九十九戦九十九勝
ん眠い。五月も半分が終わろうとしているこの頃、富士観市の気温は日溜まりのような陽気だ。
ゴシゴシと重い瞼を擦り、その手で欠伸に開く大口を隠しながら俺は瀬和高に登校した。
校庭からは朝練に精を出す学生スポーツマンの方々の気合いの入った掛け声が聞こえてくる。ふとグラウンドの方に目を遣ると、トラックの周りを駆け抜けていく集団が見えた。陸上部か。宝さんもあの中にいるのだろうか。
思い出すのはキメ細やかな短髪と素敵な笑顔。それから連結して森さんとの対話を思い出し、もう一つ。付随する思い出が蘇る。
今日は金曜日。あの日は火曜日だったから、もう三日も前だ。宝さんらを巻き込んで、一条先輩と人生ゲーム対決をしたのは。
結果としては、俺の圧勝に終わった。他のプレイヤーも含めて詳しく順位を言うと、俺、宝さん、二郎、直人の順で、多分、ビリが一条先輩だ。一条先輩と直人の順位だけは、どっちが上だったのか判然としないのだけれど。
というのも、結局あの昼休みが終わるまでの時間に、一条先輩はゴールできなかったのだ。
俺が宝さんと二郎の脇を擦り抜ける形で一位を掠め取った後、二郎と宝さんは壮絶な二位争いを繰り広げた。人生ゲームはぴったりゴールに止まらないと余剰分引き返さなくてはならない。ゴール付近のマスはド派手に金が動くイベントばかりで、何ターンも押し戻された二郎と宝さんは万単位のドルを幾度も豪快に動かし続けた。二人共それまでに積み上げてきた資金が桁違いに莫大だった為、大富豪の豪遊を目の当たりにしているようでとても盛り上がった。お金がどんどん戻ってくる様に鈴木さんが凄く嬉しそうだったのが印象的だ。ゲームには関係ないのだが。
で、金を湯水のようにバラ捲く二郎と、たまに稼ぎ稼ぎ宇宙旅行とかに繰り出していた宝さんの財力が逆転しようとしていた時にようやく直人が決算日に到達。直人はギャンブル以降いい事が一つもなく、後少しの所で借金を返済し切れなかった。人生最大の賭けは失敗。晴れて開拓地送りとなり、五限が始まるまで教室の対角の隅で体育座りになって煤けていた。一応開拓地行きにも全員がゴール若しくは開拓地に行くまでルーレットを回し続けて借金返済に努めるルールなのだが、クラスの女子数人が母性本能に当てられて真心の防壁に直人を匿った為、代わりに仕事がほとんど終わった丸さんが直人の借金返済にルーレットを回していた。勝負の規定に厳しい一条先輩も、あの時は自分のゴールに必死だったのか流した。
その一条先輩は、フリーターにも拘わらず特大のスキャンダルを起こして約束手形の束がさらに嵩み、トドメとばかりにギャンブルへ突入して最早約束手形のカードが足りなくなった。宝さんがやっとゴールし、その直後にただの小金持ちと化した二郎がゴールした後もずっと一人で、負債を増やす為のようなスロードライブを続け、決算日までもう少しというところで昼休み終了のチャイム。悔しいをすっかり通り越した一条先輩はここにきて初めて意気消沈気味に嘆息を吐くと、
「続きは私の教室に持ってってちゃんと終わるまでやるわ。今日は私のクラス四限までなのよ。じゃ、上園恭介。明日こそ勝ってやるから、覚悟しときなさい……」
いつもの捨てゼリフもあそこまで力無いトーンで言われると俺は全然悪くないのに罪悪感に苛まれた。なので、せめて教室までソレ運ぶの手伝いましょうかと申し出たが、「アンタ次授業でしょ」の一言で断られ、人生ゲームの大きなボードを抱えてトボトボと廊下の奥に消えていく一条先輩を見送ったのだった。
