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わたしはパーティーピーポーじゃないんだから一生日陰でひっそり暮らしていきたいのっ!

『階段でガラスの靴が脱げたお姫様は後日、王子様と結婚して幸せに暮らしました』だあ!?

 それだけは絶対に阻止させていただきますっ!


 何を意味の分からない事を言っているのかって?

 慌てるのも当然だよ。

 わたしがその物語の主役になっているんだよ!?


 どうなっているの?

 高校の夏休み初日の朝に目を開けたらなぜか床掃除をしていて義母と義姉に『これから舞踏会に行くからお前は掃除をしていろ』って言われたんだけど!?


 一か月ある夏休みをゲームと動画視聴三昧の幸せ時間に費やそうとしていた陰キャのわたし……

 そんなわたしを心配したお母さんが、推しのオフィシャルカフェにバスと電車を乗り継いで四時間かけて行こうって提案してくれたのに!

 予約までしっかり取ってあったのに!

 このままじゃお母さん(五十三歳)が独りであのオフィシャルカフェに行く事になっちゃうよ!

 耐えられない……

 あの真面目なお母さんが、ちょっぴりエッチな事を言ってくる二次元の彼氏ゲームのオフィシャルカフェに独りで行く姿なんて想像しただけで涙が出てくるよ。

 なんとかして元の世界に戻らないと!

 

 ああっ!

 魔法使いが現れてドレスとかを与えてきた!

 

 いらないから!

 こんなのいらないからっ!

 このままいったらわたしがこの国の王太子妃になっちゃうよ!?


 はぁはぁ……

 興奮し過ぎて感嘆符疑問符を付け過ぎちゃったよ。


 これは夢?

 とりあえず自分のほっぺたをおもいっきりぶん殴ってみたけど……痛かった。

 グーじゃなくてパーにしておけば良かったと酷く後悔しているよ。


 って、そうじゃなくて。

 落ち着くんだよ!

 落ち着け、わたし!


「ど……どうしたんだい?」


 くっ!

 魔法使いが心の底からわたしを心配している。

 当然だよ。

 いきなり自分をグーパンする令嬢なんてこの世界にはいないだろうからね。


 このまま舞踏会に行ったら人生が終わる。

 バスに一時間乗らないと一番近い駅にたどり着けないような『ど田舎』で生まれ育ったわたしが舞踏会に行ったところでダンスなんて踊れないし……

 恥をかくだけだよ。

 

 とりあえず舞踏会にさえ行かなければ王子に会わずに済んで王太子妃にもならない。

 絶対に王太子妃にだけはなりたくないんだよ!

 

 幼い頃から王太子妃になる為に教育を受けていないと……

 はい、明日から王太子妃ね。

 なんて簡単になれるものじゃないんだよ!?

 苦労するのは目に見えている……


 この邸宅では確かに義母達に虐げられているかもしれないけど、三食もらえてお風呂も入れてベットでも眠れているはず!

 わたしの今のこの身体がそう教えてくれているんだよっ!

 元の世界に帰れないのならずっとここに居たい。

 ごめん……

 お母さん……

 オフィシャルカフェには独りで行く事になるかもしれないよ。


 よし。

 このまま掃除を続けて魔法使いの姿が見えていない振りをしよう。

 わたしの穏やかな未来の為に完全無視を決め込むよ!


「あの……大丈夫かい? 打ち所が悪かったのかい?」


 くっ!

 魔法使いが良い人過ぎて心が痛む……

 でも完全無視をしないと。

 全てはわたしの穏やかな未来の為に!


「あぁ……医者を呼ばないと……」


 魔法使いがオロオロし始めたよ。

 かわいそうなくらい顔色が悪くなっている。

 

 ……こんな高齢のおばあさんを苦しめたらダメだ。


「医者を呼ぶ必要はないよ」


 わたしの未来の為に関係の無いおばあさんを傷つけたらダメだよね。


「……え?」


「わたし……お城には行きたくないの」


「どうしてだい? お城に行けば毎日美しいドレスを着て豪華な……」


「そんなのわたしの望む幸せじゃないの! わたしの幸せはそんなパーティーピーポーじゃないの! わたしはガチ陰キャなんだからっ! 日陰でひっそり生きていきたいのっ!」


「パーティーピー……? イン……?」


「とにかくわたしはずっとずっとここから出たくないの! いずれ義姉達は妥協して適当に相手を見つけて結婚して出て行くし、義母だってそのうちお迎えがくるから!」


「……普通に酷い事を言っているねぇ」


「だから……ずっとここに居たいの」


「……困ったねぇ。このドレスとかガラスの靴を作るのにかなりかかったんだよ」


「……え? 魔法で出したんじゃないの?」


「そんな都合のいい魔法があるわけないだろ? 王太子妃になったら返してもらおうと思っていたのに……どうするんだい? 全く……」


「はあ!? 頼んでないし! 勝手にやったんだよね!?」


「昨日までは優しくてたおやかな乙女だったのに……やっぱり打ち所が悪かったんだねぇ。でも、もうドレスもガラスの靴も身に付けたからねぇ。返品は不可なんだよ」


「はあ!? 勝手に魔法で着させたんだよね!?」


「いいから行っておいで。ほら、カボチャの馬車も外で待っているよ?」


「行かないっ! 絶対行かないっ!」


「いいから馬車にお乗りっ!」


 魔法使いが柱にしっかり掴まっているわたしの指を一本ずつ剥がそうとしている。

 くっ!

 なんて力なの!?

 このままじゃカボチャの馬車に乗せられて未来の王妃にさせられちゃうよ!

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