3話 閉じ込められた少女
練習を終わらせて部室に帰ってくる。
着替えようと思って荷物置き場を見ると、私のカバンがどこにもなかった。
「ねぇ、私のカバン、誰か知らない?」
「え、知りませんけど……」
部員にもカバンを探してもらうが、私のだけない。
一応他の人の荷物はあるか確認してもらうが、そちらは問題ないようだった。
「どこいったんでしょう?」
「変ね、ちゃんと置いておいたはずなのに」
言いながら、ふと部室の外に目をうつす。すると晶子の姿が見えた。
こちらを見てほくそ微笑んでいる。舌を出してあっかんべーした後、後ろを向いて駆け出した。
まさか、と思いながら全力疾走で晶子を追いかけた。
走りながら、どんどん頭に血が上る。
帰宅部のはずの晶子が、この時間にいて、しかもカバンを2つも持っている。
――あの女、シャレにならないことをしやがった!
今の今まで軽くいなしていたが、人のカバンを持って行くだなんていたずらにも程がある。
少し強めのお灸が必要だと思いながら、晶子を追いかけた。
みるみる距離を縮めていくが、最初の距離が離れすぎていたこともあってなかなか追いつけない。
あと50mというところで、例の図書館に逃げ込んでいくのが見えた。
あそこは一時閉鎖しているはずじゃなかったのか?
そういえば今は父親が代わりに管理をしていると言っていたような気がする。合鍵の1つも持っているかもしれない。
まぁ、知ったことではない。
後で晶子に問いただしてみればいいだけの話だ。先のことはあの女を引っ叩いてから考える。
そう思いながら、扉を開け放った。
「晶子! いるのはわかっているの! 出てきなさい!」
大声で叫ぶが返事はない。
館内に入ると、意外なことに入り口から10mほどの位置に私のカバンが置いてあった。
カバンへ向かっていると、その途中、バタンッと音が聞こえた。
聞き覚えのある音にゾッとする。振り返ると扉は閉められていた。
急いで戻って開けてみようとしたけど、まったく動かない。
施錠用の鍵があり、まわして開こうとするけど、それでも開かない。
どうやら外から南京錠かなにかで閉められたのだろう。
「ホーッホッホッホ。無様ですわね。ゴリラ女」
「晶子っ! あんた、自分が何をしたかわかってるの!?」
「わかっていましてよ? 猛獣を小屋に閉じ込めましたの」
「あんたねぇ! こんなシャレにならない真似して! ただで済むと思ってるの!」
「わたくし、ゴリラの言葉ってわかりませんの。まぁわたくしも鬼じゃなくてよ? 一晩凌ぐくらいの水と食料は置いてますから。では私帰りますわね。おばけに気を付けてくださいまし~」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
そう言いながら、晶子の声が遠のいていった。
力任せに扉を開こうとしたけどビクともしない。何度か叩いてみたけど手が痛くなった。
仕方がないので、自分のカバンの位置に戻ってみると、一緒にコンビニ袋があった。中を見てみると2ℓの水とスティックシュガーが入っている。
一晩凌ぐくらいの水と食料、というのはこれか?
あの女、金持ちぶっている癖に、案外ケチなのね!
頭にきて壁を叩く。
今までも頭のおかしい女だと思っていたけど、今回は常軌を逸している。
ひとまず落ち着こう、と制服に着替える。体操服は部活で汗だくだった。
晶子が用意した水をラッパ飲みする。飲む前に賞味期限を確認するが、特に問題はなかった。
また持ってみると少し冷えていることに気付く。
あの女、わざわざこのために買ってきたのかしら?
この辺にはコンビニがないのでわざわざ駅方面まで行ったことになる。
イカれているのか律儀なのか、よくわからない女だ。
さて、どうしようか。
スマホは学校の規則で持ってきていないから、連絡はとれない。
窓に移動して外を見たものの、やはり人が通る気配はない。
最悪、窓ガラスを割れば出られるけど、できればそれは避けたかった。
しかし窓を見ると鍵がかかっており、開けると呆気ないほど簡単に開いた。
なんだ、開くじゃないか!
さっきあんなに扉を叩いたのに!
さっさと抜け出して晶子を酷い目に合わせてやろう。
そう思い、早速身を乗り出そうとしたところ、館内から妙な音が聞こえた。
気のせいかな? そう思ったけど今朝美紀から聞いた話が頭をよぎった。
少し陰ったとは言え、まだ西日が射して廊下も明るい――。
――後にして思えば、まだ明るかったことが災いした。
美紀から聞いた話が気になって、私は館内の奥を調べに行ってしまった。
図書室、談話室、職員待機室、一通りの部屋を確認した。
ただ妙な音が聞こえることはなく、特に変わったところもなかった。
やっぱり気のせいだったのだろう。
最奥にある資料室を最後に確認し、出入り口へと踵を返した。
先ほどまでは西日で照らされていた廊下は、今は少し暗く、不気味な雰囲気が館内に広がっている。
さっさと戻ろうと、少し歩きだすと――――。
――――ペタ、ペタ、ペタ。
「えっ?」
声と一緒に背後を振り返る。
先ほど出てきた資料室の扉が静かに開き、妙な音が聞こえ始めた。
廊下は既に暗くなって見えない。
いつの間にこんなに暗くなったのだろう?
先ほどは少し暗いと思っていた廊下には、深い暗闇が覆っていた。
再び聞こえる、人のモノとも動物のモノとも違う足音。
美紀に聞いた話が頭をよぎり、背筋に冷たいものを感じて出入り口まで走った。
カバンを拾い上げると、すぐに窓をあけて外に出ようとする。
だが、窓が閉まっている。
さっき館内を調べに行く前は開けっ放しにしてたのに、今はなぜか閉まっている。
疑問が生じたが、今はそんなこと考えてられない。
もう一度鍵を開けて窓を開けようとするが、鍵の金具が溶けたように変形しており、まったく動かない。
別の窓の鍵を開けようとするが、同様だった。
「うそっ……なんで!」
窓を無理矢理開こうと力任せに引っ張る。
ただガタガタいうだけで、一向に開く気配はない。
————ペタ、ペタ、ペタ。
先ほどより、確かに音が近づいてきているのがわかった。
「うそ……うそ、うそ、うそでしょ!?」
背後には何も見えない。
ただその場にいるのが恐ろしくなり、すぐにカバンを持って駆け出した。
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