39話、敵前逃亡企ててもイイですかね?
「貴様!何故此処に居る?!」
「……街道と休息場は公共の場でしてよ、殿下」
今日はとことん運が悪い日らしい。
内心でそう項垂れながらも取り出した扇で顔の下半分を隠しながら毅然と言葉を返す。
そもそもそれは此方の台詞だ。
仮にも腐っても第一王子がその辺彷徨くな!!
俺に向かって行儀悪く指を差しながら怒鳴りやがった第一王子。森からの散策の帰り道、街道横に設けられた休息場に寄ったのが運の尽きか。此処はちょっとした広場になっていて馬車を止めたりも出来るので旅人だけでなく色んな者が利用する。
乗り心地最悪な代物なだけにほんの少しの休憩をと寄ってみたが、こんななら尻の痛みを我慢してでもサッサと帰るべきだった。ちくせう!!
にしても、人を指差してはいけませんって一般常識の筈なんだけど教育担当は一体ナニを教えてるんでしょうかね?とつい思う。教えてないだけか教えられても覚えないだけか。まぁ後者だろうが。
いや待てよ。
確かこの馬鹿の周囲は馬鹿母の馬鹿人事で固められていたっけ。王族の努めの一環でかなり早い年齢からの教育が始まりはしたが、この馬鹿に関しては歴代の優秀な人材が初期で纏めて匙を投げたと聞く。
翌年に生まれた王妃の子供二人は同じ方針が施され、此方は揃って見事に期待に応えている。ちなみに馬鹿母はそれが気に入らないらしく国王に泣きついたそうだが、実はこの教師陣は先代王肝煎りで王族専門。国王すら頭が上がらなかったりする。
なので結局国王も泣き寝入りして終わったとか。
でまぁその優秀教師陣に見棄てられたこの王子。
なので今教えているのはその馬鹿母の手配した輩なのだからどんなレベルかは察しの通り。世辞と忖度の入り乱れた状態に違いないきっと。
平民のお子様すら実生活で自然と身に付けるであろう一般常識を学び放題な王公貴族が何一つろくに学ばない。国に生かされ税金で成り立つ贅沢生活だからこそ学ばねばならぬのに、だ。
本当に碌でなしのクソ王子である。
「くぅくぅぅん?(喉噛みきってイイ?)』
『どうせならアソコ噛みきってやれ、領主サマ』
『手ぇ滑ったフリして刀で切るのもアリだな』
『気持ちは分かるけどバッチイから止めなさい』
念話は他には聞こえない。
お陰で護衛二人+一匹は言いたい放題だった。
なので窘めながら注意したら、アルが一番酷い事言っている!と反論された、解せぬ?!
ホントに今日は運が悪い……。
*****
「婚約者が居る分際で男を二人も連れ歩くとは貴様非常識にも程があるな、恥を知れ」
「公爵令嬢が一人で出歩く方が余程非常識でしてよ。この二人はわたくしの護衛ですし侍女もきちんと伴って居りますわ。そう見えないのでしたら殿下、神に願って目の悪さを直して頂いては?」
「……可愛げの無い女だなっ!!」
兄貴ズには10代の少年姿になって貰っている。
言葉通り世間の誤解を防ぐ為だ。
高位貴族は基本的に一人で外出などしない。
女性なら年齢を問わず同性の侍女を連れ歩く。
自身の身繕いの為の要素もかなりデカイけど。
呆れを隠さずについでに皮肉れば直ぐに真っ赤な顔で喚き散らす。どうでもイイけどそんなにそっくり返って喚くと背中から転ばんかね?どうせならソレ目撃して指差して爆笑してやりたくなるぞ。
人を貴様呼ばわりする時点で程度が知れる。
そんな輩でしか無いんだから怒りは抑えて!!
平然とした顔で馬鹿と相対しながらも、横から流れて来る冷気と唸りに背筋に大量の汗が滲む俺。
「くくぅん?くぅん?(婚約者?聞き間違い?)』
『それは後で話すから、ね?』
『そうそう、後でじっくり……』
答えられない俺に代わって兄貴ズが懸命に領主サマを宥めている。後で幾らでもフォローするから!と目線で伝えれば微かに頷き安心する。
…………いや、出来んかも知れん。




