16話、脅迫……いぇ説得中ですがイイですかねぇ?
「当然では無いですかね?だってフェンリルは風の属性を持つ守護者の代名詞を持つ聖獣ですもの」
「……は?それが一体何の関係が?!」
訝しげに聞いて来る彼に説明を試みてはみたが、理解出来なかった様で更に混乱した表情を浮かべた。俺としてはどちらでも構わんので放置したが。
『風の属性』、『守護』。
そして『この世界の者では無い』領主サマ。
この3つのワードを持つ彼がフェンリルに姿を変えるのは自然の摂理だろう。何せそれは別の、俺の居た世界での領主サマの能力そのままなのだから。
俺自身が持つ彼方の神の加護の属性もまた『風』。
しかもただの加護では無いのがミソ。
詳細は省くが、だからこそこの世界での祝福による俺の特“異”能力が“絶対無効化”になったのだ。
血筋の繋がった身内、前の時代からの因縁。
双方の要素が合わさった兄貴ズと領主サマは俺の眷属とも言える関係性を持っている。
犬姿で此方へと来たのは単なる偶然。
その後、俺の魔力でこの世界と馴染ませたら結果として領主サマの元の能力が進化した上でフェンリルとして覚醒した様なモンなのかな?
……とまぁ、それが現時点でのこの世界での領主サマに対する俺の仮説な訳なんですがね。
*****
領主サマを学園へと連れて来るにあたり、彼方のお偉いさんとはそりゃもうそれなりに揉めました。
いくら使役獣とはいえ、そんな存在を過去に護衛として認めた前例は無いとの事。成人騎士の補充だって最初は嫌な顔したそうだし。
けれどもそんな事で凹たれる領主サマでは無い。
『お父様バージョンの領主サマ』は無敵でした。
この国の筆頭公爵家当主で若き宰相。
端から見れば本物のお父様も外側は完全な貴族。
家の中での彼のヘタれ尻敷かれっぷりは最高機密。
それなりに頑張って皮を被ってるの……。
外見そっくりな容貌の領主サマがそれを悪用。
誰一人疑われる事無く学園へと乗り込み、その辣腕を多彩に繰り広げて発揮して諸々の案件を了承させました。いやーお見事ーーッ!!
唯一笑えたのは、自分(獣姿)を派遣するのに自分(人間姿)で交渉を頑張る領主サマの姿。俺の為ならサボりが趣味な癖に能力発揮を厭わず!の姿勢には兄貴ズが頭を抱えてたねぇ。前の時の自分らの苦労を省みたからかも知れんが。
尚、同行した部下の一人に紛れ込んで居たのがシュリ・シュナの父親である伯爵。後で報告して貰う為にもとお母様が笑顔で捩じ込んでおられた。
俺もその報告会には参加しましたよ、勿論。
何せ伯爵は公爵家……では無く『俺』に深い忠誠を誓ってますからね。いや、あの家は一家丸ごとか?
学園への護衛専属騎士の一人は長男のジークフリートさんだし。即座に立候補したんだとさ、はは。
「……いっそ交代させようかしら?」
伯爵からの報告を聞き終えたお母様の小さな呟き。
俺も伯爵も全力で聞かなかったフリをしました。
冗談ですよね、お母様?!?
そもそも誰と誰を交代?!
……って聞かずとも分かるから答えないで!?
お父様が同席してなかったのが不幸中の幸いか?
気持ちは分からんでも無いケドさ。
仮にも貴女の夫をそう簡単に交代させてどーしよーっていうんですか?止めて欲しいわぁ……。
いずれは彼方に帰るんですからね俺達は!?
…………帰れる、よねぇ?!?
*****
そこで話は冒頭へと戻るのだが……。
今、俺が議論しているのは学園の教師の一人。
表向きは使役獣扱いされている領主サマの種族をしつこく聞いてきたので答えたら、過去にそんな事例は無ぇ!と……いゃ実際はもう少し丁寧にだが反論してきたので説明する羽目になった。
数年後に控えた、俺(お嬢様)の本当の入学の際にも連れ歩く予定だからその為の検証も兼ねてるって建前上、学園もなるべく正体を詳細に把握したいらしくそのしつこさはもう凄まじいモノ。
鑑定出来る奴が観れば、領主サマが『フェンリル』である事は直ぐに悟られてしまう。なので最初から此方は全く隠さなかった。お陰でこんな変な絡まれ方をする事になっちゃったみたいで……。
現時点で此方の好意で質問に答えてるんだし。
ってぇかさぁ。
『フェンリル』の生態なんて、専門の学者でもそう詳しくは無い位に稀少な生物なんだよね?一応。
まぁ領主サマの場合はなんちゃってに近いけど。
で、懇切親切丁寧に説明してるのに一向に納得も理解もしやがら無ぇんですがね、この教師!?
要するにこのオッサンの仰りたいコトは、だ。
『いくら使役獣と云えど一般生徒への安全面への配慮が無さ過ぎる~云々~』なんだよね。
だからこそその辺を此方は説明してるのだが。
「風の属性を持つフェンリルは守護者の代名詞を持つ聖獣と申し上げましたでしょ。つまりは対象庇護者に危機が及ばねば安全なんですのよ?」
ちょっとだけ脅しを交えて微笑んどく。
そもそもこの学園が、生徒に余計な真似やら不穏な考えやらを持たずに済むように心掛けさせれば良いだけの話なんだよ、宜しくね?




