表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

4話 図書館の怪異

 ■■■


「……うそ」


 ——頭が真っ白になる。膝が笑って、その場に崩れ落ちそうだった。


 ――ペタ! ペタペタペタッ!

 

 足音が迫る。

 相手もこちらの弱り具合を感じ取ったのか、音の間隔が明らかに速くなった――。


 ——そして、私はその正体を双眸に収めた。


「はうぅぅぅぅ。まってぇぇぇ」

「…………………………へっ?」


 聞こえてきたのは、なんとも間の抜けた声だった。

 どのくらい抜けているかと言えば、先ほどまでの恐怖が一瞬でどうでもよくなるほど。

 

 声の主を探すが、どこにもいない。

 すると視界の下に、ちんまりとした手のひらサイズの人型が見えた。


「おなかへったですぅ。くらいのいやなのですぅ。おいてかないでぇ」

 

 『あぅ』と足元に転んで動かなくなった。

 

 どうしよう。

 さわってよいものかどうかと逡巡し、人型に触れてみた。


「ひぃ、いじめないでぇ」


 人型は、両手で頭を抱えながらぶるぶると震え出した。


「いじめませんよ? えっと、あなたは?」

「はぅ! にんげんさんとこみゅにけーしょんとれたです。たすけてーおなかへってるですぅ」

「お腹が減ってるの?」

「そうですぅ、ちからでぬのですぅ」


 人型はそういって両手をパタパタと振っている。

 少し考えて、おやつ用に持ってきたカレーパンに手をつけてないことを思い出す。

 カバンから取り出して封を開けて、どうぞ、と人型の前に差し出す。


「これはなにですか?」

「カレーパンです。おいしいですよ?」

「ざらざらしてますが?」

「表面はそうかもですけど、中はカレー入っていておいしいですよ?」

「これはざらざらしすぎです。こんなにざらざらしていてはたべられぬです」


 なるほど、小さいから衣が口に合わないのかもしれない。

 どうしよう、と考えたところ、スティックシュガーの存在を思い出し、試しに一袋開けて差し出してみる。


「おお! こういうざらざらしているものをきたいしてたです!」

 

 さっき同じ理由で拒否していたと思ったけど、細かいことは気にしない。

 スティックシュガーを逆さにし、ちんまい口にざらざら流し込んで食べだした。


「ふあぁ、まんぷくです~。ありがとさんです」

「あなたは誰?」

「さぁ?」

「さぁ、って」

 

 話を聞いてみると、ずっと以前からこの図書館に住んでいるそうだ。

 普段は人が来て賑やかだったが、ここ最近は誰も来なくなった――おそらくは一時閉鎖になったのが原因だろう――。

 心細い思いをして過ごしていたところ、私がきたので追いかけてきたらしい。


「つまり、あなたは資料室にいたの?」

「しりょうしつってなんです?」

「司書さんは、あなたがいることを知っているの?」

「さぁ?」

「あなたはどこから来たの? お仲間は?」

「おなかまってなんです?」

「ごはんは? さっき砂糖食べてたじゃない?」

「ひとのあつまるへやにたくさんあったのでもらってたです」


 会話の調子は終始こんな具合である。

 『ひとのあつまるへや』は職員待機室のことだろう。

 まとめると館内に以前から住んでいて、職員のおかしを食べながら暮らし、誰もこなくなったから私を追いかけた、と。


 三角帽子にダッフルコートのような服を着ている。

 童話の世界に出てくる小人に似ていたため、『小人さん』と呼ぶことにした。


 状況を整理して安堵したとたん、疲労とケガが一気に押し寄せ、その場に座り込んでしまった。

 先ほど鼻を強打して鼻血を出していたことを思い出す。

 まだ血が止まっておらず、見てみたら制服も血まみれだった。


「けがしてるです?」

「うん、走っている時にぶつけたの。ッツ!」


 軽く鼻を触ると激痛が走った。

 鼻血の量からすると骨が折れているかもしれない。

 とりあえずポケットティッシュを取り出して抑えているけど、血は止まらず流れ続ける。


「ツ~~~ッ!」

「けが、みていいです?」

 

 小人さんはちょこちょこと私の肩口までよじ登ると、そっと鼻に手を添えた。

 するとその小さな手から、俄かに光が溢れだし、じんわりと痛みがひいていく。気づけば、鼻血もすっかり止まっていた。

 

「すごい! あなたそんなことできるの?」

「さきほどのたべもののおれいです。いたくなぁい?」

「他にも何かできるの?」

「えーっと、こういうことできるです」


 小人さんは唐突に背を向けると、空中に手を突き出した。

 また手のひらが俄かに光りだし、現れたのは――でっかいトカゲ!?

 それもただのトカゲじゃない。

 全長3メートルはある、まるで怪獣映画から抜け出したようなやつだった。

 

「きゃあああああああああああああああ!」


 無理、無理無理! 私は反射的に絶叫していた。


「はぅ、ごめんなさいー」


 小人さんは謝ると、すぐにトカゲは消えて頭を抱えて震え出した。


「あ、ごめんなさい! 突然だから驚いて! 怖がらないで。ね?」


 まだ頭を抱えて震えている。

 思い悩んだところ、スティックシュガーがまだあることに気が付いて、もう一袋差し出してみる。


「ほら、小人さん。これでご機嫌をなおしてもらえる?」

「おお! にんげんさんはかみさまのようにおやさしいです!」

「あなた、現金ねぇ」


 あまりの可愛らしさに笑ってしまう。

 お口をいっぱいに開いて、ざらざらむしゃむしゃと砂糖を頬張る姿はしあわせそうで、心が和んだ。


「しあわせの~しろいこな~♪」


 ……うん、その言い方は非常にマズいやつだよ?

 ややアウトな気がするが、苦笑いして見守ることにした。

 

 小人さんを肩に乗せて、出入り口まで移動する。

 途中、外に出ようと窓を調べたが、やはり金具が溶けたように変形しており、開けられなかった。


「小人さん、これも小人さんの仕業?」

「あぃ?」


 尋ねてみるが、肯定とも否定ともとれない微妙な反応でよくわからなかった。

 おそらく勘では小人さんの仕業だろう。こんなこと小人さんしかできない。

 本人から聞き出せないのであれば、しょうがなかった。

 

 再度扉の前にきて押してみるが、やはり外から南京錠をかけられたようでこちらも開かなかった。


「はぁ、これからどうしよう……」

「とびらあけたいですか?」

「え、開けられるの?」


 小人さんは相槌を打つと、扉の前に手をかざす。

 するとカチャリ、と錠が外れて落ちる音が聞こえた。


「すごい! なんでもできるのね!」

「えっへん。にんげんさんはおかえりです?」


 そう聞かれて、脳裏にあることを閃く。


「ねぇ小人さん、ちょっとお願いがあるんだけど聞いてもらえる?」

 ここまで読んでくれて、ありがとうね☆

 私たちの活躍を応援してくれる人は、☆やブックマークをしてくれると嬉しいわ!

 応援よろしくね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