戦乙女流決闘術
篝に殴り飛ばされた傷の女―――名を『ケイト』と言う。
そのケイトが殴られた頬を腕で拭うように擦った後、構えを取る篝に、ケイトはイラつきを隠さない。
「てめぇ・・・」
警戒するケイトに対して、篝は再び殴りかかる。
だが、篝はケイトからおおよそ一メートルの地点で急制動をかけて止まる。続けて、篝の眼前を何かが突き上がった。
「チッ」
ケイトのコードスキルなのか、ケイトは舌打ちをした。
対して篝は攻撃を回避した事を認識し、急制動をかけた状態から再び地面を蹴ってケイトを殴ろうと迫る。だが、ケイトは蹴りを繰り出す。その蹴りは篝の側頭部を狙って鋭く繰り出される。
しかし、その一撃が当たる事はなかった。篝がその場で更に屈んだからだ。
「なっ!?」
そのまま足に組み付いて地面に倒そうとする。だが、
「っ!?」
篝の顔面に何かが直撃し、その体が大きく仰け反る。
「ぐっ!?」
「は、どうした、ずっとお前の番じゃなかったのかァ!?」
続けて、篝に対して何かが繰り出される。しかし、篝は既にその攻撃を捉えていた。
戦乙女流決闘術『フェアリィダンス』
廻る。まるで風がそよぐような動きで、ケイトが繰り出した攻撃を回避する。
そのまま廻りながら攻撃を躱し、篝は再びケイトに接近。対してケイトは右拳を繰り出して迎撃してくる。
篝はその右拳を、外側に躱そうとするが、その退路を断つように、再び見えない何かが飛来、篝はそれを回避する。だが、今度は拳が篝の眼前に迫る。
直撃する。ケイトはそう確信する。だが、攻撃は当たる事なくするりと篝の横を通り過ぎた。
「な!?」
篝が添えた手によって、力の方向が捻じ曲げられたのだ。
戦乙女流決闘術『流』
そうしてバランスを崩したケイト。そのケイトの顔面に拳を叩きこもうとする篝に対して、ケイトは再び、自身のコードスキルを発動、篝に向かって放つも、篝はそれを反時計回りに回転して躱し、その勢いのまま左の肘鉄をケイトの顔面に叩きこんだ。
「がっ!?」
「おいおいガキ、それも男一人に情けねえなぁ」
追撃の腰からの打突が、ケイトの腹を抉る。
戦乙女流決闘術『祓石火』
捻りを加えた至近距離で鉄拳を放つ、戦乙女流の技である。
そこから、篝が優勢な戦いを眺めつつ、ラーズはゴライアスの拳に一文字に刻まれた傷を見る。
(この傷が、彼女のコードスキル。おそらく、何かで断ち切ること目的としたコードスキルでしょうか・・・しかし、切断できるわけではないようですね)
ラーズの視線は、既に息絶えている子供へと向けられる。その体のあちらこちらに、不自然に真っ直ぐな痣がいくつもあった。
(あのコードスキルで、痛めつけられたのですね・・・)
ラーズは再び、その子供の手を握る。
「・・・辛かったですね」
その一方で、セラは一方的に相手を殴る篝に、複雑な心境を抱いていた。
セラにとって、天城篝とは人として認められない存在だ。
真面目なのかそうじゃないのか、どっちつかずな性格をしていて、その上自分本位。こっちが周囲の事を考えてあくせくしているのに、あちらはマイペースに過ごして時間を潰している。
だというのに、仕事はラーズグリーズというリンカーを持っていても失敗ばかり、それなのにへらへらしてばかりで、気にしている様子が無い。それが一番気に食わない。
事務所の状況を、一体どれほど理解しているのかさっぱり分からない。
けれど、それでも認めている事だってある。
(少なくとも、戦いにおいてあの人が負けるなんてこと、想像出来ない)
再び、篝の拳がケイトの顔面を捉える。
「がはぁ!?」
ケイトは鼻から血を流し、その顔を痣だらけにして、それでもなお立っている。
