婚約者が病弱義妹にかまうのなら、こちらはひ弱令嬢になればいいじゃないか?で婚約破棄令嬢の話
「アリシア、ごめん。ミミリーが病気だ。今日のデートは中止だ」
「そうですか・・」
「何だ不満そうだな。結婚したら家族になるのだ」
ミミリー、ウェーベ様の義妹だわ。
淡いブロンドではかなげな雰囲気の令嬢よ。
ミミリー様がクヌート侯爵家に来てから、ウェーベ様は理由をつけてお茶会やデートをサボるようになったわ。
私に魅力はないのかしら。
「ケリー、どう思う?」
「お嬢様は家庭的なタイプでございます。絶対、殿方は結婚相手に選ぶと思いますよ」
「でも」
「なら、気晴らしに街の占い師に行っては如何ですか?」
「そうね。デートが中止になったのだから気晴らしに街に行くわ。カフェにも行きましょう。ケリーお伴して」
「はい!やったー」
ウェーベ様は分かっているのかしら。
このデートのために、私は一生懸命に時間を作ったのに。
王都は治安がいいわ。
護衛騎士をつけるまでもないと思っていたけれども。
それが間違いだった。
占い師のいる路地に入ろうとしたら、ゴロツキたちに囲まれた。
「ウシシシィ!姉ちゃん。お茶しなーい」
「おら、おら、早く『はい』と返事しなよ」
「とっても良い店を知っているんだぜ」
「お嬢様!お逃げ下さい」
ケリーが必死に庇うけど、だけど、使用人を見殺しにして逃げ出したら家門の名折れよ。
「皆様―!お止め下さい!」
「お止め下さいですって、お止めしないわよ~ん」
「さあ、さあ、面白い・・」
その時、少女の甲高い声が路地に響いた。
「キャー!ハチ、ハチよー!ハチが服に入ったのだからねー!」
え、12,3歳ぐらいの子かしら。ピンクブロンドの平民の子ね。
一生懸命に、背中に手を伸しているわ。でも、届かない。
「おい、おい、ハチがいるのか?」
「何だ。助けてやる・・・いや、ハチに刺されるのは嫌だな」
「と、とにかく逃げよう!」
少女は地面に寝っ転がって、「いやー!」「ハチよー」
と叫んでいたわ。
ピンクのブロンドの髪を乱して地面を転がり回るわ。
「まあ、大丈夫かしら。ケリー、その前掛けではらって!」
「はい、お嬢様!」
スクッ!
ゴロツキたちが去ったら、颯爽と立ったわ。
「あ~、服よごれたのだからね!これに懲りたら、路地に令嬢だけでいかないことね!」
演技だったのね。迫真の演技だったわ。
「「有難うございますわ」」
「お礼を差し上げますわ」
ムンズと手を出して躊躇なく受け取ったわ。
銀貨を陽にかざしてニタッと笑ったわ。
その流れるような所作に私は思わず。
「相談に乗って下さい!」
とお願いをした。
・・・・・・・・
一通り、婚約者が病弱な義妹に構って、私との時間をないがしろにする状況を話した。
「そう・・義妹が病弱なら、貴女はひ弱令嬢になればいいのだからね!」
「でも、私は健康ですわ」
「違うのだからね!体は健康、心は病弱だからね!」
ガーンと何か天啓を受けた。
「弟子入りさせて下さい!」
「あたしは平民サリー、だけどパパは男爵なのだからね。もうすぐ迎えに来るのだからね!その間ならいいのだからね!」
私は年下のサリー様に弟子入りを志願した。
「契約書だからね。1日銀貨1枚三ヶ月だからね!」
「はい!」
まず。サリー様がお手本を見せてくれる。
バタン!
す、すごい。石畳の道で倒れたわ。
「これは、気絶基本型!ひ弱令嬢はすぐに気絶する!」
「ひよわ令嬢はすぐに気絶する!」
「受け身を覚えれば石の上でも平気だからね!」
「はい、受け身ですね!」
まず。公園の芝生の上で受け身の練習をする。
「ミャー!」
「猫先生だからね。挨拶をするのだからね!」
「はい、猫先生!」
「冗談だからね!」
「冗談ですね!」
まずはゆっくり倒れる。
「キャア!」
前から倒れるときは前転をする。手でバシと地面を叩き威力を相殺する。
後ろから倒れる。後頭部を守るのが大事。
左右、横から倒れる。
そして、次は冒険者ギルドの訓練所を使わせてもらう。
土だ。
バタン!
それが終わったら、石畳の上だ。
「ウゥ!」
これも何とか出来た。
次は、走りながら、気絶する技。
サリー様は走りながら倒れる。ダイブだ。
ズドーン!
