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50.家族だった

「二人とも、本当にごめんね。私の父と……継母が、迷惑をかけて」

「何言うの! お二人とも被害者なのでしょ? 大体、もしお二人に悪意があったとしても、マリアンナが謝る事なんて一つもない!」

「ああ、迷惑だとは思っていない。それに、悪いのは侯爵たちだろ」


 それに私も迷惑かけたし、と言うエレナと、さすが王城で出るお菓子はうまいな、とクッキーを頬張るマイク。本当にいい友達を持てたな、と思わず涙腺が緩みそうになる。

 しかし、どれだけ気にしていないと言われても、やはり二人には、お継母様のことやお父様のこと、そして、エレナの身に起こっていたことはきちんと話すのが筋だ。


「結局、父と継母は離縁したわ。父は継母に、『恵みをもたらすものを燃やし尽くす赤の瞳は、女神に厭われている。今のままでは、マリアンナは不幸になり、マリアンナを生んだ者の魂も永遠にさ迷ったままになる。助けるには、女神に愛された青の瞳と番う他はない。その為には、邪魔な者を排除させなければいけない』と洗脳されていたそうなの」

「そんな……」

「……マリー、後で僕から説明しておこうか?」


 私の口から、お父様とお継母様の話をするのは負担が大きいと心配してくれたのだろう。アレクシスが、代わりを申し出てくれる。


「ううん、大丈夫。きちんと私から話せるわ」


 アレクシスに心配をかけたくなくて、笑顔をみせて答える。自分の家族の話なのだから、私が話すべきだ。


「継母は、実は侯爵の傍にいたキイナという女の人の姉だったの。その姉妹の一族は洗脳魔法とか、精神干渉するような魔法を研究していたらしくて。キイナという人が一族の後継者だったらしいけれど」


 それが昔に禁忌とされた魔法で、排斥された一族の末裔だった、とは言えない。その禁忌魔法の存在が世間に知られたら、必ず悪用しようと狙う人が出てくる。それならば、なるべく知らない方がいい。


「継母は、妹のキイナほどの魔力はなかったから侯爵の遠戚のアドラム子爵に嫁いだけれど、私の母が亡くなって、母と交流のあった継母は侯爵に目を付けられてしまったの。アドラム子爵とは離縁させられて、子爵と幼い息子さんと引き離されたらしいわ。そして二人の無事と、息子さんへまともな教育を施すこととの引き換えに、ロッテンクロー伯爵家に後妻として嫁がされた……」


 継母は、決してお父様のことを『あなた』などとは呼ばなかった。『旦那様』という呼び方も妻としておかしくないので特に疑問には思ってはいなかったが、継母の中で、きっと伴侶はアドラム子爵だけだったのだと思う。


「それは……いつ? 私の存在を知ったのが先、なのかしら……?」

「私の母が亡くなったのが先なのだけれど、侯爵がエレナのことを見つけたことをきっかけに、企みを思い立ったキイナに唆された形ね。……結局、侯爵もキイナに半分操られた状態だったみたい。侯爵の野心は本物なんだろうけど。魔力さえあれば、自分は今頃王位ついていたっていうのは……」


 そして、キイナの動機は、『色持ちの魔力が本当に手に入るか、知りたかったから』という探求心からだそうだ。それでもし力が手に入ったら儲けもの、くらいで考えていたらしい。悪気がなさそうなのが侯爵よりよっぽど恐ろしい、と感じる。


「そう、私が、きっかけなの……」


 事の始まりが自分であるのが気になるのか、目を伏せるエレナ。言い方が悪かった、と反省をする。


「もちろん、我が家の事情もありきだから、本当にきっかけに過ぎないけれどね。エレナは、ただお母様を助けたかっただけだわ」

「……そうね。私が気に病んでも仕方ないか!」

「そうだ。悪いのは、侯爵たちだからな。彼らは、エレナ嬢を使って僕を篭絡させ、マリアンナを唆して僕と引き離そうとした。僕とマリアンナがこのまま結婚してしまえば、手が出せないと思ったのだろう。エレナ嬢は、自分の手の内にあるから、僕とマリアンナを落としてからでいい、と考えていたところに、エレナ嬢が手の内から逃げて行ってしまった」