対して、篝は全くの無傷。最初に貰った一撃は、腕を使ってガードしていた上に、そこから先は一切の攻撃を喰らっていなかった。
「クソがっ・・・!」
(どんなからくり使ってんのか知らねえが、男が戦姫になるなんてありえねえ。ずっと男装なりなんなりしてたんだろうよ。だけどこっちの攻撃が一切入らねぇってのはどういう事なんだよクソがっ)
ケイトは再びコードスキルを放つ。しかし、篝はそれを難なく弾く。
「クソォ!なんで効かねえ!?」
「距離が開けば威力が落ちるのは当たり前だろ。特にエーテル関係の攻撃なら特にな」
本来、戦姫の戦闘スタイルは近接戦が主流だ。
よほど特異なコードスキルや武器―――『デバイスウェポン』を有していない限り、戦姫は遠距離での攻撃方法を持たない。
その理由は、エーテルの特性にある。
エーテルは人によって千差万別、例え母娘姉妹であっても同一であることは一切なく、その全てが色で判別できる。
例えるなら、セラは青、ケイトは緑と言った具合にである。さらに、この『色』と『属性』は結びつくことはない。
さらに、コードスキルを発動できるエーテルはそのコードスキルを持っている戦姫のエーテルのみであり、他人のエーテルで発動する事は決してない。その為、他人からのエーテルの供給は全くの無駄な行為と言って良い。
そして、エーテルは持ち主から離れれば離れるほどその効力を失い、やがて消滅する。その為、コードスキルは距離が離れれば離れるほどその威力を減衰させてしまい、尚且つ、戦姫自身が無意識に放出しているエーテルのフィールドによって掻き消されてしまうのである。
しかもその有効範囲は平均最大五メートル。より精密なコントロールを必要とするなら一メートルが限界である。
だからこそ、戦姫は近接戦闘しか出来ない。逆に言えば、距離をとれば危険はないのだ。
「それに、お前のコードスキルは切断じゃなく圧折。線状の圧力をぶつける事だろ。だったら刃挽きした剣を受け止めるようなものだ。そんなもの話にならない」
コードスキルを看破されたのか、ケイトの表情がさらに歪む。
「どうする?まだ続けるか?」
「んだと?」
「やめてほしけりゃ、今この場で土下座して『どうか許してください私は男にも劣る雌豚です』って言ってもらおうか」
「ふざけんな!」
ケイトが再びコードスキルを発動する。しかし、それらの攻撃は篝に一切当たる事なく躱され、そのまま接近された所に今度は右肘がケイトの鳩尾に突き刺さる。
「ごォ!?」
「ふざけんな?面白半分で人の命奪ったお前にはお似合いの恰好だろ。全裸土下座じゃないだけありがたく思えよ」
篝が離れる。ケイトは鳩尾を抑えて屈む。
「さあ、どうする?するか、しないか。しないってんなら、二度と歩けないようにぶちのめす」
こきり、こきり、と拳を鳴らして、篝はケイトに向かってそう宣告した。
一方のケイトは悔しそうに歯ぎしりをしていた。たかだか子供一人に一方的に叩きのめされている状況は、まさに面目丸潰れと言って良い失態だ。だからその事実をなかったことにするためには、目の前の少女―――厳密には少年を叩き潰し、その存在を消さなければならない。
だからこそ、ケイトはなんとしてでも勝たなければならなかった。
「這いつくばんのはてめぇの方だァ!!」
突如として天井が砕け、瓦礫が落ちてくる。ケイトが天井に向かって圧折のコードスキルを放ったのだ。
同時に、篝のすぐ傍の壁も砕け、土煙が舞い上がり、視界が塞がれる。その中でケイトはその隙を使って、拳に自らのコードスキルを纏わせて突進する。
ケイトのコードスキルは線状の圧力を飛ばす。それを拳にメリケンサックのように纏わせれば、その発射速度を拳に乗せて放つことが出来る。
(こいつなら、そう簡単に逸らせねえだろッ!)
