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2話 図書館の奇妙なうわさ話


 □□□


「あの図書館にはね! おばけが出るってうわさがあるんだよ!」


 学校の休み時間。

 授業が終わるや否や、前の席の美紀(みき)が、いきなりそんな話を切り出した。

 

 一限目の授業が終わって教師が出ていった矢先のこと。

 今朝遅刻ギリギリで登校してきて話せなかった彼女は、我慢の限界だったのだろう。

 担任が教室を出ていくと同時に、私に向かって話しかけてきた。


「おばけ?」

「そう! なんでも昔図書館で亡くなった女の子の幽霊が、夜な夜な徘徊しているんだって! それでね、もし憑りつかれたら……どうなると思う?」


 早く先を話したくてしょうがないのであろう。

 肩を上下させ、見るからにウズウズといった表情で私の回答を求めてくる。

 

 反応を求めずに、さっと話せばいいのにと思いながら、美紀が期待するような答えを口にした。


「ブッブー!」


 違うんかい。


「正解はね! あの世に連れ去られちゃうだって! だから神隠しにあったって、昔の人は騒いだんだって!」


 あの世に連れ去られたって確認もできない話に、正解はないと思うけど、そこは触れないでおいた。

 それから美紀は、昔図書館で起こったとされる、奇妙なうわさ話について話してくれた。


 曰く、人の丈ほどもあるトカゲ蔓延(はびこ)り、図書館に迷い込んだ人を食べてしまう。

 曰く、悪霊に憑りつかれて、呪い殺される。

 曰く、年端もいかない少女に笑いかけられ、死ぬまで笑ってしまう。


 最後は単純に良い話なのでは? と思ったが、美紀的には、少女の幻覚に悩まされて気がふれてしまった、と言いたかったのだろう。

 この子は興奮して喋ると、言葉が足りなくなるのはよくあることだ。

 

「でもねでもね、あの図書館は今年の冬に壊されちゃうんだって」

「へぇー、そうなんだ」

「うん、だから図書館のおばけはどうなるんだろうってうわさになっているんだよ」

 

 先ほどから話題になっている図書館とは、町が運営している建物だ。

 学校から歩いてほどない場所にある。

 

 この土地に住まう華族が、戦前に子供たちの学力向上のために建て、多くの本を寄贈したという。

 中には昔の名著もあり、ここら一帯は戦争被害も少なかったため保存状態が良い、と聞いたことがある。

 

 そうか、あそこ潰れてしまうのか。

 大した思い出はないが、それでも一時期通っていたことを考えると、なんだか寂しい気持ちになる。

 

「でね! 建て壊しに反対していた司書さんと、推進していた市長さんが最近入院しちゃったんだって」

「入院? なにか病気になったとか?」

「それがね、図書館のおばけの仕業じゃないかって話なの。建て壊されるって気付いたおばけが、祟ったんじゃないかって」

「また唐突な話ね。単なる年齢のせいじゃないの?」

「そう思うでしょ? でもね、司書さんの他にも職員まで怪我したり病気になっちゃったりして、そのうちの一人がおばけをみたー! って騒いでいるんだって。それで働ける人がいなくなっちゃって、今日から一時閉鎖なんだって」

「ふ~ん、市長だけじゃなくて職員までってのもおかしな話ね」

「でしょ? だから歴史ある図書館を潰そうとして、祟りがおこったんじゃないかって言われてるの」


 なるほど、確かに妙だ。

 話の流れからすると、図書館の建て壊しに反対した職員が、市長が雇った第三勢力によって圧力をかけられたように思えたが、市長まで入院しているのであれば話は違う。

 立て続けに関係者が怪我や入院をして、一時閉鎖になれば、妙なうわさもたつというものだ。


 私が住んでいる地域は、有り体に言ってしまえば『田舎』だ。

 中学校から家に帰る間にも田園風景は広がり、コンビニも駅の方まで行かないと見当たらない。その代わり、パチンコ屋とラブホテルだけは一定間隔にある。

 

