朝一番に掴んだ物を大切にしろと夢の中でお告げがあったので、ラッキースケベで掴んだ幼馴染みの胸の感触を大切にします。
夢の中で巨大な大仏様みたいな奴に「朝起きて、一番に掴んだ物を大切にしなさい」と言われた。あれだ。これはわらしべ長者のあれだ。
朝、うっかり歯ブラシとかドアノブを掴まないように、ずっと拳を握り締めているが、トーストが凄い食い辛かった。
「佐原。傘、差さないの?」
幼馴染みの美由紀が不思議そうな顔をした。
そこそこ雨降りの中、傘も差さずに登校しているのは俺だけだ。
「差せないんだ」
「ふーん」
ふーんで済むくらいなら聞かないで欲しい。と、言うか相合い傘とか色々として欲しい。手が離せないから割と切実に。
──ツルッ
「──おおっと!」
水たまりで足が滑った。
思わず手を広げバランスを取った。
──むにっ
「あ」
「っ!!」
俺の右手は明らかに柔らかいナニを掴んでいた。美由紀の乳だ。ラッキースケベとやらは突然に、だ。
「不可抗力!! よってセーフ!!」
ラッキースケベあるあるのビンタやぶん殴りを回避すべく、先制言い訳。これで美由紀も納得してくれるだろう。
「それでも殴るッッ!!」
──ボゴォッッ!!
「ゴワッ、ハァッッ!!」
言い訳ごと殴られた俺は思い切り右頬を殴られ、気絶した。
「大丈夫?」
保健室。俺は熟女先生に手当をされた。
「奥歯がグラグラします」
「抜く?」
「止めて下さい永久歯です」
「酷いようなら病院ね」
「はい」
保健室から教室へ。その間にも頬は痛い。
「どした、その顔」
友人の田村に心配された。どうやら俺の頬は尋常じゃないくらいに色が変わっているらしい。
「不可抗力で美由紀の右乳を掴んでしまった」
「詳しく聞こうか」
両肘を机につき身構える田村。
「感触は? サイズ感は?」
「ノーコメント」
夢のお告げ通りに、大切にすることにする。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」
田村がバグった。
「友人である俺に教えてくれないとか、ありえるのか?」
「知ってどうする」
「……ただ嬉しい」
「正直者め」
「うん!」
にっこりと笑う田村。どうやらコイツは田村で間違いないようだ。
「でも教えない」
「そんなっ!!」
今度はぶすくれる田村。乙女か!
「助けてくれ美由紀ぃ! 佐原のウンコマンが美由紀の乳の感触を教えてくれないんだぁ!!」
「よりにもよって本人に助けを求めるなアホ!!」
泣きながら美由紀に擦り寄る田村。離れろこら。
「思い切り殴ったのに……腹いせに教えなかったの?」
「無闇矢鱈と広めるものじゃないからな」
格好良いこと言ったが、夢のお告げ通りにしただけだ。なんてことはない。
「佐原……私が悪かったわ。やっぱり本当に不可抗力だったのね」
「美由紀……」
「ゴメンね。痛かったでしょ?」
美由紀の柔らかい手が、俺の頬に触れる。
「佐原! 一万円やるから教えてくれ!!」
「めっちゃ柔らかかっ──ガァッ!?!?!?!?」
言い終える前に、俺の口の中から奥歯が飛んでいった。