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46.陰湿とか、そこまで言う?(アレクシス視点)

 もうすぐ学園の授業が、終わる時間だろう。

 だが僕は今、地方の視察のため朝早くから城を出て、たまに休憩を挟みつつ長い時間馬車に乗っている。

 その身体が固まってしまいそうなほどの長い時間をどう過ごしたかと言うと……反省をしていた。悶々と、延々と。


「はあ……さっさと言っておけば良かった。最悪な形で知られた。くそ、言うなと命じていたのに、命令違反……いや、そもそも僕がマリアンナに言っていなかったのが一番悪いんだ。責任転嫁だな」

「まあ、命令違反には違いないですけどね。見習いなので、失敗を考慮した命令を下さない方にも責任はありますよね」

「何だユアン、ずっと無視していたくせに」

「ジメジメと鬱陶しいんですよ、いい加減」

「……今は辛辣な言葉が身に染みるよ……」


 馬車の中は、一人ではない。今回の視察は、側近候補のユアンに帯同してもらっている。


「慕っている継母に心を許すな、って言えずに陰湿にも手紙を隠して、そのままずるずる言えなくなっちゃったって、確かに情けないですよねえ」

「言えなくなった、というか言おうとしたら邪魔が入ったりして、タイミングが……僕だけが悪いんじゃ……」

「まあ、マリアンナ様も盲目的になっていましたよね、何でも話してほしい、とおっしゃいましたが話したら話したでお怒りでしたし」

「当然だろう! 支えてくれた人の裏切りなんて、信じられないに決まっている! それを考慮して、傷つけないよう伝え」

「伝えて想像以上に傷つかれて、過去にマリアンナ様が一番弱っていたときに、忙しさにかまけ支えられなかった後悔とそこまでマリアンナ様の心に棲みついている人への嫉妬に苛まれるのが怖かったんですよねえ」

「……う……でも一番はマリアンナがショックを受けてしまうことが心配で……」

「はいはい、分かっておりますとも。さ、気合入れてください! 早く終わらせて帰りましょう。今度こそマリアンナ様のお力になってくださいね! ずるずると延ばすとますます気まずくなりますよ」

「そうだ、そうだな。終わったことを延々後悔しても仕方ない」

「悶々と、ジメジメとね」

「ジメジメはやめて」


 ユアンに発破をかけられ、気合を入れなおす。

 今回は、ただの視察ではないのだ。

 今、向かっているのは、ドールベン侯爵の直轄の領地である。視察自体は、新たに構築中の転移魔法の、固定転移地の途中経過が目的である。転移魔法は、大きな魔力と高い技術が必要な為扱える者はほんのわずかしかいない。それを、補充された魔石さえあれば転移魔法が展開される固定の場所を作る事業を進めている。それは、知識とそれを応用し、展開させられるだけの実力を持つ者が時間をかけて魔法陣を構築していて、かなりの時を要する。

 侯爵の領地でそれが順調に進んでいる、とのことで激励を兼ねて視察に向かっている。

 と、いうのが表向きの理由である。


 もちろんドールベン侯爵の……敵の懐に入るのだから、ただ視察して終わるわけにはいかない。

 侯爵には、先々代の国王の時代に禁じられた、禁忌魔法を秘密裏に研究している疑惑があがっている。

 当時、禁忌に指定されていた魔法は許可のない使用こそ禁じられてはいたが、研究は続けられていた。しかし、研究者からそれを悪用する者がおり、下手をすれば国家転覆にもつながるようなことを企んでいた。そのため、先々代国王は研究ごと廃止することを決めた。

 真っ当に研究を続けていた者に関しては、国王自らその禁忌魔法の一つである記憶抹消の魔法を全員に施した。

 しかし、それは禁忌魔法に関する全てを抹消するには、完璧ではなかった。

 一部の魔法は記憶に残ってしまったのだ。しかし、それ以上施すと他の一般的な魔法や対象者の個人的な事柄に関する記憶にまで影響する恐れがあった。

 結局、重大な事態を招くほどの魔法は抹消されたことが確認されたため、そのまま解放され臣に下った王兄に引き取られていった。

 そして研究資料もそのほとんどが灰になり、ごく一部の資料のみ、王とその冠を継ぐ者のみが入れる書庫にひっそりと眠っている、というのが事の顛末である。


「侯爵が、その一族の子孫を使ってその禁忌魔法を利用している、との情報が入ったわけだが」

「でも、記憶()()ではなく、記憶()()なんですよね?」

「そうだ。だから思い出すこともない。残っているといえば、一時間だけ相手の自分に対する好感度を操作する方法とか、長くは続かない催眠術に近い洗脳術、あとは、ごく一部の研究者の夢物語みたいな実現不可能な研究くらいだ」

「洗脳術……は、優れた魔法の使い手ならば悪用されかねませんね」

「そうなんだ。今でも催眠療法は医療の目的ならば使用を許可している。当時残した記憶もそれと同じレベルの魔法だと聞いているのだが……」

「何か新たな情報か証拠が見つかるといいですねえ」

「なんで他人事なんだよ」


 軽口を叩きながらも、着いてからのことをユアンと打ち合わせていると、まだ目的地には到着していないにもかかわらず、馬車が止まった。


「殿下、申し上げます」

「……どうした」


 それは、先立って侯爵の領地に潜入捜査していた者だった。本来は現地で報告を受けることになっていたが、ここまで引き返しているのは緊急の報告ということだ。


「侯爵本人は、領地のどこにもいません。侯爵のご令息が迎える準備をしているようです」

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