速度の要はコードスキルの為、篝の『流』による力の方向の捻じ曲がりは起きない。その上、拳に乗せて放つために、距離が離れる事による威力の減衰もない。
故に、その拳は篝に直撃する―――。
「―――コードスキルを利用しての身体能力の強化。基本だな」
だが、篝はその拳を左腕で防いでいた。
「で?それだけか?」
戦乙女流決闘術『火威』
筋肉を締める事によって肉体の耐久強度を増す、戦乙女流の防御術である。
その不壊の防御をもって、篝はケイトからの攻撃を完全に防いでいた。
そして、その事実をケイトが認める前に、篝は防いだ拳を左手で掴み、引き寄せると同時に、その顎下から強烈な鉄拳を叩きこんだ。
戦乙女流決闘術『鉄火』
火威と同じ要領で筋肉を締めた拳で対象を殴るだけの攻撃だ。
だが、それでも威力は絶大であり、それでケイトの意識は一瞬飛ぶ。そのケイトに篝は追撃せず、ケイトが跪く様を黙って眺めていた。
そうして、ケイトが地面に膝をついていると、
「どうか許してください私は男にも劣る雌豚です」
・・・と、言ってきた。
誰が見ても分かる降伏宣言だ。頭と手を地面につけ、膝を畳んでの不細工な土下座だが、その姿勢はまさに降参の意思を示していた。
(さあ、許せよ)
しかしその内心はどこまでもドス黒かった。
(どうせまだ青臭いガキだ。こうやって降参するフリしとけば、勝手に納得して隙を見せる。そうなったらあとは簡単だ、背中見せた所を一発・・・人生は生き残った奴が勝つんだよ!)
そんな打算を立てて、ケイトはその時を今か今かと待っていた。
「・・・いいだろう」
そして、その時が来た。
「許してやる」
(キッタぁぁああああ・・・!!!)
伏せた状態では、その喜びに歪み切った笑顔は見えない。だからこそ、その算段が見える事はない。ケイトはそう確信し、あとは篝が背を見せるのを待った。
「だがこいつが許すかな?」
が、次に聞こえてきたのは、ケイトにとって意味の分からない疑問だった。
「は?」
思わず顔を上げたケイト。その視界に映っていたのは、篝ではなく、拳を振り上げる機甲の怪物だった。
「・・・・は?」
ケイトの人生は、そこまでだった。
そうして、名前も知らないギャング組織を一つ潰した篝たちは、子供の遺体を抱えながら建物を出た。
そこで、オードリーが一人待っていた。
「あ、おーい!こっちこっち!」
オードリーが手招きをしてくるのでそちらに向かった篝たち。
「良かった。無事・・・とはいかなかったみたいだね」
オードリーが、ラーズが抱えている子供を見て、そう気落ちしたように表情を暗くする。
そんな彼女に、篝は財布を差し出した。
「これだろ?お前の財布」
「おー、ありがとう!これ私の全財産なんだよね!」
と、喜んだ素振りを見せた後、篝を見て、
「で、君は誰?」
「あ?」
言われて、篝はまだ自分が戦姫形態のままだったことに気付いた。
「さっきの少年がどこにも見当たらないんだけど・・・」
「えっと、そこにいるのがそいつです」
「え?」
篝の身体が光り出す。そうして光が収まると、そこには男である篝が立っていた。
「・・・・変身系のコードスキル?」
「違う。これが素だ」
「・・・・」
数秒、沈黙した後、そんなまっさかー、とでも言うように指差して笑った後、セラたちの反応を前に再び真顔に戻り、
「・・・・マジ?」
「マジだ」
オードリーは、ひっくり返った。
「まさか男で戦姫になれる人がいるなんて思わなかったよ」
遺体を目立たないように布で隠し、篝たちはオードリーの後をついて行っていた。
「悪かったな男で」
「そう邪険にしないでよ。秘密は守るからさ」
「そう思うんなら、そろそろ案内してくれ。こいつの事もなんとかしてやらないといけないし」
「ああ、その子はうちで引き取るよ。埋めてはあげられないけど、火葬してあげることぐらいは出来るからさ」
「なんでアンタがそうする必要があんのよ」
「ふふん、聞いて驚くが良い」
そうして案内されたのは、このオアシスという地区の出入口だった。