一昨日、昨日とまた何事も無かったかのように現れて大型連休明けに引き続き比較的短期決戦の勝負をハイテンションでお届けされたが、あの人生ゲームの最後がどうなったのかについて尋ねる勇気は俺にも二郎にも直人にもなかったのである。まあ、仮に人生最大の賭けが成功したとして、それ一回くらいで完済できる借金には見えなかったから、ほぼ間違いなく開拓地行きでビリ、だったと思うが。
ふー、と自分でもよく分からない溜息を吐いて、俺は昇降口を潜る。
あーもう何で朝からこう気が重い感じになっているんだろう。そうだ今日が終わればまた明日は休みじゃないか。週の最後くらい明るくいこうぜ俺。爽やかな休日を迎える為に。
よし楽しい事を考えよう。そういやあの人生ゲーム、一条先輩の様子はさて置いて、楽しかったよなぁ。宝さんとあんなに開けっ広げに遊べたの初めてだったもんなぁ。あの昼休み以来会ってないけど、また一条先輩が大人数向けの勝負持ち込んで来たら呼んでみようかなぁ。
楽しい妄想を描きながら2-2の下駄箱まで移動し、自分の上履きを取り出す。手を使わずにローファーを脱ぎ――するとカサリと足元に何かが降ってきた。
それの角にチクリと足首を刺され意識を現実に引き戻された俺は、目の焦点をそれに瞬時に合わせる。そしてそれが何かを認識した瞬間、世界が白熱する幻覚すら見える勢いで朝の眠気や直前までのウダウダした気分が全部吹き飛んだ。
それは長方形の真っ白い封筒だった。
「55」
「むぅ、無いわ」
「あ、リーチ」
「なっ!?」
「おー、早いな恭介」
「くっ、次よ! 次! ソコ、早く回しなさい!」
一条先輩に命令され、二郎がハンドルを回す。直人の机に置かれた球状のおみくじはジャガラガジャラと喧しい音を立てて中の物を掻き回し、コロンと一つの玉を吐き出した。二郎はそれを摘み上げ、
「3」
「ダブルリーチ」
「ちょっと! アンタまさか友達だからって贔屓してんじゃないでしょうね!?」
酷い言い掛かりに二郎が嘆息を吐いた。
「ビンゴでどうやれば贔屓できるって言うんですか、先輩」
今日の勝負はビンゴ早上がり対決だ。大型連休以降、三日前の人生ゲームは例外として、短期決戦の小ネタ勝負に方針転換したようだったから今日も短めの連戦をするのかという心の準備で構えていたのだが、一条先輩は特にその辺に拘っている訳ではないらしい。
そしていつものように戦力差は歴然だった。昼休みが始まってからまだ五分くらいしか経っていないが、俺のビンゴカードは真ん中の縦列と斜めに一列リーチが掛かっていて、一条先輩のは中央の他にとても微妙な位置に一個だけ。
ちなみに今日はサシだ。
ビンゴというのなら皆でやるのに適したゲームで、これまでの一条先輩の思考パターンを考えるとクラス全員を巻き込んでもおかしくない。俺は四限終了後カウントする暇も無く召喚した一条先輩の小脇に挟まれていた物を認めたと同時にどう説得するかの草案作成を開始した。のだが、意外な事に一対一で挑まれたのだ。
曰く、「ビンゴはそもそも景品が有るから皆でやると面白いのよ。これは飽く迄私とアンタの勝負なんだから景品なんかないし、そんなビンゴを大人数でやるなんてカードの無駄使い、延いては地球資源の無駄遣いだわ」だそうだ。しっかり二郎と直人は助手に使われているが。
「20」
「ん、無い」
「ホッ。あ、いや! 私も無いわ! ちょっと、そろそろ私にも開けさせなさいよ!」
「そう言われましても」
思わず安堵の吐息を零し慌てて取り繕う一条先輩に叱られながら、二郎は20番の玉を直人に渡す。直人は今まで出た玉を取っておくトレーの20番の位置にそれを嵌めた。転がって無くならないようにする為でもあるし、出た目を確認する為にも使うトレーだ。