 私の話の続きを、アレクシスが引き取って話してくれる。エレナとマイクは、神妙な表情で、アレクシスの話を聞いている。


「そして、半分、自棄にもなり、一番攻撃性の高いマリアンナの力さえ手に入れば、どうとでもなると思ったのだろう。エレナ嬢を餌に、マリアンナの父君やカリサ殿を使ってあの凶行に及んだ、というのが事の次第だ」

「……私は、結局ただ、いいように利用されてしまったのね……」


 エレナが、眉根を寄せて、悔しそうに呟いた。


「お前のせいじゃない。……みすみす攫わせてしまった俺のせいだよ」


 マイクも、アレクシスに託されていた分自分を責めていたのだろう。まだ生徒の身分だから、と言っても、きっと気休め程度の慰めにしかならない。


「全て、王家から出た膿だ。言い訳で言えば、僕たちはまだ学生。言い訳できるうちに経験を積み、守れるようになればいい」

「……はい、精進します、殿下」


 マイクは、しっかりとアレクシスの目を見て力強く頷いた。アレクシスに信頼の置ける人が増えて、私も嬉しい。これから学園を卒業しいずれ王となるアレクシスに、信用できる人が周りに増えていってほしい、と切に願う。


「そういえば、思い出すのもおぞましい命令があのとき聞こえたんだけど、あれって、本当のことなの……?」


 エレナが思い出したように、カップを口に付けつつ、アレクシスに聞いてきた。いつの間にか敬語が抜けている。


「ああ、色持ちの目を……って言っていたらしいね? 全くの事実無根だよ。王族として保証する」

「なんだ、良かった……! そうよね。冷静になって考えたらどういう構造? って思うものね!」


 エレナが気になったそれは、私ももちろんアレクシスに聞いた。事実無根、というのは本当らしく、当時の、魔力の譲渡や与奪を研究されていたとき、一人の若者が提唱した話が、真実のようにねじ曲がって伝わってしまった結果らしい。

 つまりは、記憶を抹消する必要もない与太話。それがきっかけで、長い年月の後に大騒動に発展してしまったのである。

 多分、その若者もこんなことになるとは思ってなかったと思う。おじいちゃんが孫に、悪ふざけで怖がる話をしちゃったのが、孫がいつまでも本気にしちゃっていた、みたいなことだ。たぶん。


「お継母様……カリサさんは、今はどうしているの……?」


 私がお継母様を慕っていたことを知っているエレナは、気遣うように聞いてきた。


「情状酌量もあって、三年間、修道院での奉仕になったわ。アドラム子爵と、息子さんに会えるのは……もう少し先になる、って……」


 お継母様は、愛する夫と息子を守りたかっただけなのだ。どれだけ会いたいだろう、辛かっただろう、と思うと、胸が痛くなる。


「……手紙はやり取りできるように取り計らっておいたよ、マリアンナ」


 そんな私の手を取って慰めてくれるアレクシスは、最初は私をだましていた形になったお継母様に憤慨していたが、私の気持ちに寄り添って計らってくれた。


「……ありがとう、アレク」


 お継母様は、私が辛いときに寄り添ってくれたことは事実で、それに救われたのも事実で、最後には私を庇おうとしてくれた。勝手に諦めようとしたとき、お母様が私に伝えられなかったことを、代わりに私に諭してくれた。

 お父様は、私のため、と言われて操られた。私を庇い、泣かないで、と慰めようとしてくれた。



 バラバラだったけれど、この数年間、歪な形だったとしても私たち三人は、確かに家族だった。

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました。

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