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33.恐れているのか、なめているのか

 結局、日は改めずに、人払いした上に防音魔法をかけ、そのまま話す事になった。


「そうか……。エレナ嬢自身は、ドールベン侯爵とは接触はないものと思っていたが、発現の時に会っていたのか……」


 アレクシスが続けて話すには、国王陛下をはじめ、王族の方々もエレナの発現を知ったのは、公表の二か月ほど前だったらしい。

 以前、エレナが侯爵と出会った、と言っていたのは、公表から約一年前。

 その空白の期間は、ドールベン侯爵もリントン男爵も、王家へ報告をせずに黙っていた、という事になる。

 

「あの……リントン男爵家は、代々侯爵家に仕えていて、侯爵領の一部の管理を受託している……と、聞いています。だから、父はまずドーベルン侯爵の指示に従う、と思います。何かにつけて、侯爵の機嫌を気にしていたし……」


 そう話して、エレナは目の前の紅茶で一口分だけ、喉を潤した。私たちは、黙って続きを待った。


「……私は当時、訳も分からず、必要な事だから、と急に男爵家の屋敷に軟禁状態になって、教育を受け始めました。母にも会わせてもらえず……。ある程度、教養が身に着かないと公表もできない、と言われて、疑問に思う余裕もなく、頑張っていたら母に会わせてもらえる、と信じて……頑張らなかったら、母がどうなってしまうのか、怖くて……大人しく従っていました。……王家に報告されていなかったから、あんなに一歩も屋敷の敷地から出してもらえなかったんですね……」


 そこまで、黙ってエレナの話を聞いていたアレクシスが、口を開いた。


「ドールベン侯爵とは、それ以来面識はあったのかな?」


 エレナは、アレクシスの問いに、首を振ってこたえた。


「いえ、父から、侯爵のお気に召すように、とか、侯爵の機嫌を損ねないように、などと言われてはいましたが、私が直接お会いしたのは、最初の時だけです。私は、男爵の屋敷から出してもらえなかったし、侯爵が男爵家に訪問していたのは、たまたまで、あの時だけの本当に特例だったみたいです。あれ以来は、見かけた事もありません。……私が、侯爵について知っている事は、これくらいなんですけど……」


 アレクシスは、顎に手をやって、少し考えるそぶりを見せてから、口を開いた。


「……エレナ嬢は、最初は寮に入る予定だったのだよね? それについては、何か聞いている?」


 そうだったのか。そういえば、前世の、この世界の物語では、ヒロインのエレナは、確かに最初から寮に入っている設定だった。もう既に、本来のストーリーからかけ離れている為、それを思い出す事も無くなっていた。


「そうなんですか? 寮に入る話は、知らなかったです。男爵家に住み始めてすぐ、小さな屋敷から、大きい屋敷に引っ越したんですけど、それが、私が学園に通う為の下準備、って言っていたのは覚えています。その時に、使用人と、護衛が一気に増えたな、っていう印象があるので」

「そうなんだ。私たちも、男爵家に、色持ちを危険にさらさずに保護するのは難しいだろう、と思って、寮の警備体制を見直して、寮に迎え入れる準備を進めていたのだが……男爵に突っぱねられてね。男爵家も、護衛を増やして、エレナ嬢の警備体制も整えたようだから、それ以上強くも言えずに、男爵に任せたのだが……やはり、ドールベン侯爵が関わっているのだろうな」

「だと思うんですけど……私の話だけじゃ、確信持てないすよねぇ……」

「……そうなんだよねぇ……」


 エレナの口調につられたのか、アレクシスまで力の抜けた声で嘆く。

 エレナは、学内夜会の件もあって、どこかアレクシスを怖がっている節があるが、それと同時に、どこかアレクシスをなめt……フランクに接する時がある気がする。


「エレナ、そういえばお母様は大丈夫なの? 今の話じゃ、あまり、会えていなかったようだけど」

「うん……新しい屋敷は、奥様もいたから、前の小さな屋敷で暮らしてたみたいで、たまにしか会わせてもらえなかったんだけど、治療院に入院してからは、大分良くなってきたみたい。……会えなかった間、どんな風に過ごしていたかは、教えてくれなかったけど……」


 最後、声のトーンを落としてそうエレナが答えた。

 エレナも察するところはあるのだろうが、お母様が話さない、と決めたならば、詮索するのは無粋だろう。


「そう……快癒するといいわね。元気になられたら、お会いしてみたいわ」

「……うん、私もマリアンナをお母さんに紹介したい!」


 エレナが、花が咲いたような笑顔を向けて言ってくれた。やはり、仮にもヒロインを張る子って、可愛い。目に星を宿している。

 自然と、私もにやけた顔になってしまう。


「マリー、エレナ嬢……それから、マイクも。この三人には、信用して話す。ドールベン侯爵には、気をつけて。侯爵が、どんな人材を持っていて、どんな手を使ってくるか分からない。だから、接触してくる人には、無害そうな人でも、気を付けて」


 アレクシスが、私とエレナ、マイク一人ひとりと目を合わせながら、言葉に力を乗せるように、慎重にそう告げた。


「承知しました。心して守ります」

「はい。私も護身術ならいます」

「いや、そういうことじゃないと思うぞ。それも大事かもしれないけど」

「……何が?」


 アレクシスへ真剣に返答した後、声を落としてまた掛け合いを始めた二人をよそに、アレクシスが、何か言いたげに私を見てきた。


「どうしたの? アレク……?」


 アレクシスは、ためらったように、目線をさ迷わせてから、口を開いた。


「……だれが、信頼出来て、誰が……裏切っているのか、まだ分からない。マリー……、本当に気を付けて」


 こんなに歯切れ悪く言うアレクシスは、珍しい。


「もちろん。何かあれば、小さな事でも相談するって約束する」


 安心して欲しくて、私はなるべく伝わるように、まっすぐアレクシスの目を見て、誓う。


「……家族よりも、僕を信じて……」


アレクシスが、とても小さな声で呟いたので、前半部分が聞き取れなかった。


「……え? ……うん、アレクの事は信じてるわ。でも、何よりも、って言ったの?」

「……エレナ嬢よりも、って言ったんだよ。二人があまりにも仲がいいから、つい妬いてしまった。今のは忘れて、マリー」


 そういったアレクシスは、私だけに見せてくれる、いつもの優しい笑顔だった。

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