ジャガラジャガラとおみくじが回る。
その音を聞いていると、またはくるくる回る球状のくじ箱を見ていると、なんだか意識が攪拌されているような感じがする。こういう待ち一手の勝負は初めてだったっけ……。
……。
…………。
…………――。
「おーい、恭介ー?」
ハッと俺は我に返った。直人が俺の目の前で手をパタパタやっている。そういえば二郎が次の数字を言っていた気がするが……えーと、何番だっけ? いけない、聞いてなかった。
こんな事を今日はもう三回はやらかしちまってる。俺は眉間を揉んで集中力を取り戻しながら、
「あ、ワリ。えーと、何番?」
「86番」
「あー、うん。無い。次いっていいぞ」
「次いっていいぞ、じゃないわよ」
不機嫌な声に振り向く。すっかり定位置として定着した俺の対面で、今日は二郎の椅子に座り偉そうに腕を組んでいる一条先輩は目端を吊り上げ強く俺を睨んでいた。見ると一条先輩のカードにようやく二つ目の穴が開いている。一個目とは然っ全関係無い場所に。
「あ、一条先輩凄いじゃないすか。二個目の穴が開くなんて」
「アンタ今適当に発言したでしょ。ビンゴなんてどんなに当たらなくてもいつかは必ず上がれるようにできてんのよ。寝惚けてるんなら目、覚まさせてやるわ」
ガッ、と下から顎を掴まれる。一条先輩の五指が顎骨と喉の間に喰い込む形で。
「これ、逆に息の根を止められそうな気分なんすけど」
「身の危険を感じて目が良く冴えるでしょ」
「不敵な笑顔でそう言われると、確かに身の危険を感じずにはいられませんね」
このまま顎を外されそうだ。ふん、と鼻を鳴らして手を離し、椅子に戻った一条先輩は背凭れに仰け反る姿勢で俺を斜視。
「なに? 昨日また夜更かしでもしてた訳? ったく、しょっちゅう夜遅くまで何やってんだか。この変態」
「待って下さい。勝手にそういう自己完結しないでくれません? 昨日も俺は普通に十二時くらいに寝ましたよ」
「十二時まで、何やってたんだか」
「一条先輩はどこに結論を持ってきたいんすか……」
口を尖らせて憮然とする一条先輩に俺はガックリ肩を落とす。
「ふん。まあ敵の体調なんて私にはどうでもいいんだけど。アンタ、なんかあった訳?」
「…………、なんか、とは?」
こんな簡単なセリフにも閊えそうになる呂律を何とか回し、俺は横目に一条先輩を窺った。二郎と直人も仄かな緊張を見せて、口を挟んでこない。俺の顔色を一目で見抜くという気持ち悪い特殊能力を修めているらしいこの二人には、詳細は伏せたが、朝に大凡の事情を話している。
一条先輩はガラ悪く瞳を鋭かせ、
「こないだの睡眠不足とは本当に違うみたいだから寝惚けてるのは単にこの陽気になんでしょうけど、それにしたって上の空じゃない。アンタが実力を出し切れない状態なのは好都合だけど、勝負の最中に他の事考えてられるとムカツクのよね。さあ、何があったのか、正直に答えなさい」
「別に、何も無いすよ」
即答で切り返せたのは一条先輩のセリフが長かったからとしか言いようがない。喋っている隙に気を落ち着かせる暇が無ければ言葉に詰まっていただろう。
ム、と顎を引く一条先輩に俺は尤もらしく付け加えた。
「強いて言うなら五月病すかね。午前の授業も集中が途切れて途切れて。板書が遅れちゃって大変でした。それより、ビンゴ、続けないんすか?」
「……ソコ、次」
まだ一パーセントも納得してないんだからねとでも言いたそうな声で二郎に再開を促す一条先輩。それまで固まって一切反応しなかった二郎は短く返事をしてジャガラジャガラとおみくじを回し始めた。隣で直人がとても分かり易い安堵の吐息を漏らしドキッとしたが、一条先輩はそれ以上追及してこなかった。
