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32.私の覚悟は

「君は……、あのあからさまなトラブルメーカーとしての振る舞いは、わざとやらされていた、と思っていたけれど、認識違いだったみたいだね。君には、正真正銘のお騒がせ娘という称号を私から贈ろう、おめでとう」


 アレクシスとのデートで、私が久しぶりに行きたい、と話していた、『アンの雑貨』。

 ここは、その目的の場所……の、三階にある、こぢんまりとした応接室である。

 デートのはずだったのだが、今、ここにいるのはアレクシスと私だけではない。


「あからさまなトラブルメーカー!? ……あ、はい、ごめんなさい。……でも、だって」


 言い訳を始めようとしたエレナを、青筋を立てたアレクシスがじろりと睨む。


「……はい。ごめんなさーい……」

「俺も……いや、自分にも非があります。申し訳ありません……」


 エレナと並んでソファに座り、肩を落として謝っているのは、この『アンの雑貨』をはじめ、手広く商売をしているレイガー商会の三男、マイク・レイガーだ。


 あのとき、私が駆けだそうとしたちょうどその時、アレクシスが、エレナとマイクの二人を連れて戻ってきたのだ。


「マイクが悪いんでしょ! いきなり背後から肩を掴むから!あれで悲鳴あげない人なんていない! あんなのアレクシス殿下でも悲鳴あげてる!」

「お前が狭い道をフラフラ歩いてるからだろ!? 目立つ自覚くらいちゃんと持ち歩け! そろそろ! 色持ちの身だしなみだろ!?」

「そんな身だしなみ知らないもん! 昔はよくここも通ってたけど、別に目立ってなかった! だから大丈夫だった!」

「だから、それは瞳が発現していなかった頃だろって! 今は一人でフラフラ出歩くんじゃねえよ!」

「一人じゃありませんー、ちゃんと護衛もつけてもらってますぅー、許可とりましたあー」

「おま……っ」


 この、エレナとマイクの痴話げんかのような言い合いを、バックグラウンド・ミュージックにして。


「うるさい。一回黙って」


 無の表情で、一言でBGMを停止させるアレクシス。アレクシスがこんなに直接的な物言いをするなんて珍しい。それだけ、二人に気を許し始めているのかな、とこんな時に考える。


 ……。


 え。


 ……え。


 …………え?


それで…私の、覚悟は、どこへ持って行けばいいのだ?


ピンチに陥った、ハジメテノオトモダチ、ドコー?


いや、無事で本当に何よりなのだけれど。心身ともに元気に言い合いをしているエレナで、本当に良かったのだけれど。


「し……し、心配するじゃない!!!!」


 これに尽きる。無事で良かった。


「あ、マリアンナ……? マリアンナまで心配させちゃった!? どうしよう、ごめんなさい! 何もなかったの、普通に歩いていたら、突然肩を掴まれたから、びっくりしちゃって……ごめんね……」


 心配はしたが、エレナもびっくりしただけ、との事なので、一概にエレナのせい、という訳ではない。


「ううん、何事もないのなら、良かった」

「……僕にも同じくらいの熱量で謝ってくれてもいいと思うけど……まあいい。行動範囲に制限をかけすぎるのは窮屈だとは思うが、なるべく、考えて欲しい。馬車で乗り付けるなり、歩くにしても、護衛に加えて、一応マイクも連れて行くなりしてくれ。君が望んで今の立場にいる訳ではないのは重々承知だが……もう、昔とは違う」



 アレクシスは、組んでいた足を正して、エレナに向かって口調を穏やかにしてそう諭した。

 勝手に自由を制限する事に、後ろめたさがあるのだろう。

 しかし、それは、エレナ自身を守る事でもあるのだ。


「……はい。自覚が足りなかったです。王家の方々や、国に守っていただいているからこそ、今、こうやって心も体も損なわずにいられる事、承知しております」


 エレナは、それまで背けていた顔をアレクシスの方に向けて、まっすぐ目を合わせて言った。

 その言い様に揺らぎはなく、エレナが本心から言っている事が窺える。


「……何か希望があれば、できるだけ心を砕こう。些細な事でもいい。……マリーの、大切な友達のようだからね」


 その言葉には、王族として国の為に言っているだけではない、という意味が含ませているのだろう。

 私と、エレナが友達だから。


「ありがとうございます」

「まあ、とりあえず次はマイクを連れて行くと良い。いつでもいいから」

「あの、自分まだ学生だと思うんですけど」


 アレクシスに一喝されて、しゅん、と大人しくなっていたマイクが、アレクシスの暴論に、控えめに抗議の声をあげる。


「マイクが一番、エレナ嬢を心配しているだろう?その方が、マイクの心の安寧の為にも良いと思うよ」

「なっ……べ、別に俺は……」

「いつまでも、手のかかる妹とでも思ってるんでしょ?どうせマイクは」

「どうせってなんだよ」


 なんだか、このままでは痴話げんかのような、夫婦漫才のような言い合いが再開する気がする。


「あ、そういえば、ねえアレク、知ってた? エレナって、この前私たちが王宮で会ったドールベン侯爵と、エレナの発現が公表されるよりもっと前に、会った事あるんですって。私は同じ色持ちでも公表のタイミングで知ったけど、アレクはドールベン侯爵と同じタイミングでエレナの事は知っていたの?」


 それは、エレナと、アレクシス、ついでにマイクが揃って同じ部屋に腰を落ち着けていたから、話題転換に口にした事だった。

 少しだけ、エレナの話を聞いて引っかかってはいたが、特にアレクシスに詳しく尋ねてみようと思っていた訳ではなく、エレナとアレクシスがいたから、それだけの理由だった。


 ああ、知っていたよ。


 そんな返事が返ってくるだろう、と考えるでもなく予想していた。

 しかし、その予想は当たらなかった。

 アレクシスが、すっと微笑みを浮かべ、王太子の仮面を付けたように見えた。

 それと、多分、顔色が変わった気がする。それは些細な変化で、なんとなく、だけれど。エレナとマイクには分からない程度の変化だ。

 それほど、重要な情報だったのだろうか?


「……その話、もうちょっと詳しく聞きたいな。マイク、この部屋の周り、人払いってできる?店の邪魔になるなら、場所を変えて……いや、それだとデートが……邪魔になるなら、日を改めて」


 しかしアレクシスの中では、顔色は変えても、情報<(小なり)デートだったようだった。


 うーん、それってどのくらいの重要度か、さっぱり分からないです。

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました。

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