 このご時世だし、みんなスマホを持っているが、今でも地域のネットワークは活きており、町内で出来(しゅったい)したことは主婦の口コミによって広がる。

 うわさ話は、おしゃべり好きなおばさん達によって脚色されて尾びれがつくもの。

 中には不倫話や痴話喧嘩など、聞くに堪えない内容もあるが、地域の人達にとっての数少ない娯楽の1つだ。


 かくいう、美紀もうわさ話に目がなく、母親から聞いては私に教えてくれる。

 いつもは聞き流してばかりだけど、今回の件は少し気になった。


「あら、私も知っていますわ。市長の叔父様が入院したので、うちも大変でしたの」


 声がする方を振り返ると、間宮 晶子(まみや しょうこ)が立っていた。

 その顔を見て特に反応せずに、美紀の方に向き直った。


「相変わらず不愛想なことですのね。声をかけたのにまるで反応しないだなんて」

「あ、私に声をかけたんですね? 別の方かと思ったのでわかりませんでした」

「……ッ! 本当に相変わらずですのね!」


 たかだかこれだけの軽口で、顔を真っ赤にしている。

 晶子は、以前から私に突っかかってくる同級生だ。

 些細なことで感情的になる性格なので、すぐに喧嘩腰(けんかごし)になるのは困ったものである。


 なぜ私に突っかかってくるかと言えば、晶子が好きだった男子生徒をフッたからだ。


 晶子は一年の頃、好きな男子生徒に告白したのだが、見事に撃沈。

 ショックを受けて一週間学校を休んだ。

 しかしなぜか、その男は翌週に私を呼びつけて告白をしてきた。


『俺の女になれよっ!』


 彼にとって最高の言葉だったのだろう。ドヤ顔でそんな告白をしてきた。

 しかし言葉のチョイス、顔もタイプじゃなかったし、あの『俺イケてるだろ?』な表情が鼻についた。


『今のが告白? もう少し相手のことを考えて発言したら?』

 

 不遜な物言いは承知していたが、この点については彼も悪い。いくらなんでも言葉は選んでほしい。

 その言葉に激昂した彼は、私に殴りかかってきたが、横によけながら足を引っ掻けたら、顔から転んで前歯を折った。

 

 前歯と一緒に戦意もなくしたようで、涙目になりながら退散していった。

 晶子はその話を聞いて、プライドに障ったのだろう。

 以降『自分がフラれた相手をフッた女』として、何かにつけて因縁をつけてくるようになった。


「それで、なんなの? 大変だったって」

「市長の叔父様が入院しましたの。もう大変ですわ。急遽うちのお父様が代理を務めて、市長業務を手伝っていますの」

「そう、あなたのお父様は大変なのね」

「そうですの。その図書館の管理も一時的にうちがすることになりましたの。何か事件に巻き込まれないかって心配してますのよ」

「あら、大変だこと。話は終わり? もうチャイムなるし、さっさと席に戻った方がいいんじゃない?」

「話聞いてましたの? 図書館のこと話しましたけど?」

「はい、聞いてたわよ。でも聞いてもいないことを話してると嫌われますよ?」

「……ッ! あなたって人は!」


 そんなことを話しているうちに、二時間目の先生がチャイムと同時に入ってきた。

 席につくよう促されて、晶子も渋々席に戻っていくのが見えた。


「もう! すぐ喧嘩するんだから。こっちが冷や冷やしちゃうよ」

「ごめん、ごめん。今度何か奢るから許して」


 美紀と短いやり取りを済ませ、授業を受けた。

 

 その後の休み時間も、何かつけて突っかかってこようとする晶子を(かわ)しながら過ごし、放課後になった。

 つかつかと近寄ってくるのを察知すると、準備を整え颯爽(さっそう)と教室を出る。

 部室棟まで行けば、帰宅部の晶子は入れないので、近づいてこれないだろう。


 部室前に来て、振り返ると憎々しい顔をした晶子の姿が見える。


 ――それにしても、なんだか今日はしつこいな。

 

 晶子の様子に違和感(いわかん)を覚えながらも、無視して部室に入っていった。

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