「このガラクタ! 私を昼休み終わるまでに上がらせる気ないでしょ!!」
一条先輩がガー! という勢いで球状のくじ箱に迫る。物相手に何やってんだこの人はと精神的に一キロくらい引いた俺の視線など全く意に介していない。怒りながら一条先輩は乱暴にギュルギュルとハンドルを回し、スッポ抜けてってしまいそうな速度で飛び出した玉を無駄な力を込めて掴み取る。
「あ~、もう!」
外れだったらしい。セミロングの黒いポニーテールを振り乱して苛立ち、くじ箱の模様が残像で円に見えるくらいの速さで再度ハンドルを回す。最早、中で掻き回される玉の音はカラカラとしか聞こえない。
昼休みが開始してから三十分余り。俺はとっくに上がっていた。いつものように上がるまで続ける一条先輩を、ここ二十分程待ち続けている寸法だ。出た目を互いに確認する必要が無くなり、ただ出た目が一条先輩のビンゴカードに当たってるかどうかというゲームと化しているので、俺が上がってから間もなく二郎は解雇された。
「今の何番だった?」
「90番」
「あぁ、終わっちゃったよ」
バシンと叩き付けられるように玉を受け渡された直人に尋ねると、ここで暇潰しに余りの数字で続けていた俺のビンゴカードは全てが穴になってしまった。
新たに90番の玉を嵌められたトレーに目を遣る。数字はもう残り十を切っていた。ここまでよくビンゴにならないものだ。寧ろこれ、四ターンで上がるよりも逆に難しいんじゃなかろうか。もう、残ってる数字のどれが出てもビンゴになる状態だ。
が。
「~~~~~~~~!!」
バシン! と直人の掌に叩き付けられる玉。また外れらしい。
まあ、でも残り一桁ならもうすぐ終わるだろう。と思っていたら、次がその時だった。
「ん? 99……99……あ、あった! ビンゴよ! ビンゴ! ホラ、見なさい上園恭介! だから言ったでしょ、ビンゴなんていつかは絶対に上がれるように出来てるのよ!しかも99で上がるなんて、これはもう運命と書いてサダメだわ!」
一体何のサダメなんだ? と訝る俺に嬉しそうに、ついにようやく一ビンゴとなったカードを見せつけてくる一条先輩。スゲェ、残り五マスにして、本当に横一列の単品ビンゴしか取ってねえ。
おや? とそこで気付く。一条先輩のビンゴカードには未だ開いていない数字が五つ。トレーを確認すると、残りの数字は――五つ。
「「「…………」」」
俺、二郎、直人の三人は一条先輩を眺める。一条先輩は頑張った甲斐を実感してるのかとても嬉しそうだ。恐らく人生ゲームでは、あれだけ粘った挙句、結局上がれなかっただろうから、それだけに余程のモノらしい。湧き上がる歓喜が堪え切れていない、素直な喜び様に見えてならない。
俺達は一条先輩に気付かれる前に、迅速にビンゴゲームを片付けた。
「あら? いつの間にビンゴ片付けたの? ふーん。アンタ達にもようやく先輩に対する敬意の表し方が分かってきたわね。褒めてあげるわ」
「「「……ありがとうございます」」」
こんなに上機嫌な女の子に、厳しい真実を伝える勇気は、俺達には、無い。いやこの人年上だけど。
上機嫌な一条先輩は俺に先に上がられ勝負には負けているという肝心の部分をさっくり忘れ、満足気にうんうん頷くと徐に教室の時計を見上げた。
「まだ結構時間余ってるじゃない。じゃあ、次は……」
「ビンゴ以外に何か持ってきてるんすか?」
「見て分からない訳? 持ってきてないわ」
と思ったから訊いてみたんだが、見た目通りのようだった。