「改めて、私はオードリー・クレイナ。またの名を『顔無しのクレイナ』。これでもれっきとした商人なんだ」
オードリーのカミングアウト。セラとラーズがぽかんと唖然とする。
だが、一人だけため息をついた。
「そんなこったろうと思った・・・」
「おや、君はあんまり驚かないんだね」
「まあ、人を疑うようにはしているからな。財布の中身を覗かせてもらった。結構稼いでる奴の中身だったよ」
「おっと、これは油断したね」
しかし、ここでこのような人物に出会えたのは僥倖と言える。
「何かご入用なものがあったら、すぐに用意させていただくけど?」
「生憎と今はすっからかんだ。代わりに壊したブラックリンカーが一個ある。それを買い取ってくれれば、今後も取引させてもらうがいいか?」
「ほうほう、今後もご贔屓にしてくれると。うん、わかった。今はそれでいいよ。財布を取り戻してくれた恩もあるしね」
そこまで言って、オードリーは今度はラーズの元へと向かう。
「その子、こっちに渡してくれるかな」
その言葉に、ラーズは思わず、布に包んだ子供の遺体を強く抱き締める。そんなラーズの頭を、篝はそっと撫でる。
「俺たちに、そいつをどうこうする事は出来ない。だったら、どんな形であれ葬ってくれる人の手に渡った方が、幾分かマシだ」
「・・・・」
ラーズの無表情は崩れない。しかし、子供を掴んで離さない様子から、その心情は察するに難くない。
そんなラーズを見て、オードリーは少し考える素振りを見せて、懐から携帯を取り出した。
「ちょっと失礼」
そしてすぐさま子供を包んでいる布を剥がし、その顔を晒した。
「あ、もしもし、オードリーだ」
その直後、電話が繋がったのか、淡々と何かを喋り始める。
「年齢はおおよそ七歳、髪は金、口左端の下に黒子がある。それで・・・何か私の財布以外で私物的なものはなかったかな?」
「木彫りのペンダントを見つけた」
「木彫りのペンダント・・・十字架の図が刻まれてる・・・見つけられる?いなかったらいないでいいんだけど・・・見つけたんだね。分かった、後で座標送って」
篝が取り出した木彫りのペンダントを見て、その情報を伝えた後、オードリーは通話を切る。そのすぐあとに、オードリーの携帯に何かの通信が入った。
「何か探すことの出来るコードスキルか?」
「いいや、占いだよ。八割がた当たるから、頼りにしてるのさ」
「商人が占い頼りって、いいの?」
「時には道の先に何があるのか知って準備しておくのも、破産しないコツだよ。それと、観察眼もね」
得意げに語るオードリーに、セラとラーズは訝し気に睨みつけるも、篝は特に表情に変化はなかった。
そうして、オードリーは案内をした。
その子供の帰りを待っていた者の所へ。
クローラル学園、校舎屋上にて。
夕焼け色の空の下、篝はベンチに仰向けになって寝転がり、ラーズはフェンスに手をかけて、夕日を眺めていた。
「・・・・どうする、そろそろ戻るか?」
そう尋ねる篝に、ラーズは何も返さない。
オアシスから戻り、ステラやクルエに報告をした後、ラーズは一人、校舎の屋上でしばらく夕日を眺め始めたのだ。
篝はリンカーであるラーズの保持者であるため、こうして付き添っているのだが、日没寸前という所までこうしてただただ茫然としていた。
「・・・・・」
そんな状態で篝が思う事は一つ。
(帰りてえ)
しかしその事を口に出す事はしない。ラーズがこうして何もせずじっとしている理由をなんとなく察しているからだ。
オードリーが案内したのは、古びたアパート。その一室に、一人の女性が住んでいた。
その女性は、ラーズが抱えていた亡骸を見ると、まるで信じられないものを見るかのような表情で唖然としていた。
それは、決して汚いものを見たとか、死体を見て驚いたとか、そんなものではなかった。
その女性は、殺された子供の母親だった。
(誰もかれもが、あのギャングたちのような性格をしている訳じゃない。あの母親のように、例え我が子が男でも、大切に育てようとする親だっている・・・けど、だからこそ苦労していたんだろう)
