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39.私では太刀打ちできません

「それに、今回は、そんな話をしたかったんじゃなくて、ただただお話ししてみたかっただけなの! 噂によると、マリアンナちゃんはもちろん、エレナちゃんも、いい人がいるって聞いたわ! わたくしは恋バナが聞きたいのよ!」

「え! なあにそれ! それを先に言ってよ! 聞きたーい!」


 王妃様の言葉に、エレナの首がぐりんと動いて、目を見開いてこちらを向いたので、私は必死に手と首を左右に振った。

 言ったの、私じゃない。断じて違う!


「ああ、生徒会の面々にはバレバ……うっすら勘づいているみたいね?」


 仮に、本当に生徒会にバレ……うっすら、生徒会がエレナとマイクの微妙な今の雰囲気を察しているとして……。

 えっと、それで、どうして王妃様のお耳に……?

 アレクシスが王妃様にそんな話をわざわざするとは思えない。

 えっと、そうすると、それ以外に……。

 深く考えないでおこう。深くは考えず、今後も気を抜かずに生徒会でも邁進していこう。


「マリアンナ……」


 弱弱しい声で、助けを求められても、エレナ。


「ごめん、力不足だ……諦めて。大丈夫、悪いようにはならない……はず」


 この二人の猛追を止める術を、私は持ち合わせてはいないのである。



◇◆◇



「そうだ! 他の殿方の存在を匂わせるのはどうかしら!? 焦るかも!」

「いいえ、悪手ね、それは! こじれる原因よ。それより、服装のテイストや色味をいつもと変えてみるとか、普段しない表情をしてみるとかどう? さりげなく触る、とかも有効だけれど、はしたないといえば、はしたないから、私から堂々とおすすめするわけにはいかないわね」

「なるほど……なるほど! そういう技術があるのですね! 勉強させていただきます! マリアンナ、今度練習につきあってくれる?!」

「エレナ様って、その純真さでよくお兄様をおとそうしていたわね」

「……変に小細工するより、言葉で伝えた方が、誤解なく伝わると思うけど……」

「マリアンナちゃん、小細工は女の武器よ? もちろん、小細工なしの真剣勝負も大事だけれど、小細工をたくさん隠して渡り歩く女性はいっぱいいるの。こっちが素手じゃ不利な時もあるの」

「「な、なるほど……!」」


 これは、どうしたらマイクがエレナを異性として意識するかという会議である。

 最初は、好意さえ認めようとせず、必死に違う話題を振ろうとしていたエレナだったが、王妃様とロザリア様の社交術に適うはずもなく、認めないうちにこの会話に持って行かれた。これでは、好意を認めたも同然である。


 恋愛話が盛り上がるのに、年齢は関係ない。

 気が付くと、いい時間になってしまっていたので、このお茶会は本当に恋愛話だけで終わりを迎えた。


「若い子たちの話がたくさん聞けて、若返った気分だわ! ありがとう」

「本当だ、お母様、心なしかお肌がぷるぷるになった気がする」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました! 楽しいひと時を過ごせました!」


 最初の緊張した小動物とは打って変わって、ころころとした可愛らしい笑顔で話せるようになっているエレナ。


「エレナちゃんもいろいろと複雑な立場だけれど、困ったことがあったら、マリアンナちゃん伝いでもいいから、言ってちょうだいね。表立って助けることができない時もあるけれど、できる限り力になりたいわ」

「あ、ありがとうございます……! あの、王妃様のありがたいお言葉を胸に、治癒魔法も精進いたします!」


 お茶会の概ねの内容は、正直に言えば、城下町のカフェに行けば、そこかしこで聞けそうなありふれた話だった。

 王妃様はそれを通して、この関係性を作ることが真の目的だった、という気もする。それは、王妃様の優しさとも思えるし、色持ちであるエレナと、王族の繋がりを強める為とも思える。

 おそらく、両方なのだろう。私も見習うべき姿勢である、と思う。



 こうしてお茶会は解散し、私は部屋へ戻った。

 最近、出ていく予定も無くなった私のお付きに、アナに加えて新しい侍女を付けてもらっている。と言っても、私はまだ王太子の婚約者、というだけなので、ベテランを何人もつけてもらうほどの地位にはない。

 その折衷案、という訳ではないが、新人の侍女のメアリを付けてもらったのだ。


「あの、マリアンナ様、ご実家からお手紙が届いています」

「え、てが……」

「メアリ! それは渡しては……っ」


 王城に住み始めてから、手紙は一度、届いたきりだった。驚いて受け取ろうとした私と同時に、珍しく焦った様子のアナが声を上げた。


「あ……そうでした……! 申し訳ございません!」


 メアリは、慌てて手紙を引っ込め、私に向けて謝ったらいいのか、アナに謝ったらいいのか分からない様子で、どちらへともなく頭を下げた。


「……アナ? どういうこと? それ、その字、お継母様からよね?」


 先ほど、ちらっと見えた、宛名である私の名前を記した文字は、見覚えのあるお継母様の筆跡だった。


「……いえ、大変申し訳ございません。……王妃様宛の手紙と、見間違えてしまいました。失礼いたしました」


 アナは、心なしか、いつもよりも固い声で、平生を装ったように謝罪をした。


 ――アナが、そんな見間違いを……それに、万が一、間違って王妃様宛の手紙だったとしても、そこまで焦る必要はないはず。私が、勝手に王妃様宛の手紙を開けるような粗忽者とは思われていない、と自信が持てるくらいの関係性は築けているつもりだ。


「……アナ、本当の事を言って」


 お継母様から私宛の手紙を止めるような人なんて、限られている。


 ――言ってくれたら、良かったのに。検閲くらいは仕方がないと分かるわ。それを、黙って。


 何でも言う、って、言ったのに。


 私の問いかけに、アナは口を開かない。


「いいわ。あなたが口を割った事実を作るわけにはいかないものね」


 アナが悪いのではないのだから。


 ……ねえ、そうよね?アレクシス。

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