「ビンゴがこんなにサクサク進むとは思ってなかったからね。普通の人数でやる時はもっと掛かってたと思うけど、数字の確認とか途中の景品受け渡しとかの時間が短縮できるとこんなに違うのね」
「にも拘わらず、終わるのに俺のビンゴ史上過去最長の時間が掛かりましたけど」
「うっさいわね。アンタは勝負に勝ったんだから何でもいいでしょ。これから次の種目考えるんだからちょっと黙ってなさい」
と、形のいい顎に手を当て次の勝負種目を黙考し始める一条先輩。大物をやる気の時は予め用意してくるが、短期戦の場合はどうもその場で考えるのが一条先輩のスタンスのようだ。近頃はこの黙考も、昼休みを使い切る為の引き延ばしみたいな気がしてきているが。
何故ならこれまでやたらと昼休みに丁度良く勝負が区切られる時間配分だったから。珍しく時間配分を間違えたと思われるのは、今日を除けばこの前の人生ゲームくらいだ。だがアレも、宝さん達の乱入がなければ昼休み一杯で一条先輩は開拓地に辿り着いていたのかもしれない。
なんて思考に耽りながら次節大戦種目の決定を待っていると、
「あ……そうか次は……」
唐突に何かを思い出した様子で一条先輩が呟いた。
「一条先輩?」
言い知れぬ何かを感じ取り、俺は一条先輩へ呼び掛ける。
すると一条先輩はすっと真面目な表情になり、信じられない一言を告げた。
「ネタ切れしたわ。だからもうお終い」
「…………は?」
不意打ちで後頭部をガツンとやられた錯覚がした。頭の中が一瞬何もかも掻っ消え、刹那に色んな感情が駆け巡る。
「な――」
二の句が継げない俺の方を見ずに一条先輩は早口で続けた。
「だから、ネタ切れ。今は何も思い付かないから、今日はここまでにしといてあげるって言ってんの。次の勝負は今度の月曜までにちゃんと考えとくから、その時こそ覚悟してなさいよね。今週みたいに寝れなかったとか言って、勝負にならなくなったら承知しないわよ」
「え、あ、はい。分かってます」
コクコク首を縦に振る俺。一条先輩は横目に俺を一瞥すると、力強く胸を張り偉そうに腰に手を当てて自信満々の笑みで俺に向き直った。
「次こそ最後に相応しい勝負を用意してきてあげるから、楽しみにしてなさい、上園恭介!」
高らかに全く情報が開示されていない次回予告を言い切り、ビンゴを脇に携えて一条先輩は帰っていった。大きな歩幅で足早に廊下の奥へと遠ざかる一条先輩を見送りながら、
(くそ、参ったな……俺……)
くしゃ、と前髪を握り潰し、その手を下げて心臓に宛がう。
(なんか……安心しちまってる……)
極度の緊張を強いられた直後のような大きな鼓動が手に伝わってくる。同時に、『最後に相応しい勝負』というワードが頭の中で鐘の音のように反響し、強い焦燥に似た動揺が心の底に蠢いているのを感じる。
どうせあの言葉は一条先輩のいつもの強がりなんだろうが、
(俺は、一条先輩との勝負を……終わらせたくないのか?)
そんな筈はない。俺は毎日毎日勝負を仕掛けてくる一条先輩をさっさと諦めさせる為に勝負してきた筈だ。
自分にそう言い聞かせ、ブレザーの内ポケットに触れる。カサリと紙擦れの音が鳴り、そこにあれがちゃんと収まっている事が確認できる。
『なんかあった訳?』と一条先輩は訊いた。『何も無いすよ』と俺は答えた。
嘘は吐いていない。ただ、全部を言ってないだけだ。
“一条先輩に関係のある事は”、何も起きていない。
ブレザーの内ポケットに、今朝の手紙が入っていようと、その内容がどんなモノであろうと、一条先輩とは何の関係も無い。
俺は、余った昼休みを二郎、直人と無為に過ごし、放課後を待つだけの午後の授業に臨んだ。
現在の勝率:100%