未だ、『男性排除運動』の名残がある時期だ。男児を抱えているだけで仕事を追われ、周囲から後ろ指刺されることだって珍しくはない。
だが、それでも頑張っていたあの母親にとって、あの仕打ちはあんまりだと思う。
オードリーは、さめざめと泣いている母親に寄り添い、ラーズから子供を受け取って、篝たちに帰るように促した。
『あとの事は私に任せて、またあとでそっちに伺わせてもらうから。子供は家に帰る時間だよ』
それ以上、篝たちに出来る事はなかった。
泣いて崩れ落ちた女性を、慰める言葉など持ち合わせていないし、その涙を偽物と断じる事など出来なかった。
そんな事もあって、セラも浮かない顔のまま、ロロと共に帰路についていった。
しかし、このまま何もしないままじっとしているというのも違う。結局、ラーズが何を考えているのかまだ分からない。
だったら、こっちから歩み寄るしかない。
「ラーズ、聞いてたらそのままでいいんだが・・・」
篝は、ベンチに仰向けのまま喋り出す。
「俺はアイリスに引き取られるまでは、女に育てられてた」
「・・・・」
ラーズから反応はない。だが篝は話を続ける。
「名前はルーミヤ・エテルナ。俺は、その人を母親だと思ってたんだが、あの人は自分を母親って呼ぶことをよく嫌がってた。なんでも『自分は本当の母親じゃないから』って言ってたな。血の繋がりはなかったみたいだし、似ている所も無かった。だけど、いつも精一杯育ててくれたのを覚えてる」
容姿は長い茶髪を後ろにまとめ、浅葱色の瞳をもった童顔。身長は小柄な方で、淡い光のような笑顔を絶やさない人であったと覚えている。
「あのころの俺はまだ、こんな日々がずっと続くんだと思ってた。だけど、雪の降る日だったと思う。その日、あの人は殺された」
篝の声に、抑揚は無かった。
「赤い服を来た連中だ。そいつらが襲ってきて、あの人は俺を逃がして死んだ。死体は見ていない。けど、なんとなく、二度と会えないというのは分かった。そんな状況だったから、俺は諦めた」
そこまで言って、篝は鈍い動きで体を起こした。
「あの母親はマシな方だ。遺体が見つかった。だから、『生きてるかもしれない』という希望に惑わされる事はない。分からないのは、一番怖い事だからな」
そこまで言って、篝はようやくラーズの方を見る。
「お前が今、何を考えてるのかは知らない。だが、俺が言えるのは、俺たちはちゃんと行方不明になった子供を母親の元へ送り届ける事が出来た事。それだけでも、意味はあったと思う」
「それでもあの子供は死にました。身勝手な人たちのせいで」
そこで、初めてラーズが口を開いた。
「同じ人である筈なのにどうしてあんな風に傷つけ奪うことが出来るんですかっ。どうして、あんな小さな子供が死ななければならなかったのですか・・・!何故、明日をも知れぬ命が、明日を保証された輩なんかに、殺されなければならなかったんですか!?」
エーテルで構成された活動体であるラーズの身体が、淡く光る。それは彼女の身体を構築するエーテルが、彼女の感情によって昂ぶり、不安定になっているからだ。
「ラーズには、分かりません・・・命を奪う行為に、快楽を見出す意味が・・・」
「そうだな。分からねえよな」
篝はラーズの傍に立ち、一緒になって夕日を眺める。
「生きるってことを、ずっと探し続けてる」
篝はそれ以上は何も言わなかった。
「・・・篝さん」
そんな篝に向かって、ラーズは彼に尋ねた。
「どうして、ラーズを貴方のリンカーにしてくれたのですか?」
「あ?そいつぁ・・・」
その時、屋上の扉が開く。
「ん?お前たち、まだいたのか?」
クルエだ。
「クルエ?」
「先生をつけろ先生を。全く、もうすっかり日も暮れている。本当に暗くなる前に帰れよ」
ちなみにクルエはここに住み込みだ。だが確かにもう夕暮れ時だ。これ以上、ここに居座るべきではないだろう。
「それもそうだな。ラーズ、帰ろう」
「・・・分かりました」
「クルエも煙草はほどほどにしておけよ」
「ぐっ、分かっている・・・」
そうして、帰路につく篝とラーズ。しかし、ラーズの篝の背を見る目は、やがて地面へと向けられた。




