4話、何処かの中心で叫んでもイイですかね?
説明って面倒臭ぇ~……です。
「それで、お父様?」
一拍置いてそう呼び掛ければ、俺の呼び掛けにピシッと瞬時に背筋が伸びたこの男性。
これでもこの国の重鎮の一人だなんて、少女の記憶を持っている身で無ければ信じられない。いや、持っていても尚不思議だ。
だって、ねぇ?
いくら心配だったからって、娘の部屋の扉を砕く父親ってナニさ?とまずは言うべきだろうか。
ついでに、少し冷たく呼び掛けただけで起立して硬直して脂汗まで流しながら、棄てられた子犬宜しく此方を見るのもその思いを増長させる。
この子は父親似。
髪や瞳の色、そして顔立ちもそっくり。
…………いや、ちょっと待て。
つまりは女顔家系はそのままなのか?!
衝撃の事実に一瞬呆然とはなるが、その前に遣るべき事を思い出して立ち直れた。危な~……。
*****
「取り敢えず扉は責任を以て元に戻して下さいね」
「木っ端微塵にならなかっただけマシだと思いましょうか。……いえやっぱり思いたくないですわ」
同感です、お母様。
ついウンウンと頷く。
幸い、記憶と同化したせいかこの少女が普段から遣っていた言葉遣いに違和感は感じない。
自分自身では?と聞かれたら違和感満載だけどね。
だってつい先日まで俺オトコノコだったのよ俺!?
しかも妻子持ち三十路!!
それが今は『8歳の美少女』って何の冗談さ?!
つい其処にある広い庭で叫びたくなる。
中心じゃなくてイイから、山びこ居なくて構わないから目一杯叫びたい。ホント心の底から。
ちなみにこの家やたら広い。
別世界で高位貴族だった俺の家も広かったけどおそらくはそれを遥かに凌ぐ。下手すりゃ俺の知ってる領城すら軽く超えてる。
この世界の最大の国の、その頂点に近しい“筆頭公爵家”ならば当然の広さなんだとは思うんだけどだとしても凄ぇわぁ。
……あら、ゴメンあそばせ。
*****
此処で、例のヤツの使い古しの引っ張り回しから来たこの世界の鉄板ネタをご紹介。
~鉄板その1~
悪役令嬢の実家はやっぱり偉い鉄板。
ちなみにその地位は前述記載済みなので省略。
~鉄板その2~
悪役令嬢の婚約者はやっぱり王族だぞ鉄板。
側室腹で第一王子で婚約者の地位で王太子になれたって部分もやっぱり鉄板。
~鉄板その3~
悪役令嬢はやっぱり学園にも通う鉄板。
貴族だけでなく平民も通う、「身分の上下を問わない(建前)」が信条なのもやっぱり鉄板。
他にも捜せば有るが、挙げたらキリが無いので大雑把だとこうなる。それとも全部聞く?おそらくは一晩は懸かると思うけど。
……止めとく、と。うん正解だね。
*****
ところで立て板に水なお母様。
彼女も当然だがモノ凄ぇ美女。
いや、美女、つぅより美少女?
目ェ瞑って声と口調だけ聞けばしっかり者な姉御肌を想像するが、その実像は想像からはかけ離れてもはや正反対な庇護欲誘う愛らしさ。
小柄でウル瞳の小動物を思わせる容姿。
ギャップ萌えと言う言葉は有るが、その言葉を以てしても納得いかないとしか思えまへんのですわ。
……とまぁ言葉が乱れる程度にはこのお母様の外見と内面はかけ離れ過ぎだと思うの。
現在8歳の少女な俺と並んでも母娘じゃなくて姉妹にしか見えません、いやマジで!!
ちなみにだが外見は長身スラリで女顔でもそれなりイケメンな父親と並んで一緒に歩いたら?
悪くて「あぁ犯罪者?!」か。
良くて「仲の良い親子で」か。
この2択かと思われます、ハイ。
現実目の前で並ぶ二人の姿を目の当たりにした俺の感想はコレのみでしたよ、以上。
*****
鉄板だらけなこの世界。
でも家族に関してはそうじゃないのかも知れない。
むしろそうとしか思えない。
思わなければやってられんかも知れんが。