これも何とか習得した。
「次は、ブリッチだからね!」
「はい、ブリッチとは」
体を背中からのけぞり。アーチ状に体を保つ。手は地面をつく。
「これが出来ればブレーンバスター出来るのだからね!」
「ブレーンバスターですね」
「出来たら教えてあげるのだからね!」
それから、泣く訓練も行った。
「グスン、グスン!ウワ~~~ン!」
これはタマネギを思い出すことにしたら上手く行った。
そして、模擬戦だ。
ケリーが、ウェーベ様の役をやる。
「アリシア様!今日はミミリーの具合が悪いからデート中止な!」
「え、・・・」
ドタン!
背中から倒れる。もちろん、受け身を取る。
「アリシア様!今日はミミリーの具合が悪いからお茶会中止な!」
「そ、そんな・・・」
ドタン!
崩れるように前から倒れる。
そんな訓練を繰り返した。
そして、また、ゴロツキ達にあってしまった。
「ヒヒヒヒ、え~と、数ヶ月前の姉ちゃん」
「俺たち男娼なんだ」
「店に来ない」
私は気絶をした。
ドタン!
ケリーが大げさに騒ぐ。
「キャアー!ゴロツキたちがお嬢様を気絶させたわ!」
「え、そんな。俺たちは・・」
「いいや。とにかく運ぶか」
ビクン。
私は背筋を使って地面を跳ね。宙を舞い上がる。奇襲だ。
この技、倒れても大丈夫なら、相手にぶつかっても良いのだ。
私の体重45キロが武器になる。
「ごめんあそばせ!」
「グギャ!」
一人を頭突きで倒した。
そして、また、倒れて、足を引っかけて転ばす。
「「ギャアアーーーー!!」」」
「フウ、三ヶ月前、怖くて仕方なかったゴロツキを倒せたわ!」
「アリシア様!おめでとうなのだからね!」
「アリシア様、お見事です!」
そして、契約が終わって、サリー様とお別れをしたわ。
上手く行ったら報告に行こうかしら・・・
☆☆☆
今日はお茶会だ。
ウェーベ様は珍しく断らなかったわ。
しかし。
ミミリー様もつれて来た。車椅子に乗っている。
「ゴホン、ゴホ、ゴホ、アリシア様、ごきげんようです」
これは、どうしたものか。
いや、考えるのはやめるのよ。即気絶よ。
ドタン!
「アリシア様!!」
しかし、ウェーベ様はミミリー様を庇った。
「ミミリー大丈夫かい!」
「お義兄様!」
「気をつけてくれよ。ミミリーは病弱なのだから、全く」
そのまま帰りやがった。
「お嬢様・・・!」
「もう、お父様に言って婚約を解消しますわ」
「それがいいですわ」
お父様とお母様に話したわ。
「フム、よからぬ噂を聞いたが、そこまでとは・・」
「ええ、一度、侯爵閣下に話してみましょうか?」
事の顛末を話しに下町までサリー様を探しに行ったわ。
「ヒィ、極悪令嬢だ!」
ゴロツキ達は私をみると逃げ出すわね。どこかに、極悪な令嬢がいるのかしら・・・
サリー様は見つからなかったわ。
何でも、貴族の馬車に乗ったのを最後に目撃が途絶えているそうよ。
それから、ウェーベ様の噂が聞こえてきた。
何でも、ピンク髪のポッと出の男爵令嬢に夢中だそうだ。
「ミミリー様は?」
「それが・・・」
ケリーが使用人経由で教えてくれた。
何でも男爵令嬢がミミリー様の前で、『ハチ!ハチ!がドレスに入った!』と叫んだそうよ。
ミミリー様はハチを恐れて車椅子から立ち上がってダッシュで逃げて、仮病が分かって、いや。
『ミミリーが立ったのだからね!』
と男爵令嬢が叫んで微妙な感動なシーンになったそうだ。
「そんな。サリー様の他に『ハチを取っての型』が出来る方がいるのかしら」
「あ、アリシア様、ウェーベ様が来られました」
「アリシア、悪かった!ミミリーは仮病だった。男爵令嬢と取っ組み合いの喧嘩をして、『ボケ』『カス』とか言うのだ。下町の娼婦の娘だったようだ・・・
男爵令嬢もいなくなった。女の気持が分からない。
君こそが家庭を支えてくれる良妻賢母だよ!今、気がついた!」
「あ、アリシア!」
私は、ウェーベ様の手を取り。脇の下に頭を入れた。
これは、サリー様からならったブレーンバスターの型だ。
「フン!ブレーンバスター!」
「ヒィ!」
ダン!
芝生の上に投げた。
私はブリッチをならったからダメージは少ない。
「婚約破棄ですわ!」
サリー様、どこにいらっしゃるのかしら。もっと技をならいたかった。
いえ、きっと、どこかで悩んでいる令嬢の相談にのっているはずだわ。
大空にサリー様の顔が浮かんだわ。
最後までお読み頂き有難うございました。