、庭の窓の前で、しばらく、立っていた。

立っていたあいだ、部屋の中の、何の音も、なくなった。


そのあと、私は椅子に戻った。

戻って、膝の上に、両手を、並べた。

並べた、両手は、もう、湿っていなかった。


ハーシュが、書斎に入った時刻から、お父様の書斎の扉が、開かれることは、夕食の時刻まで、一度も、なかった。


夕食の時刻、お父様は、お母様と、一緒に、席に降りてきた。

お母様は、お父様の腕に、軽く手を添えていた。


お父様は、席に着く前に、私の顔を、一度、見た。


「アデライド」


「お父様」


「夕食の後で、部屋に、行ってよいか」


「ええ。お待ち申し上げます」


それだけ、言った。


お母様が、何も、言わずに、私の手元を、ふと、握った。

握る前に、手のひらを、湯気で、温めてくれていた、様子だった。


その夜、お父様は、本当に、部屋に、来られた。

お父様が、自分から、私の部屋に来るのは、私が、社交デビューの仕度の前にいただいた、家伝の指輪の話を、お父様から、伺ったとき以来、はじめてだった。


「アデライド」


「お父様」


「ハーシュから、本日の話を、伺った」


「ええ」


「……お前の文面を、本日、はじめて、家令に読ませてもらった」


「文面?」


「差し戻しのおりの、お返事の写しだ」


「……」


「『家門ぐるみで、ありがたくお受け申し上げます。お品につきましては、慣例に従い、差し戻しを』」


「お父様」


「それで、よかった」


お父様は、もう一度、それで、よかった、と、言った。

言った声は、声の温度が、いつもの、お父様のものよりも、半分ほど、低かった。

低かったのは、お父様が、本日、自分の中で、何かを、整えなおしていたから、だった。


「明日、王宮へ、行ってこよう」


「お父様」


「王宮の社交統括夫人に、ご挨拶を、申し上げてくる」


「お父様、お差し支えなく、いらっしゃいませ」


「……いままで、行くべきだったのを、行かないでいた」


「お父様」


「いままでのことを、お母様には、もう話し済みだ」


「……」


「お休み」


お父様は、扉のところで、一度だけ、振り返った。

顔の表情は、いつもの、お父様の、無口な顔だった。

ただ、その無口な顔の中で、目が、わずかに、湿っていた。


「ハーシュには、礼を申し上げておきなさい」


「ええ」


「あれは、お前の礼法の師だ」


「ええ」


「私の家令で、お前の師を、してくださった方だ」


「お父様」


「私が、師としても、家令としても、頼りすべき方を、頼り損ねていた」


お父様は、それだけ言って、扉を、閉めて、下がった。


灯火を、一つ、落とした。


机のうえに、ヴァランシュタイン家の、深い、緑の封蝋の書状が、まだ、開いたまま、置いてあった。


私は、それを、畳んで、引き出しに、戻した。

戻した引き出しの、一段上に、王宮便箋の、紺色の封蝋の書状が、すでに、しまわれてあった。


緑と、紺。


紺は、私を、席のうえで、引き上げてくれた色。

緑は、席の外で、声を上げる必要を、私から、減らしてくれた色。


二つの色が、引き出しの中で、重なった瞬間、ふと、互いを、よりはっきり、引き立てた。


明日、お父様は、王宮へ、行く。


お父様の歩幅と、私の歩幅は、これまでずっと、揃ったことが、なかった。

明日も、揃わないだろう、と、思った。

揃わないことを、私は、もう、寂しいとは、思わなくなっていた。


寂しいとは、思わない、と、自分のなかで、声に出さずに、言った。


そして、灯火を、一つだけ、残して、布団に、入った。


枕元の、お母様の白い薔薇は、すでに、満開、と、言ってもよいほど、開ききっていた。

開ききって、それでも、首を、垂れて、はいなかった。

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